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Chain19 破滅へと繋がる永遠の誓約



 あの時の事は、一生忘れられない


 俺とお祖父様だけの……永遠の約束






 俺は今、夢でも見ているのだろうか? 夢ならさっさと覚めて欲しいよ、こんな悪夢。だって、お祖父様が……


 「もう……長くないって、何が?」

 「命に決まっているじゃろ」


 違う返答を期待した俺は、少し笑いながら尋ねたがお祖父様は変わらない真剣な顔で答える。そう、これは夢じゃない。それにお祖父様は、たとえ夢の中でもそんな冗談なんて言ったりする様な人じゃない事は分かっている。でも、突然呼び出したかと思えばこんな告知されるなんて……そんな事ってあってもいいのか?


 「そんな! だ、だってお祖父様どこも悪くないじゃん!」

 そう、今まで病気らしい病気をしたことが無いお祖父様は、俺達と一緒にスポーツもしたり旅行にも行ったりしていて年寄りと言ってはいけないくらい元気そのものな人だった。歳の割には足腰もしっかりしていて、杖も使った事が無いのに……それなのに突然病気だなんて。

 「だから、暁生にも言ったのだがこの家をお前にやりた……」

 「いらないよ」

 お祖父様が言い終わるのを遮る形で、俺はその申し出を断ってその場から離れた。お祖父様が亡くなるかもしれない……突然そんな事言われてこちらも混乱しているのに、『それじゃあ、頂きます』と言える訳じゃないか。最初はただの冗談に聞こえた言葉が、今ではまるで形見分けのものに解釈してしまう。

 今、この家を受け取ってしまったら、俺はお祖父様の死を受け止めた事になってしまうのだ。どうして……どうしてこの人はそんな残酷な事を言う事が出来るんだ?


 「いらない! 絶対いらない! 俺は信じないからね。お祖父様が死んじゃうなんて……」

 「琉依……」

 思わず子供のように取り乱してしまった俺をお祖父様は何とかなだめようとしているが、そんな事で落ち着くわけが無い。そんな事で俺は受け止めたりはしない。認めたりなんかしない。暁生さんはこんな事を聞かせるために俺を此処へ連れてきたのか? だから兄貴達には秘密にさせたのか?


 「ねぇ、夏海は……夏海はこの事を知ってるの?」

 ふと浮かんだ君の顔でそんな質問を投げかける。当然ながらまだ落ち着かない俺から出てきた言葉は震えていた。当たり前の返答が来ると思ったそんな問いに、お祖父様はただ顔を横に振るという意外な答えを見せた。

 ……知らない?


  「な、何だって?」


 どうして! そう聞きたかったが、そんな答えはすぐに俺にもわかった。俺でもこんなに取り乱しているんだ、君はこんなものでは済まないに決まっている。でも、そのままでいい筈が無い。どんなに悲しい事でも、いずれは言わなければいけないことなのだから。

 「いつ、夏海に言うつもりなの?」

 「……あの子には言わないつもりじゃ」


 はっ?


 「お……お祖父様、自分で何言っているか分かってる? 夏海はお祖父様の孫なんだよ? 秘密にしておける事じゃないんだよ」

 そんな事言わなくてもお祖父様は分かっているだろうけど、言わずにはいられなかった。君に黙ってただ最期を迎えるなんて、君もお祖父様にとっても残酷すぎる。そんな悲しい事があっていい訳が無い。

 「あの子はまだこの事を受け止められる程、強くは無いんじゃよ。それは琉依、誰よりも一番一緒にいるお前がよく分かっていることじゃろ?」

 ずっと止まらない涙を流し続けている俺の頭を優しく撫でながら、お祖父様はそう言うけれど俺もそんなに強くは無いんだよ? それは幼い頃から俺たちをずっと見てきたお祖父様がよく分かっていることじゃないか。君には黙っていて、俺には受け止めろって事なの?

 そんな残酷な仕打ち……耐えられないよ。

 「わしが死んだら琉依、お前があの子を支えてやってくれないか? 意地っ張りな所もあるが、あの子は本当に弱い子なんじゃ。だから琉依、この通りじゃ」


 やめてくれ、俺に向かって頭を下げるお祖父様を誰か止めてくれ。俺はどうしたらいいんだ? 彼のこの残酷な頼みを受け入れるのか? そんな事をしたら俺は……

 「頼む、琉依!」

 それでも力強く言うお祖父様に俺はもう何も言えなかった。天井を見上げた俺の瞳からは絶えず涙が流れる。そして何かをふっ切れた様にお祖父様の方へ顔を向けると

 「……わかったよ。夏海の事守るって約束するよ」

 その言葉を聞いたお祖父様はただ涙を流して笑っていた。そしてしばらく俺の両手を握ったままだった。それでも俺の心の中は、突然聞かされた事実を受け止めたくない気持ちが勝っていた。

 そんな事は言えなかった。お祖父様はもう、俺に君の事を託してしまったのだから……。安心して見せた笑顔を、困惑の表情に変えさせる事は俺には出来なかった。



 そして、その時見たお祖父様の笑顔が……無情な事に最期になってしまった……




 こんばんは、山口です。

 この作品を読んで下さり、本当にありがとうございます!

 今回から再び回想シーンに戻りました。これから先、琉依がこの誓いによってどうなるか楽しみにして頂けると嬉しいです。


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