Chain151 久しぶりの母国での舞台に心弾ませ
久しぶりに過ごした親友とのひと時は、忘れかけていた何かを思い出す事が出来てとても心に残る日となった……
そして、ショー当日……
既に来日していたスタッフ達によって整えられていた会場のステージでは、俺とリカルドを始めモデル達がリハを行っていた。
久しぶりの日本でのショーに熱が入る俺だったが……
『……っ! さっきから鬱陶しいんだよ、そこ!』
突然鳴り響いた俺の怒鳴り声に、同じくリハをしていたリカルドやその他のモデルやスタッフが一斉に動きを止めては俺を見る。そんな中、俺の視線の先にいたK2だけは口を開き始めた。
『だ、だって〜! 琉依がずっと口を利いてくれないんだもん〜』
本気で泣きながら女のように話すK2は、そのまま俺がいるステージへとやって来る。
『なっちゃんの事を話さなかったのは、悪かったと思ってるよ〜! だからいい加減、口を利いてよ〜』
はぁ……女々しくすがりついてくるK2を本気でウザイと思いながらも、俺はそんな彼を引き離さずにされるがままとなっていた。実父なのにまるで子供のよう……こんな彼が世界的有名なデザイナーなんて、一体誰が信じられるだろうか。モデルやスタッフ達も、息子にしがみついて大泣きしている今回のパーティーの主役を少々困惑したような目で見ていた。
『……解ったよ。ちゃんと口を利くから』
『琉依?』
呆れながら告げた俺の一言に対して、敏感に反応したK2は顔を上げて目を大きく開かせていた。その言葉の真偽を確かめんばかりの表情に頷きながらも、俺は更に話を続けた。
『本当、本当。以前のように、ちゃんと……』
『琉依〜っ!』
ちゃんと話すから……そういい終わる前に、K2は嬉しそうな声を上げては俺に抱き付いてきた。そんな単純な彼を、拒む事なくポンポンと背中を叩いていたが……
ふと、会場のドアが開いたのを確認すると、未だにしがみついていたK2を自分から離す。そんな俺の行為を淋しそうな目をしながら訴えるK2を無視して、俺は着ていたスーツの乱れを整えてからステージを降りて真っ直ぐ走った。
『ベル!』
『ルイ! 今日はよろしくね!』
走ってきた俺に気付いたベル(フォード氏)は、両手を挙げて大きな声で言うと俺の体を包んできた。そんな俺の後にリカルドとK2もやって来ては、次々とベルと挨拶する。
『ようこそ、ベル。こちらこそ、本日はよろしくお願いします』
『いやいや、そんな堅苦しい挨拶はいいよ。それより、パーティー後の“アレ”は大丈夫?』
『もちろん、完璧だよ!』
K2の挨拶の後に告げたベルの“アレ”とは、日本びいきの彼の為に料亭巡りをするというプラン。一店だけではなく、少しでも多くの店を堪能したいというベルの為に前もって数店の予約をしていた。
そんなもう一つのパーティーにはオッサン同士で……という意味で、K2とベルの二人だけで行く事になっている。俺とリカルドはと言うと、また別のパーティーを用意していた。
K2の案内でベルが控え室へと去って行った後、リカルドと共に再びステージへと戻る。そして、リハを再開しているモデルの傍で俺たちは今度はスタッフと打ち合わせを始めた。
モデルとスタッフを掛け持ちしている俺とリカルドは、仕事も倍ある為に僅かな時間も無駄には出来なかった。だから、日本に来てから尚弥の家を訪れた他には自分たちの時間を過ごす事が出来ないでいた。
『あ〜。せっかく日本に来たのに、自由な時間が無いからどこにも行けないよ……』
ベルと同じくらい日本が大好きなリカルドは、書類を片付けながらため息をついて愚痴をこぼしていた。ロンドンからの飛行機の中では、日本に行って何をしたいとか何を食べたいとか延々と語っていただけに、あまりにも酷い現実に少々うんざりしている。
『だったら、今度プライベートで来日したらいいじゃないか』
『そんな暇も無い事くらい、ルイも知っているだろ?』
そんなリカルドに呆れながら言う俺に、リカルドはまとめた書類をバンバン音を立てながらさらに口を開く。確かに、俺たちはこのパーティーを終えてロンドンへ帰った後でも、別のショーがいくつか控えていた。そんなハードなスケジュールの中で、こうして来日するのは困難に近かった。
『今日のパーティーを終えた後でも、まだいくつかの店は開いているだろうからそこへ行けばいいんじゃない?』
『俺は、キョートに行きたいの!』
K2に負けないくらい子供じみた態度になるリカルド。そんな彼の様子を、リハを続けていたモデル達がチラッと見ているのに気付き頭を殴って大人しくさせる。
周りを気にせず大泣きするK2に、大声で我が侭を言うリカルド……俺もそんな彼らと同じとは思われたくない。“K2”がこんな奴らによって成立しているなんて……何だか恥ずかしくなってくる。
そして、その日の夕方……“K2/ベライラル・デ・コワ合同ショー”は開催された。招待客に囲まれたステージを歩く時にふと気付いた事だが、当たり前だが日本人の数が圧倒的に多い。フラッシュやライトなどの光の中、久しぶりの日本でのショーに心から興奮しているのを感じた。
予定外の帰国だったが、それでも俺はこの懐かしい雰囲気をとても愛していた……