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Chain22 メンズモデルとして成長した俺は



 まだ……狂気の芽が咲く前の頃……






 「琉依〜! ニュース、ニュース!」


 高校での新生活が始まったと同時に、モデルの仕事も本格的に再開する事になって学校が終わったら毎日のように事務所に行く日が続いていた。

 そして今日、事務所に呼ばれた俺を待っていたのはこの真琴さんの絶叫だった。

 「お、落ち着いて。どうしたの?」

 思わず開けた扉も閉めようとしたくらい驚いた俺は、とりあえず真琴さんを静めて話を聞く。それでも興奮が収まらない真琴さんは、俺の肩を掴むと

 「アンタ、とうとうジュニアから抜けて本格的なメンズモデルになったのよ!」

 「マジで!?」

 真琴さんの口から出た思わぬニュースに、俺は彼女以上の大声で聞き返した。それに対して笑顔で大きく頷く真琴さんに、俺は彼女の手を掴んで思い切り振りまくって喜びを見せた。

 「やったわね、琉依! これであんたもまた一つ成長したじゃない!」

 「あぁ! マジで嬉しいよ!」

 八歳の頃から始めたモデルは八年目にしてこうしてまた一歩階段を上がった事に、俺は子供のようにはしゃいでは喜んだ。

 「つきましては、琉依。早速あんたに仕事が来ているわよ」

 真琴さんがそう言って差し出した書類には“Men’s Att”の文字が大きく記されていた。それを見た俺は思わず書類の上のほうを見ては、自分の名前が書かれていることを何度も確認した。

 「真琴さん……“Men’s Att”って、あの雑誌の事だよね?」

 「そうよ〜。驚いたでしょ?」

 驚くに決まっているでしょ! “Men’s Att”って言えば、メンズ雑誌の中でも一、二を争う人気雑誌ですよ? しかも……その雑誌のモデルって、本格的にメンズモデルになれただけでも嬉しいのに更にこんな嬉しい事が起こってもいいのか?


 「琉依頑張ったからねぇ。ちゃんと見てくれている人は見てるのよ」

 真琴さんも醜い大人たちに囲まれていた俺に気付いていた訳だ。その時助けなかったのは、少しでも俺を一人前にさせようとあえて突き放していたって事か。

 「いいわよ、この雑誌は。成功したら色んな所からオファーが来てもおかしくは無いんだから!」

 真琴さんのその言葉を聞いて、俺は更に仕事への意欲を持つとそのままスタジオへと移動した。

 「え〜っと、今日は久しぶりに“K2”の撮影だから暁生さんだな」

 ぶつぶつ呟きながら手帳を見てふと顔を上げた俺の目の前にあったのは……


 「うわ……最悪」


 一瞬でしかめっ面になった俺の前には“べライラル・デ・コワ”の新作を纏ったリカルド=テイラーの大きな看板。

 コイツの顔を見ると思い出すあの時のイライラ感。よくよく考えてみれば、俺が君にキスしたりセフレ関係になったりしたのもコイツが君にキスをしたからだ……。

 あれから俺は色々あったというのに、お前はこうして一流モデルの道をまっしぐらでこうしてデカデカと日本でも存在をアピールしている。

 「あれ……いつか俺の写真で塗り替えてやる」

 変な決意を胸に、俺はスタジオまでズンズンと歩いていった。


 「おはようございま〜す」

 「る〜い〜! かなり久しぶり〜!」

 スタジオに入った途端聞こえて来た声と共に、K2が飛びついてくる。ロンドンに行っていたから、まぁかれこれ三週間くらいは会っていないかな。

 「はい、お帰り」

 「あら? あまりパンチの効いた反応は無いのね」

 期待していた反応が無かったのか、K2は少し残念そうな表情を見せていた。まったく、ガキじゃないんだからいつまでも大声で喚かないよ。

 「そうそう、あのさ〜。今日帰ったら家族会議ね!」

 「はっ?」

 K2の突然の言葉にそう返したが、そこから何も言わずにK2は他のスタッフの方へと行ってしまった。家族会議……子供じゃないんだから。

 K2に対して、ガックリと肩を落としながら呆れた俺は暁生さんのもとへ行って、今日の撮影の段取りについて聞きに行った。


 ――――


 「……そして、何?」

 久しぶりに家族四人集まった宇佐美家のリビングで、俺はイライラしながら向かいに座るK2を睨みながら話しかけた。バイトを終えた兄貴も、一体何事かとK2と母さんの方を見ている。

 「実はですね、この度“K2”がロンドンにも三店舗オープンする事になりました!」

 ワ〜イッと一人で拍手をしながら言うK2に、俺は更に睨みを強くさせると

 「ち、ちょっとくらい喜んでもいいじゃん! 此処からが本題なんだから〜」

 いい歳してぺロッと舌を出しながら、K2は話を続けた。

 「それでね、これからも更にヨーロッパの方で新店を展開していくからロンドンに住む事になったんですよ」

 「えっ?」

 「はっ!?」

は  K2の言葉に、今度は普通に驚いた俺と兄貴。母さんは事前に聞いていたのか、特に表情を変えることは無かった。けど、何だって? ロンドンに住む?

 「あの、まさかデスよ? そこに俺やルイも行けって言うんじゃないよね?」

 恐る恐る兄貴が聞くと、K2は笑顔になって頷いている。


 「冗談じゃない! 俺は今日から本格的にメンズモデルとして始動したし、それに大きな仕事も入っているんだ!」

 「俺も、今ちょっと大事な時期だからね。悪いけど、ロンドンには一人で行ってください!」

 二人の息子からの非情な返事に、流石のK2も倒れそうな勢いでショックを受けている。そんな今になってロンドンなんかに行ける訳が無い!

 「そんな〜。それじゃあ、寂しいよ〜」

 「母さんと二人で移住しなさいよ。全く、いい歳して子供っぽいんだから」

 立場が逆転しているかのような、兄貴とK2。俺ももう十六になるし、兄貴は二十一だから別に二人でもやっていけるからなぁ。K2は四十になってもまだこうして子供みたいだし……。

 「ねぇ、母さんも俺たちだけで日本に居ても大丈夫だって思うよね?」

 俺の言葉に反応したK2は、すがりつくような目で母さんを見ている。

 「そうねぇ、響よりもしっかりしているし大丈夫じゃないかしら?」

 「アリサちゃ〜ん!」

 さすが母さん、俺たちの事をちゃんと分かってくれている。よほど気に入らないのか、K2は母さんの服を掴んではまだしぶとく説得している。


 まったく……本当に子供みたいな親父



 こんにちは、山口です。

 この作品を読んで下さり、本当にありがとうございます! これからも毎日更新を心がけたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します!

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