Chain29 招いてしまったすれ違いは
俺の方から“また会える?”と聞いたのは、彼女が初めてだった……
「あ〜! またタバコ吸ってる!」
本日の撮影も無事に終わり、先に部屋で休んでいると君が入ってきて開口一番に叫ぶ声に俺は無視してタバコを吸い続ける。
「もう! ダメじゃない! アンタ一応まだ未成年なんだから」
「社会勉強は早めにしておく物なんです〜!」
怒りながら俺からタバコを取り上げる君だったが、俺はそう言って反論すると再び君の手からタバコを奪い返す。それでも怒っている君の顔をジーッと見ていると
「な、何?」
少しだけ警戒しながらそう言う君を見て、俺はハ〜ッとため息をつく。やっぱり君とさっきの彼女とは違うなぁ……。
大人の女性だった綾子サンは、話をしていた時も目を逸らす事の無いくらい常に大人の色香を見せていた。それをまぁワザとではなく、さりげなく見せてくるから周りの男共も何回か見ていたっけ。
それに比べて君は……まぁ、今後を期待しようかなって程度。こんな事でギャーギャー怒っているくらいだからなぁ。
「うるさいよ、夏海。俺、かなり疲れているから寝させてよ」
そんな君の説教に耳を塞いで、俺はタバコを灰皿に置くとそのままベッドに横になって君に背を向ける。それでも君はまだ納得行かないのか、ブツブツと文句を言っていたけど……。
――――
しばらく眠って目が覚めると外はもう暗くて、時計を見ると九時を指していた。部屋が静かな事に気付いた俺は、辺りを確認したがどこにも君の姿は無かった。
「少し、悪いことしたかな……?」
そう思いながら、部屋を出て君を探しに行く。まだ完全に覚めていない為、目を擦りながら歩いていると
「あら、琉依クン?」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはさっきの水着同様色気のある服を着た綾子サンが立っていた。
「あ、綾子サン? どうして、此処に? って、此処に泊まっていたんだ?」
「そうよ。だって、あのビーチはここの所有している物でしょ?」
まぁ、そうだわな。心の中で納得しているそんな俺の腕を、綾子サンは掴むと
「“また”会えたから、これからどう? 美味しい物でも食べない?」
そう言って俺の顔を見てくる。まぁ、さっきまで寝ていたから夕食もまだだし、どうせみんなは食べに行っただろうから……っじゃなくて!
「あ、俺探している人が……」
「あ〜お腹空いた〜! 中華でも食べたいなぁ〜」
俺の言葉など無視して、綾子サンは俺の腕を掴んだままそのままズンズンと進んでいった。まぁ、君の事だから暁生さんと一緒に居るだろうから大丈夫か。そう納得した俺は、綾子サンに連れられるままホテル内の中華料理店へと入った。
「ん〜、美味しいネェ! ほら、育ち盛りなんだからたくさん食べなさいよ!」
テーブルの面積を余す事無く置かれた料理に満足している綾子サン。それにしても、この抜群のスタイルのどこにこれだけの量が入るのだろうか……。次から次へと口の中に入れていく綾子サンに圧倒されながら、俺も空腹を満たせる程度の量を口に運んでいた。
「それにしても“いつでも会える”って、こう言う事だったんだね」
ビーチで会っていた時点で、綾子サンはまた会えると確信していた訳だ。綾子サンはそんな俺の質問に笑顔だけ返した。
「でも、まさか本当に会えるとは思わなかったわよ? 貴方は忙しい身だし、私はただの休暇で来ている訳だからね」
そう言って、綾子サンは休む事無く箸を持ってはエビチリに進めていく。そんな半分はオンナを捨てているであろう綾子サンの事を、俺は決して嫌いではなかった。
彼女といると、自分の心もすっきりしているから。
――――
「あ〜! 食べた、食べた!」
豪快にビールを飲んではお腹を叩く綾子サンを、俺はまた楽しく眺めていると綾子サンが何かを思い出したのかポンッと手を叩く。
「そう言えば、琉依クンって誰かを探していたんじゃなかったっけ?」
……あっ! 綾子サンとのひと時でうっかり忘れていた、君を探す事。ふと傍にあった時計を見ると、既に十一時を過ぎていた。いくらなんでも、部屋に戻ってるしそれに今度は君が俺を探しているんじゃ……。
「ごめんなさい。私も一緒に探すわ」
綾子サンはそう言って席を立ち上がると、そのまま会計の方へと足を進めていく。その後を追いかけた俺だったけど……
「あっ……」
支払いをしている綾子サンを入り口で待っていた俺の視界に入ったのは、息を切らせて立っていた君の姿と隣りにいたシオンだった。
「琉依、こんな所……」
「お待たせ、琉依クン。さぁ……って、あら?」
君が言い終わる前に会計を済ませた綾子サンが出てくる。そんな彼女の姿を見た後、俺の方を振り向いた君は酷く落胆したような表情を見せていた。
「夏……」
「なんだ、ナンパしてたんだ。じゃあ、先帰ってるね」
俺の言葉を遮るように君はそう言うと、その場から走り去って行った。視線はそんな君の方を向いているが、動かない足を見てシオンが隣りにやって来る。
『追いかけないの?』
シオンは落ち着いた感じでそう尋ねてきた。そんな事聞かれたら、この足も余計に動かなくなる。
『別に、俺が追いかけても仕方が無いでしょ? 何ならシオン、お前が行けば?』
意外とあっさりと出てきたこの残酷な言葉は、シオンだけでなく俺をも驚かせた。シオンはそんな俺にため息を見せると、頷いて
『言われなくても。あぁ……それと夏海はね、君が居なくなったから心配して俺やアレクにも協力を頼んでずっと探し回っていたんだよ?』
そう言い残すと、俺の方を少し睨んでからすぐに君が去った後を追いかけていった。そんな風に言われた俺は、ただ呆然とその場で立っていた。
「琉依クン?」
そんな俺の傍に来た綾子サンは、あれだけの出来事で俺の今の心情を理解できたのであろうか? それからは何も言わず、ずっと俺の隣りに立っていた。
「ねぇ、綾子サン……」
「何?」
一度俺は深くため息をつくと、綾子サンの方を振り返る。そして、そのまま綾子サンの方に頭を預けると
「今夜、綾子サンの部屋に泊まっても……いい?」
あんな顔した君と、一緒の部屋には居られなかったから……
こんばんは、山口です。
この作品を読んで下さり、本当にありがとうございます! なかなか時代の流れが進みません(まだ、15歳なんです〜)が、頑張って執筆していきますのでどうぞよろしくお願い致します!