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Chain30 再び隙間を見せてしまう



 この時から、きっと俺たちの歯車は狂い始めていたんだね……





 「……て、……きて」


 誰かが俺に話しかける。それでも俺はまだ目を開けずに、眠りに集中していた。

 「琉依クン、起きて! 朝よ」

 その声がいつも聞く君の声ではなく、綾子サンの声である事に思わず目を開けて飛び起きる。そこには、当然君ではなく綾子サンが居て部屋も昨夜まで居た部屋ではなく綾子サンの部屋だった。

 「あ、そっか。俺……」

 そう言いかけた俺に、綾子サンは塞ぐようにキスをしてきた。よく見ると、俺も綾子サンも何も羽織ってはいない。

 俺の体から離れた綾子サンは、笑みを見せると

 「おはよう、昨日は眠れたかしら?」

 んな訳ないじゃないですか。そう思いながらも、俺はとりあえず頷いてみせる。

 あぁ、思い出した。昨夜は、君との事があって部屋に戻りたくなかった俺は綾子サンの部屋に泊めてもらったんだ。そして……


 何だか恋しくて、綾子サンを求めたんだ……


 そんな俺に対して、綾子サンは何も言わずそれに応じてくれた。君と関係を持つようになってからは他の女性と関係を一切持たなくなったが、久しぶりにそれを破った俺の心は何度も綾子サンを求め続けた。

 「それにしても、琉依クンって歳の割には結構上手いのね〜」

 着替えながらそう言う綾子サンは、ベッドから降りると洗面所へ行ってタオルを持ってきては俺に渡す。それを受け取ると、俺もまた脱ぎ散らかした服を拾っては着替え始める。その間に、綾子サンはメイクを始めていた。

 「まぁね、これでも結構早いうちから社会勉強は始めていたからね」

 「あら、そうなの? でも、私好きよ。貴方のテク」

 それはどうも……と綾子サンにお礼を言うとベッドから降りて彼女の傍に行く。そして、背後から彼女を包むように抱き締める。

 「琉依クン?」

 「俺も……初めてかもしれない」

 君以外で、こんなにも自分から求めた女性なんて……。体の相性だけでなく、綾子サンといると本当に心がホッとするんだ。

 「ほら。もう行かなきゃダメなんでしょ?」

 「ん〜? でも俺、綾子サンと一緒に居る方がイイかも」

 綾子サンの首筋にキスをしていると、それを制するように綾子サンが俺の頭を軽く叩いた。

 「ダメよ? 仕事なんだから、プロらしくちゃんとしていらっしゃい!」

 意志を曲げない綾子サンに参った俺は、惜しみながら彼女から離れると靴を履いて上着を持つと

 「それじゃあね……」

 まだ座ったままの綾子サンの頬にキスをすると、彼女の返事を待つ事無く部屋を後にした。

 今まで色んな女性と関係を持ってきたけれど、それはあくまで“情事の一期一会”という一夜限りの物だった。けれど、綾子サンとはもう一度会ってもいいかな……いや、会いたいなとも思えた。

 君に頼らなくても、綾子サンが傍にいれば……とも思ったし。


 「けどまぁ、もう夏海には頼れないかな……」

 昨夜の君の俺を見る表情に、シオンの視線。冗談とは思っていたが、シオンは本気で君の事が好きらしい。だから俺が追いかけないことを確認すると、迷う事無く君の元へ駆けて行ったのだから。

 リカルドの時と同じムカムカした気分は、今回こそ誤解ではなくなるのかも知れない。そうすると、俺は君から離れないといけないね。


 ――――


 『昨日、あれからどうしたの?』

 撮影の合間に俺の隣りに座ってきたシオンが、少し低めの声を出しながら尋ねてくる。そんな事を聞くって事は、昨夜俺が部屋に戻らなかったって事を知っているんだな。

 『一晩中、歩き回っていたよ』

 それが何? 適当な嘘を吐いた後、俺はそう言うとシオンの方を少しだけ睨んだ。シオンはそんな俺の方を見ると、少し笑みを見せて

 『昨日ね、あれから俺は夏海に想いを伝えたんだ』

 やっぱりと思いながらも、意外と早い展開に少し驚きながらもシオンの続ける話を黙って聞いていた。

 『そしたらね、俺振られちゃったのよ。“ごめんなさい”って』

 『えっ……?』

 この沖縄に来てから、シオンと君は本当に仲が良く笑っている時も長かったから、君は今度こそシオンに想いを寄せているかと思っていたのに。

 『夏海がね言うんだよ。“今、とても手のかかる子を抱えているから好きな人を作れる状態じゃない”って』

 手のかかる子……? 手のかかる……俺? 君がそんな事を、彼に言ってたなんて。

 『俺さぁ、結構マジで夏海の事好きだったんだけど〜、どうやらその“手のかかる子”に負けちゃったみたい』

 そう言うシオンの目は、俺の方を見ていた。それは偶然ではなくて、確実に何かを悟った目だった。


 『……それは、俺じゃないよ。それに俺は、夏海の事好きじゃない』

 苦笑いを見せてそう言うけれど、シオンはそんな俺の言葉など真に受ける事無く適当に頷いている。そんなに説得力が無い俺の言葉は、確かに震えていたかも知れない。

 君とはもう離れなきゃと思っていたから……だから綾子サンと一夜を共にしたのに、そんな君がまだ俺を理由にシオンの想いを断るなんて。

 そんな事されたら、俺は君にとって重い存在だと感じてしまい、また君から離れたくなる。折角、元の幼馴染みに戻れたと思っていたのに、俺はそんな君を見ているとまた……鬱陶しくなってくる。

 『俺は、夏海を好きじゃない……』

 シオンにそう吐き捨てると、俺はその場から立ち上がって一人になれる場所を探しに歩き始めた。


 “誰かに取られても知らないよ?”


 いつの日か、リカルドに言われた言葉が急に蘇っては駆け巡っていた。

 いいよ、別に。その方が俺は……楽になれるから。



 そう、この時はまだそう思えていた……




 こんばんは、山口です。

 せっかく仲良くなったと思えば、再び距離を置き始めてしまいました。大学生編では、深い絆を見せ付けていた二人でも過去にはこんな事があった訳です。

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