Chain23 君のぬくもりが当たり前のように感じていたから
今思うと、あの時に俺はロンドンへ行っておけばよかったのかもしれない……
「はぁ、それでK2とアリサちゃんの二人だけでロンドンに行ったんだ」
最後まで納得する事無かったK2を母さんが無理矢理ロンドンに連れて行った翌日、珍しくオフの俺は学校が終わって自宅で君と一緒に過ごしていた。
「まったく、あんなに子供とは思わなかったよ」
呆れてため息をつきながら、俺は君にココアを差し出した。それを受け取った君は一口飲んでテーブルに置くと、
「それで、ナオトは? まだ大学?」
「うん、それで終わったらバイトで打ち合わせもあるから今日は帰らないって〜」
俺の返事に君は“ふ〜ん”とだけ答えると、近くにあった雑誌に手を伸ばす。そしてペラペラと捲り、俺が掲載されているページになってその手を止めて
「綺麗に撮れているよね。メイク一つでこんなにも変わるもんだね〜」
“K2”特集のページに掲載されている派手なメイクを施した俺の写真を見て、目の前に居る俺と見比べている。
「素材がいいからね」
俺の返事に笑っている君はページを捲ってはまた違う写真を見ている。そして、数ページ捲ったところで俺の目に映ったのは……
「あっ! リックだ〜!」
“べライラル・デ・コワ”の広告ページにデカデカと写っているリカルド。女性モデルとかなり密着したポーズでこちらに視線を向けるリカルドを、君はじーっと眺めていた。
「リックって、かなり……セクシーだよね?」
何を見惚れているのか、なかなかそのページから次に捲ろうとしない君。
「やけにリカルドを見ているね。もしかして好きになっちゃったとか?」
君の後ろからそのページを覗きながらそう尋ねると、君は唖然としたと思えばすぐに笑みを見せると
「何言ってるの? そんな訳ないじゃない!」
いやいや、そんなにムキにならなくても……。そんな反応だと、かえって怪しいですよ? まぁ、キスもされていたから惚れてしまっても仕方がないよなぁ……。
それによくよく思うと、何気に彼の事を“リック”と愛称で呼んでいるし。これは好意を抱いていない方がおかしいだろ?
「照れなくてもいいぞ? 何なら俺が協力してやるから!」
「……あのねぇ、別に好きじゃないってば」
肘で君をつつきながら言う俺に、君は手を振りながら否定し続ける。全く……いつまで照れているのか。幼馴染みなんだから、こういう時は遠慮する事無く言ってくれたらいいのに。
「てか、リックって彼女居るんだよ?」
「ふ〜ん、そう……って、何!?」
君の一言に気が抜けた返事をしてすぐにもう一度聞き返す。何だって? リカルドには彼女が居るって?
「あれ? 知らなかったの? 男同士だから、そういう話もすると思っていたのに」
……知りませんでしたとも。って、それじゃあ何か? 君とキスしているのを見て、勝手に友情のキスがあるとかないとか言った挙句に君に数発(?)もキスして挙句にはアッチの友達にもなった俺って……
「俺って……バカかも」
「何言ってるの? そんな今さら言われなくても分かってるよ〜」
隅の方でへこむ俺の一言に、訳のわからない君は適当な返事をして更に俺を落ち込ませる。ホント……何をリカルドの言動にかき回されているんだか……。
ふと君の方を見ると、まだ雑誌を見ていたのでゆっくりと近付いていく。そして後ろに回って君を抱き締めると
「ねぇ、落ち込んでいるから……慰めてよ?」
「な〜に、言ってるの! アンタが勝手に勘違いしていただけじゃない!」
俺の腕をやんわりとどけると、君は再び雑誌に目をやる。けれど俺はもう一度君に手を掛けて
「今日は〜ナオトも帰ってこないから〜。ね?」
君の耳元で囁くとほら、まんざらでもない反応が見えてきた。観念したのか、それとも素直になったのか君は読んでいた雑誌を床に置く。
「明日は学校です! だから“痕”はつけないで下さいね!」
俺の口を自分の手で塞いで君はきつい口調で念を押してくる。そんな君に、俺は手でOKサインを作ってみせる。すると、君は塞いでいた手を離して俺にキスを許してくれる。
リカルドには彼女がいる……か。俺はそれまでは君に応援するとか言ったけれど、内心では安心していたんだよ? 君に愛情があったからとかそういうのじゃなくて、もし君が本当にリカルドが好きなら俺は今の関係を辞めないといけなかったからね。いくら何でも君に好きな人が出来ても関係を続けるなんて、さすがの俺でもそこまで浅ましくはないし。
だから、君が本当に彼に好意を抱いていないと分かって本当に安心したんだよ? 俺を気遣った気持ちから始まったこの関係は、いつの間にか当たり前のものに感じられていたから。そして、君の肌のぬくもりが俺にとって当たり前のように感じていたから……。
そのぬくもりに癒される、君に対して愛情が無くてもこのぬくもりだけは愛しいとさえ思える。だから俺は、こうして何度も何度も君を求める。他の女たちとは違って、何度抱いても飽きない君のぬくもり。
そんな俺の欲望に、君はこうして応えてくれる。君もまた俺に愛情は無いくせに、俺の動き一つ一つにも嬉しい反応を見せる。
ホント……俺たちの関係って、他人には到底理解できないような複雑な物だったね。
けれど、知っていた? どれだけ君がこうして俺の腕の中で顔を赤らめていても、俺の心の中では常に感じていたんだよ?
“君は……あとどのくらい俺の事を感じてくれる?”……って
こんにちは、山口です。
この作品を読んで下さり、本当にありがとうございます! 今回は少し内容が甘々になったような気がしまして、自分に合わない文を書いて何だか恥ずかしくなったりしました……。
これからもどうぞよろしくお願い致します。