Chain28 ビーチで出会った彼女がきっかけで
出会いが、すぐそばまで来ていた……
「じゃあ、一旦休憩を取ります〜」
二日目の撮影はテーマが“食”というだけあって、今日はずっと沖縄の美味しい料理やデザートをかなり食べていた。もともとそんなに食欲旺盛でない俺は、事前から心配していた通りかなり胃が疲れていたが……
『え〜っ!? 俺はまだ食べれるのに〜!』
痩せの大食いというのか、シオンはどうもこっちの企画にはかなり向いているらしく苦しさの表情をまったく見せてはいなかった。
アレクはと言うと、彼もそんなに食が細い訳では無いが結構苦しいらしく傍で横になっていた。
『シオン……、お前の胃の素晴らしさには誰もついていけないから。ちょっと休憩させて?』
俺はそう頼み込むと、そのままビーチへとふらつきながら歩いていった。本当は部屋で休むのもいいけれど、海でも見ながら休んだら結構楽になれるかもと思っていたのだ。
けれど……
「やっぱり、部屋で休むべきだった……」
そう超極細声で呟く俺の周りには、これでもかと言うくらいの若い女性がキャーキャーと集まっていた。中には、マダム系統からおばあちゃんまで……
これが胃もたれしていない状態だったら、ホント嬉しいんだけどなぁ……。どれにしようかってくらいウハウハな気分も、今はその歓声がかなり鬱陶しく思ってしまう。
「あれってぇ、モデルのルイだよね?」
「や〜ん、すっごいカッコいい〜!」
褒めていただけるのは本当に嬉しいけれど、出来れば今は静かにしていただける方が助かるのですが……。
「どうする? 写真一緒に撮ってもらっちゃう?」
「今は仕事中じゃないからいいよね?」
そんな話し声がだんだんと近付いてくる。あぁ、やっぱり部屋で休んでおけばよかった。
はぁっと、諦めたその時だった。
「ごめ〜ん、待った?」
「えっ?」
そう言って俺の傍にやって来たのは外見からして恐らく年上の女性。彼女は俺にジュースを渡すと、隣りに座ってくる。
何が起きているのか分からない俺と周りのオンナの子達だったが、即座に状況を把握すると笑顔を見せて彼女の肩に手を回すと
「アリガトウ、イズミサン!」
適当な名前を付けて感情など込めていない台詞を言うと、そのまま彼女に笑顔を見せ続ける。そんな俺たちを見て、やっと状況を把握してくれたのか周囲に居たオンナの子達も口々に何かを言い始めている。
「やだ! 彼女居たの?」
「て言うか、年上じゃない?」
いや、それは彼女に失礼だから……。そう思いながらも俺は精一杯の笑顔を見せては彼女に話しかける。そんな俺に、彼女もどう言う訳か応えてくれていた。
しばらくして、やっとざわついていた周囲も静かになりオンナの子達も居なくなったのを確認すると、俺は回していた手をどけた。
「えっと、どなたかは存じ上げませんがアリガトウございました」
年上なので、改めて姿勢を正して彼女に向き合うと軽く頭を下げてお礼を言った。彼女は豪快にジュースを飲み終えると、こちらを見ては
「いいえ、どういたしまして。何となく困ってた感じがしたから、もしおせっかいだったらごめんね」
彼女は日焼け止めクリームを渡してくると、俺に塗るように促してくる。まぁ、世話になったしかなりの美人さんだからいっか。
「あぁ、それと私の名前は“イズミサン”じゃなくて綾子サンですから」
「そんなの、いきなりだったんだから分かる訳無いでしょ?」
当たり前の突っ込みに、俺もまたムッとしながら答える。そんな俺の表情を見ると彼女は満足気に笑っていた。
「ふふ。いくら有名モデルでも、まだ子供なのねぇ」
「人をガキ扱いしないで下さいよ?」
彼女がからかってきた事で再びムキになって反論したが、それでも俺は彼女に対して嫌悪感は抱く事は無くむしろその人格が面白くて興味を持ち始めていた。
―――――
「へぇ、それじゃあ綾子サンは一人で沖縄に来たんだ?」
「そうなの〜。九月から仕事が始まるからね、それまで少しくらいは息抜きしたいなぁって思ってさ」
それからも他愛ない話で彼女と楽しい時を過ごしていた。最初は周りの目をごまかす偽りの恋人だった彼女は、今では友人のように気軽に話が出来た。
「仕事って、何しているの?」
「白衣の天使さん!」
看護士かぁ。こんな美人看護士がいる病院なら、自ら入院希望してくる男もたくさんいるだろうなぁ……そう思いながら同時に彼女の白衣姿を想像してみる。
「うん、いけるわ」
「何言ってんだか、この子は」
勝手に想像して納得している俺を見ていた彼女は、俺を指で突きながらも優しく微笑んでいた。
「ルイ〜! 再開するぞ〜!」
遠くから聞こえてくるアレクの声で、俺たちの会話が止まってしまう。そんなアレクの仕打ちに、軽く舌打ちしながらも俺は立ち上がってホテルの方へ向かう前に彼女の方を振り返ると
「また、会える?」
その言葉に彼女は大人の笑みを見せながら
「ええ、いつでも」
そう言って、俺に手を振って見送っていた。そんな彼女に俺は笑顔を見せると、そのままホテルの方へと走っていった。
ただの挨拶代わりで言ったこの言葉。それが後に俺の心を掴んで放さなかった……。
こんにちは、山口です。
今回もまた新キャラ=綾子サンが登場しました。彼女はリカルドのように、結構長く登場させていくつもりです。