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Chain149 久しぶりの親友とのひと時に


 重い空気を抱えたまま帰国した俺に掛かって来た電話……

 極秘で帰国した筈の俺を訪ねて来たのは……




 タッタッタッ……


 急ぎ足でロビーへと向かう。深めにかぶった帽子が落ちないよう手で支えながら……。


 そして、一階のロビーに辿り着いた俺の前にゆっくりと現れたのは……


 「久しぶり、宇佐美……」


 荒い息を整える俺に声を掛ける“客”は、いつの時と変わらない声と変わった表情で俺を驚かせる。

 「……」

 『あぁ、失礼。“ルイ=テイラー”さんでしたね』

 黙っていた俺を見ては、笑みを浮かべてそう訂正する。そんな“客”に対して、俺もまた笑みを浮かべて歩み寄る。そして“客”の肩にポンッと手を置くと


 『あぁ、その通りですよ……浅井尚弥さん』


 そう告げると、“客”=尚弥は片眉を上げて応える。


 ――――


 それから俺達は、場所を変えたのだが……


 「いや〜、ホント久しぶりだわ。元気にしてた?」

 「相変わらずだよ。宇佐美も元気そうで良かったよ」


 尚弥の実家へとやって来た俺は、改めて親友との再会を喜び合った。変わらない俺の態度とは反対に、表情に大きな変化を見せている尚弥。やはり、既婚者になると変わるものなのか?


 「あっ、そうだ!」

 「ん? 何?」


 ある事を思い出して声を上げた俺の方を見る尚弥。そんな尚弥の両肩を両手で叩くと……

 「結婚おめでとう! それと……」

 チラッと視線をそらしてさっきから気になっていた本棚の方に近付くと、そこに飾ってあった写真立てを手にする。そんな俺に対して、声を出す事なく慌てている尚弥。

 「それと……浅井ジュニアの誕生おめでとう〜」

 からかうようにそう告げては、手にしていた写真立てを尚弥に近付ける。降参したかのように片手で顔を覆っていた尚弥に近付けた写真立てに飾られていたのは、以前送られて来たポストカードに写っていた可愛い嫁と尚弥。そしてもう一人……幸せそうな二人の間で、一生懸命瞳を開けてこちらを見ている“赤ん坊”がいた。


 「尚弥〜。アンタ、結婚したのは確か去年の秋だったよねぇ……」

 「あ、あぁ……」


 何気な〜く問う俺の言葉に、尚弥は完全に動揺しながら答えていた。そんな尚弥の反応は、久しぶりに俺の悪戯心をくすぐらせる。

 「あれから十月も過ぎていないに、どうしてこんな可愛らしい赤ちゃんがいるのかなぁ……」

 そう言っては視線を尚弥へと向ける。顔を赤く染めては無言になる尚弥は、昔からかっていた時と全く変わっていない。そんな尚弥にとどめを与えようと、俺は更に込み上げてくる笑いを耐えながら尚弥の背中を叩く。

 「いや〜、尚弥も立派な男だったのね。この……」

 すけべ野郎……尚弥の耳元で囁くと、困った表情を浮かべながら更に小さくなる尚弥。メンバーの中で梓よりもからかい易い奴が出来た事に満足する俺は、そんな尚弥を笑いながら部屋にある写真を眺めていた。

 そこに飾られていたのは、俺たちが知り合った頃に撮った写真や尚弥の家族の写真……結婚式の写真から一人増えた家族も一緒に入った写真がたくさん飾られていた。


 「子供は……男の子?」

 生まれたばかりの頃に撮った写真を手にしては尚弥に問う。そんな俺の問いに、さっきまで落ち込んでいた尚弥が近付いてきては一緒に写真を眺めてくる。

 「あぁ。猛って言うんだ」

 「猛? いい名前だね〜」

 そう言いながら尚弥の方をチラッと見ると、わが子の写真を見る尚弥の表情が“父親”を感じさせていた。初めて出会った時の堅物さはどこへ行ったのやら……とてもやわらかい表情を浮かべる尚弥に、何だか毒も抜けてしまうような感じがした。


 ――――


 「そういえば、どうして俺があのホテルに来ている……いや、そもそもどうして日本へ帰国しているって知ってたんだ?」

 落ち着いた頃、ソファに座った俺は向かいに座る尚弥に問う。そんな俺に対して、尚弥はポケットから煙草を出すと火を点けて吸い始める。そして、フ〜ッと煙を吐いた後

 「うん。実はね、ナオトさんから聞いていたんだよ」

 「兄貴から?」

 「そう……」

 尚弥の話によると、この企画が出てきた頃から万が一の事を考えてK2が兄貴に話をしていたそうだ。フォード氏の日本びいきは、この世界では有名な事だから……。

 そして、俺は今回のパーティーの中心にいるから日本に行く事は避けられない。だから、そんな俺の事を考えて既に手は打っていたそうだ。


 「じ、じゃあ……夏海は」

 「うん。今はナオトさんとハワイに行ってるよ」


 ハワイ〜!? 思いがけない事実に、俺は思わず気が抜けてしまった。それならそうと、どうしてK2は黙っていたんだよ。ずっと悩んでいた事が一気にバカバカしくなって、何だか情けなくなってくる。

 「それで、ナオトさんは居なくなるからって俺に君の世話役が回って来た訳です」

 今度は俺が落ち込み、尚弥が笑いながら話し続けていた。しかし、そのおかげで俺も心配事が一切無くなってしまいホッと安心できる。

 これでショーに集中できる……落ち込む一方では微かに笑みも浮かんでいた。

 「それで……俺が日本へ来ている事は……」

 「うん。俺しか知らないよ」

 尚弥の気配りに、やっと肩の力が抜けた俺はぐったりとソファの背にもたれる。


 君は日本ここには居ない……俺はまた、周りに救われたのだ。


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