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Chain20 そして大切な人を失った俺は



 本当は、そんな誓いなどしたくなかったんだよ?






 “夏海の事、守るから……”


 あの日お祖父様の家でそう誓ってから数日後、お祖父様は体調を崩して病院に運ばれた。それから、考えられないくらいお祖父様の容態が悪化していき、しまいには面会も許されないくらいの状態にまで陥ってしまった。

 病院に行っても病室の前には“面会謝絶”の札がかけられていて、家に帰るとK2や母さんの沈んだ顔を見ては現実を痛感する。

 君の家にはとても行けやしない。真琴さんも暁生さんも当然元気がないに決まっているし、それに君も普通の状態じゃないに決まっている。ここ数日、学校を休んでいるのが何よりの証拠だ。


 「夏海、今日も休みだね……」

 君の姿の無い机を見ながら渉が話しかけてくる。そんな渉に俺はただ頷くしか出来なかった。お祖父様の病気の事を知らない君、もし事実を知ってしまったらどうなっていたのだろうか……。

 あれから俺は、お祖父様と暁生さんからお祖父様の病気の事を聞いた。思わず耳を塞ぎたくなるその事実は、未だに完全に受け止められずにいるんだ。

 日々弱っていくお祖父様、その姿を見る事無くこうして残酷にも日は流れていく。俺が聞いてしまったお祖父様の余命も……確実に迫りつつある。


 放課後、俺は一人で校門の方へ歩いていると校門の傍には見慣れた車が停まっているのに気付き、駆け寄るとやはり運転席にはK2が居た。

 「お祖父様が……お前と話したいって」

 面会できる! 俺はすぐに車に乗り込むと、K2は何も言わずに車を走らせた。車中では沈黙が続き、一刻も早く病院について欲しいとだけ願っていた。


 病院に着いて、俺はすぐにお祖父様の病室に入るとそこには医師に診られている久しぶりに見るお祖父様の姿があった。お祖父様は、家で見た時よりも更に痩せていて体にはたくさんのコードが付けられていた。

 「少しだけですよ……」

 そう言って医師は病室を後にする。そして俺はお祖父様の傍によると、お祖父様は荒い息遣いをしながら俺の姿を確認した。

 「琉……依か」

 俺はその呼びかけに応えるようお祖父様の手を握り返した。握ったお祖父様の手も、昔は俺や君を軽々と抱き上げた物とは思えないくらい細くて今にも折れてしまいそうだった。

 「久しぶりだね。少し痩せたんじゃない?」

 無理に笑顔を作ってお祖父様に挨拶する。今のお祖父様に悲しい顔は見せられない。そんな物は此処じゃなく、別の場所で出来る事だから……。

 「琉依も……な」

 苦しいはずなのに、お祖父様の口からはまだ俺への皮肉が発せられる。お祖父様も無理しているのが痛いほど分かる。

 「夏海は……元気か?」

 「ん、元気だよ? 今日も学校で友達と騒いでたから、先生に怒られてたし!」

 心配をかけさせまいと、嘘を並べてはお祖父様に語りかける。本当はお祖父様が倒れた事にショックを受けて、ずっと家にこもりっ放しだよ。

 「そ……か。あのお転婆娘が……」

 少し咳をしながら言うお祖父様の瞳は、嬉しそうに細めていた。


 ねぇ、もっと笑ってよ? こんな薬品臭い部屋にコードや機械ばかりの場所じゃ無くて、お祖父様にはやっぱり海を見渡せるあの家が一番合っている。そこの庭でさ、また俺や君と一緒に対決でもしようよ。


 俺たちを驚かせて……また屋根から飛び降りて来て……


 「なにを……泣いているんじゃ……?」

 お祖父様に言われて気がついた、俺の瞳からはずっと涙が流れてはお祖父様の手を濡らしている。あれだけ心配掛けまいと思っていたのに、やはりそれは出来ない事だった。

 「ん? 目にゴミが入っただけだよ?」

 適当な言い訳をして何とかごまかそうとするけれど、お祖父様にはもう俺の心なんてお見通しなんだろう。

 「琉依の……ショーを見たかったのぉ……」

 過去形になんてしないで。そんなもの元気になったらいくらでも見せてあげる。一番いい席で、誰よりもいいモデルになった俺を見せてあげるから。

 そんな事を言えずに、お祖父様の手を強く握りながら俺はただ嗚咽するしか出来なかった。


 「槻岡さん、もうそろそろ……」

 医師が面会の時間を終了させる呼び掛けをしてくる。そして、医師と入れ替わるように俺は病室を出ようとした時だった。

 「とう……! ダダダッ……ジャキ−ンッ……」

 ベッドからかすかに聞こえたお祖父様の声に、思わず立ち止まった俺は振り返って再びお祖父様の傍に近付く。すると、お祖父様はかすかに右手を俺の方へ向けて、少しだけ揺らせて見せる。その仕草は……かつてお祖父様が挨拶代わりにしていたモノ。

 「き、今日こそは……じ、ジジィを……っ倒すぞ」

 そんなお祖父様に応えるよう、俺もまたお祖父様に右手を向けては拳銃を撃つ仕草を見せる。涙を流しながら見せる笑顔に、お祖父様はかすかに目を細めていた。


 “今、さらっとワシの事をじじぃと呼びおったな!”


 そんな返事を待っていたけれど、聞ける事無く俺はそのまま病室を後にした。



 それから二ヵ月後、お祖父様は本当に亡くなった。最期まで君に真実を伝えないまま。

 そして、お祖父様の自宅の誰もいない客間にある棺の中で安らかな表情で眠るお祖父様の傍に、君と兄貴と俺が写った写真をそっと忍ばせた。そんな時、隣の部屋からは君の泣き声が聞こえてくる。

 「お祖父様、約束は守るよ。夏海は俺が守ってみせるから」

 そう言って客間を静かに後にすると、隣の部屋に向かった。大丈夫、これからは俺が君の事を守ってあげるからね。



 ー君をずっと守ってみせるー


 あの日、貴方と何気なく約束したこの誓いが後々になって俺自身を固く縛りつけて、且つ苦しめる事になるなんて……



 アナタハ ココマデ ヨソク シテイマシタカ……?



 こんにちは、山口です。

 とうとうお祖父様が亡くなりました。このことがきっかけで、琉依の心もまた狂い始めていきます。

 ブログ『小説の宝箱』を始めました。またお気軽に覗きに来て下さると、嬉しいです!

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