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Chain17 やがて後腐れの無い快楽になる



 君の“初めて”……俺が最高の夜にしてあげよう……






 “最高の夜にしてあげるよ……”


 そう言って君を初めて抱いた翌朝。普段は一人で眠るベッドに横になっている俺の横には、俺の腕枕で気持ち良さそうに眠る君がいた。

 昔は自分のベッドか暁生さん達大人のぬくもりの中でしか眠れなかった君が、今はこうして俺の中で眠っているのを見ると何だか複雑な気持ちになった。


 昨夜、君を抱いている間も俺は君に対して愛情も罪悪感も抱く事は無かった。それは恐らく君も同じ事であろう。ただ己の欲望を満たすためだけに、君を求めただけ。

 「バカな夏海……」

 そう呟きながら、眠る君の髪の毛に触れる。たかが幼馴染みという関係なのに、あんな心配した挙句にこんな事までする事は無かったんだ。俺の言った事なんか、軽く流してしまえば済んだのに……。


 「ん、んん……」

 かすかに触れた俺の指の感触に気付いたのか、僅かに君の瞳が開いた。そして目を擦ると、やっと今の状況を把握したのか俺の方を見上げた。

 「おはよう」

 「ん、おはよう……っつ!」

 そう言って君は起き上がるが、体の変化に気付いたのかそのまま固まっていた。

 「ゆっくりしておきなよ? 急に動いたら痛いでしょ?」

 顔を赤くして座り込む君は、俺の方を見ると小さく頷いた。いくら昨夜あんなにも強がって見せても、所詮は初めてなんだから仕方が無い。

 俺は階下に降りてミネラルウォーターを持ってくると、一緒に取りに行ったタオルと一緒に渡した。けれどその痛みで自分がしてしまった事の重大さに気付いたのか、君はそれを受け取らずにただ呆然としている。

 「大丈夫?」

 俺の問いに君はこちらを見る事無く頷いてはみせてが、とてもそんな風には見えなかった。

 「今日は休みだから、ゆっくりしておきなよ」

 「処女の扱い方も慣れているんだね」

 下腹部の痛みの割には、まだそんな嫌味も言えるのか。少し呆れもしたけど、俺は一度ため息を吐いては君の方を見て

 「あのね、自慢じゃないけれど処女を相手にしたのは君が初めてです」

 俺に関係を迫ってくる女の中に処女はいなかった……て言うか、初っ端からそんな度胸のある女はそうはいないぞ? だから、昨夜の君の発言には本当に驚かされたのだから。

 「まったく、いい度胸しているよ」

 そう言うと、俺はベッドに入って再び横になった。そんな俺に、君は笑みを見せるとそのまま同じように横になる。

 「これで……本当によかったの?」

 昨夜は躊躇う事無く抱いておいて、今さらこんな事言ってもどうする事も出来ないがとりあえずそんな愚問を投げかける。それに対して、君は俺の腕に頭を乗せると頷いてみせた。

 「いいよ。別に責任取れとかそんな面倒な事は言わないから心配しないでね」

 処女を無くした人間とは思えないくらいあっさりした返答に、逆に俺が驚かされてばかりいる。君はこんなにも強い人間だったのか? それとも、気を遣って俺にだけ強がって見せているのか。


 ――――


 「宇佐美クン! 今夜、私の家に来ない?」

 翌日、休み時間に俺と渉が話しているところにやって来たクラスの違う女子生徒は、目の前に渉がいる事も構うことなくっそんな誘惑をしてくる。それでも渉は毎度の事だと、動じる事無くその場で俺の方を見ている。

 「あ〜、ゴメンね。俺、忙しくてしばらくは遊べないのよ」

 「え〜っ!? 嘘、つまんない〜!」

 俺の断りの返事に、彼女は俺のシャツを掴みながら駄々を捏ねる。そして、渉もまた意外な俺の返答に口を開いたまま表情を固めていた。俺は彼女の手をやんわりと除けると、笑顔で手を振って追い出す。

 「お、おま……お前! とうとう病気でも貰ったのか?」

 彼女が居なくなった後、渉が俺の顔に近付いてひそひそと話し出した。俺が遊ぶのを止めたら、どうして病気を貰ったって事になるんだよ……。

 「違いますヨ、そんな事じゃないって。受験生だからね、勉強しないと」

 「お前、性教育しか興味ないくせに……」

 そんな事言われている俺って……。少し気を落としていると、

 「渉〜! さっきの英語の訳見せて〜!」

 ノートを持ってやって来た君に、渉は机から英語のノートを出すと君に渡している。そしてその場で写している君の肩を叩くと

 「夏海。コイツさ、さっき女からお誘いあったのに断ったんだぜ?」

 「嘘! 何、もしかして病気でも貰ったの?」

 ノートを写していた手を止めると、君までそんな事を言う。俺が彼女たちと遊ばなくなった理由の張本人のクセに……。渉と一緒になってからかう君を、俺は少し睨み付けた。


 「だって、あの時はそう言わないと。渉にも変に思われちゃうじゃない」

 「だからって、病気って言わなくても……」

 学校が終わってから俺の家で宿題をしながら俺はさっきの事を愚痴る。そんな俺を君は苦笑いしながら、言い訳するが俺はあまり納得出来ずに不満顔を見せたまま。

 「変なの。子供みたい!」

 笑いながら君は宿題に手をつけている。そんな君に膨れっ面を見せながらも、俺もまた宿題に取り掛かる。

 正直、あんな関係になったから少しは君の事を愛しく思ってしまうようになるのかと思ったけれど、幸いな事に君に対してそんな感情は微塵も感じ取る事は無かった。そして、君もまた俺に対して好意を持つ事は無かった。


 お互い“愛情”無しのセフレ関係……後腐れの無い都合のいいこの関係は、俺にとって心地よい物だと思わせるのには十分だった。



 この時はもう最低と言うくらい琉依は夏海に対して愛情のかけらもありませんでした。

 さて、次回は久しぶりにあの方が出ます。



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