Chain1 幼い頃に始まる運命の出会い
君との出会い……
君と初めて出会ったのは、俺が五歳の時だったね。
俺の家の近くに君たち家族が引っ越してきたんだ。俺の両親と、君の両親は学生時代から仲が良くて何度か写真で見せてもらった事があった。見せてもらっても、まだ幼かった俺は同じ歳の君の写真を見てもその時はなんとも思わなかったけどね。
そして、君がやって来た。君はご両親に連れられて、初めて俺と顔を合わせたんだ。
「尚人、琉依。夏海ちゃんよ。琉依と同じ年だから、仲良くしようね」
隣では、小学生の兄貴が君に笑顔で手を振っていた。それでも君は照れくさそうに、おばさんの後ろに隠れてスカートにしがみつきながらこちらを見ていたのを覚えている? 俺は覚えているよ。だって俺はその時、君にこう言ったんだから。
「ブスッ!」
あの時の俺の両親の顔に君のご両親の顔、そして……君のキョトンとした顔が忘れられないんだ。(その後、俺は母親に殴られたから)
ごめんね。決して君はブスじゃないんだ。(むしろ、女の子はみんな可愛い!)ただ、君と同じで俺も照れていたんだ……。だって、こんなにも可愛い女の子が俺の前に現れたから。
仲良くするよ。でもそれよりも君を大切にしたいと、五歳の幼心からそう思ったんだ。それだけ、君は本当に可愛かったんだよ? おばさんに必死にしがみついて離れない君の仕草を見たら、誰だってそう思うだろうけどね。
「こら〜っ! 琉依になっちゃん! 服を着なさい〜!」
それから君はご両親が不在の時は俺の家で過ごすようになったから、自然と俺や兄貴とも打ち解けるようになってはこうして笑顔を見せる回数も増えてきた。
母さんが二人の服を手にしながら俺と君を追い掛け回す。そんな母さんから逃げるように、俺と君は素っ裸でキャッキャッと笑いながら家中を駆け巡っていたっけ。すると、いつも決まってそんな俺たちを捕まえるのが兄貴の役割となっていた。
「なっちゃん、捕まえた〜!」
「に〜にぃ〜」
勢い良く走ってきた君をすっぽりと包み込むように正面から抱きとめると、兄貴はそのまま君を抱き上げては同時に捕まえた俺の手を繋いで母さんに引き渡す。俺が兄貴に捕まってる間に、君は母さんに服を着せられていたっけ。
自分の子と同じくらい愛情を注いで君に接していた俺の両親を見ていると、だんだんと俺も君を大切にしないといけないって感情が湧き上がってきたんだ。五歳のガキが一丁前にそう思ってしまうほど、その時の俺は何でも影響を受けやすかったんだ。
母さんに送られて幼稚園に行くのだけれど、幼稚園に到着した途端に毎日のように聞こえてくるのが君の泣き声だった。入園した当初からしばらくの間は、慣れない環境の中もともと人見知りの激しかった君は母さんから先生の手に移った瞬間
「やだ〜っ! やだ〜っ!」
そう泣き叫んでは、母さんから離れようとはしなかったね。そんな君を母さんも先生も何とかして宥めようとするけれど、それでも君は頭を振って母さんから離れるのを拒んでいたっけ。
どうしたらいいものかと困っている大人の中に割って入ったのが、一緒について来ていた兄貴だった。兄貴はまだ十歳だったのに、当時の俺から見ても結構大人びていてケンカらしいケンカもした事がなかった。そんな兄貴は泣いている君を軽々と抱き上げると、背中を優しく撫でてはあやしていた。大人の真似をした子供のあやし方だったけれど、そんな兄貴のお陰で落ち着いたのかだんだん君は泣き止んでいくと兄貴に勧められるまま先生の手を握ろうとし始めていた。
母さんや先生が兄貴を褒めている中、俺はというと何も出来ない子供の自分が情けないような気がしてそして悔しかった。子供だからこそ別に大した事ではないのかもしれないけど、それでも俺は君を大切にして守ろうと思っていたから何だか俺よりも兄貴の方が必要とされている気がして寂しかった。
それからだっけ、俺が君から少しずつ離れ始めたのは。別に嫌いになった訳じゃないけれど、以前と比べるとそんなにもベタベタくっつかないようにしていた。それも俺が幼いながらも一人前にひねくれていただけなんだけどね。
そして、君と俺が小学校に入学した頃から、君の両親が海外出張に行く事がさらに増えて俺の家によく預けられるようになったね。俺の母さんは女の子も育ててみたかったのか物凄く喜んでいたけど、心の中では俺の方がもっと嬉しかったんだ。だって、時間を気にすることなく、君と一緒にいられるから! ずっと、君の両親が出張だったら……と何回思っていたか。
でも、時が過ぎて行く毎に俺は気付いてしまったんだ。
君の存在は、恋じゃなくて妹のような存在だという事を……。
“ブス”の言葉から始まった二人の出会いです。生まれた時から一緒では無くて、五歳になってから出会いました。ナオトは夏海が生まれた時に一度見ています。