Chain26 波乱を呼び起こす旅の始まり
愛情なんて……俺たちには必要ないよね?
「えっ!? 沖縄?」
久しぶりに来た君の家で、俺は暁生さんと真琴さんと話をしていたのだが……
「そう、沖縄! いいでしょ? 雑誌モデル同士で沖縄に行ってお得な情報などを紹介する特集を組むんだって」
書類を見ながら真琴さんは説明していく。三泊四日での計画で、その間に他の島も含めて色々な店を巡ったり食べたり遊んだり……と、まぁ普段の撮影よりかは気を抜いて取り組めるのはいいよな。けど、問題は……
「それで、この特集に参加するのが琉依とアレクとシオンね」
どうして野郎ばかりなの! 確かにメンズ雑誌ではあるけれど、ここは一人くらい華があってもいいでしょう? それなのに、何が悲しくてむさくるしい四日間を過ごさなくちゃいけないのか。
「アレクもシオンも偉く乗り気だから、まぁ素の自分を見せて取り組んで頂戴ね!」
はぁ。ガックリと肩を落としながらも、とりあえずは頷いた。まぁ、暁生さんも撮影スタッフとして同行するから、向こうに居る間は暁生さんと語り明かそう!
「私も行くよ?」
「えっ!?」
二階に上がって君の部屋での君の意外な発言に、思わず俺は驚きの表情を見せて叫んでいた。
「だって、今回の沖縄行きは遊びのようで仕事なんですよ? それなのに、どうして……」
「うん、だから私は自腹で行くのです! だって、沖縄って行った事ないし」
そんな我が侭が通用するなんて……。どうせまた、暁生さんに向かって瞳を潤ませながらおねだりしたんだろうけれど。ホント、暁生さんも娘ラブなんだからなぁ……。
「でもね、部屋は琉依となら一緒でもいいって!」
「俺って、かなり信頼されているのね……」
だって、普通ありえないでしょ? そんな可愛い娘が、いくら昔からの知り合いといっても男の俺と同室っていうのは無いでしょ? けどまぁ、暁生さんならやりかねないよな……。K2の親友ってだけあって、少々変わっているから。
「でも、そうだね。かえってそっちの方がいいかもしれないねぇ」
そう言うと君の肩に手を回す。その言葉がどういう意味を表すのか察知した君は、少しだけ顔を赤くしてはちょっとだけ睨んでくる。
「ホントは、そういうつもりで来るんでしょ?」
高校生になってからは更に関係を持つようになった俺と君。そんな俺たちだったからこそ、こう捉えてもおかしくは無いよね?
「……バカ」
傍から見るとまるで恋人同士のいちゃつきに見えるかもしれないが、不思議なほどこの間には愛情は含まれてはいなかった。
「ルイ〜! この荷物運ぶの手伝って〜!」
階下から聞こえる真琴さんの声で、重ねていた唇を慌てて離すとそのまま部屋を出て階段を降りて行く。
この沖縄への撮影も、君のお陰でそんなに退屈しなくてすむかもね……。この時はそう思っていたけれど、まさか旅先であんな事が起こるなんてこの時は微塵も思いもしなかった。
「そして……どうしてこうなる訳?」
打ち合わせしてから一週間後、俺たちは沖縄に向けて出発した訳だが……飛行機の中で俺の隣りに座っているのは君ではなくて……
「別にいいじゃん! 交流を深めるにはもってこいじゃない?」
ニコニコと笑顔でそう話すのは今回の企画で一緒になったモデルのアレク。“アレク”はモデル名で実際は日本人だからもちろん日本語もペラペラなのだが、どうもこのノリは誰かを連想して苛立ちも増してくる。
「どうせ交流を深めるならまだ夏海の方が良かったんですけど?」
「仕方無いじゃん! 夏海は……」
俺のぼやきにアレクはそう言うと、後ろを振り返る。その先には、君と一緒に笑いながら話しているシオンの姿があった。
「ねぇ? 夏海はシオンに取られてるんだから、我慢しなよ〜」
このシオンはイタリア人とのハーフで、その血が濃い〜のか知らないが君を喜ばせるのがとても上手く、さっきから君の事を笑わせてばかりいた。
「それとも、ルイも夏海の事が好きとか?」
「んなわけねぇだろ? 俺、しばらく寝るわ」
え〜っと叫ぶアレクを無視して、俺は後席で賑やかに話しているシオンに遠慮なく座席をリクライニングするとそのまま目を瞑った。
『ち、ちょっと、ルイ! 少しは遠慮してくれよ!』
そんなシオンの文句など聞こえない振りして、無視を決め込んだ俺はやはり子供だったのか?
こんな風に始まった俺たちの沖縄への旅は、機内の中だけではなく現地でもまた波乱が待ち受けていた……。
こんばんは、山口維音です。
この作品を読んで下さり、本当にありがとうございます! 今回から始まりました“沖縄編”で初登場のキャラはアレクとシオン。シオンはK2を連想させて琉依からは少し嫌われています……。サブタイトル通り、これから先どうなるか楽しみにして頂けると嬉しいです。