Chain14 剥がれかけた“意地”の殻は
君ならすぐにでも、いい人が見つかる……
この言葉が実現する時
その翌朝……
『うーん、いい天気ダネ! 絶好の観光日和ってこういう事を言うのかな?』
『そうだよ、今日はリカルドが行きたい所を時間が許す限り見て回ろうね!』
暁生さんに用事があった俺が君の家の前に近づいた時、ちょうどそんな会話をしながら君たちが出てきた所だった。
初めての日本での観光に心躍らせるリカルドに笑顔を見せる君は、門までやって来た俺に気がつくと分かりやすいくらい態度を一変させた。
『ルイ! おはよう、どうしたんだい?』
『おはよう、リカルド。俺は今から暁生さんと打ち合わせがあって来たんだ』
そんな会話をしている間も、君は俺の方を見る事無くリカルドの隣りに立っていた。そして、俺はそんな君の横を通り過ぎるとリカルドの肩を叩いて
『楽しんできてね……』
笑みを見せてそう言うと、俺は二人を見送る事無く君の家の中へと入っていった。
「おお、琉依。悪かったな、折角の休みに」
「いいよ、そんなの。どうせ何もする事は無かったから」
リビングに通された俺は暁生さんと真琴さんの三人でこれからのスケジュールなどについて打ち合わせをし始めた。
俺は受験生だから、真琴さんがあまり受験勉強に支障が出ないようにと気を遣ってしばらくはハードな仕事は入れないようにしてくれた。K2も年内は大きなショーも無いので、来年までは俺を使わないと言ってたし。
「ねぇ、リカルドってどんなモデルなの?」
一通り打ち合わせを済ませて真琴さんが作った昼食をとっている時、俺はそんな質問を二人に投げかけた。
「あいつか? ヨーロッパではまず知らない人間は居ないくらい凄いモデルだぞ」
「そうね、まだあの子も十六だけどそれでもかなりの実力は持っているわよ」
仕事に厳しい二人が絶賛するリカルドは、それくらい凄いモデルなんだと痛感した。この二人は滅多に人を賞賛する事は無いから、余計にそう感じてしまう。初めて海外のモデルと一緒に仕事した事で、俺の中でライバル心と共に更にやる気が湧いてきた。いつか俺もそんな風に活躍したい……そう思いながら。
「リカルドって、明日帰るんだっけ?」
「そうそう。“K2”の新店が出来るだろ? その披露会で少しショーもするから、それに参加するんだって」
あ〜あ、俺も受験生じゃなかったらパリに行けたのになぁ。また活躍する場が増えたリカルドを羨ましく思った。
「ねぇ、琉依はどこの高校に行くの?」
「ん〜? まだ決めてないんだよね。モデル以外でしたい事ってないから、特に焦っても無いし……」
それでも一応は大学まで行こうと思っているから、ちゃんとそれなりの高校にも行かないといけないのだけど……何となく今はまだ考えられないんだな。
そして、スケジュール合わせと以前撮影した写真の確認等していたら、既に空は暗くなっていた。仕事の事だと、時間が過ぎるのは早く時が流れるのも忘れられる。
「そろそろあの子達も帰って来る頃よね〜」
真琴さんは時計を見てそう言うと、夕食の準備にかかり始めた。そして、引き続き大量のポラを見ている時だった。
ガチャッ
「ただいま〜!」
『ただいまー!』
玄関のドアが開いた音と同時に聞こえて来た二人の声。そして真っ直ぐにリビングへやって来た二人の手にはたくさんの紙袋を提げていた。
『おかえり、これはまた凄い荷物だね』
『そうなの! リックがあれもこれもと買うから〜』
暁生さんと君が話している間をすり抜けて、リカルドはこちらに気付くと俺が座っているソファまでやって来た。
『これは、この間のポラ?』
『そうだよ。ほら、ここにリカルドもいるだろ?』
ソファに座ったリカルドにポラを見せる。するとリカルドは何かを思い出したかのように手を叩くと、持っていた袋から冊子を取り出して俺の前に出してきた。
『これ見て! 何かキモノを着て写真を撮ってくれるからって行ったんだけどどう?』
そう言ってリカルドが開いた冊子に写っていたのは、着物を着て並んで笑顔を見せるリカルドと君……。俺の表情がそこで固まったのも知らず、リカルドはそのまま暁生さんや真琴さんに見せに行っていた。
『あら! 綺麗に撮れているじゃない!』
『う〜ん、何か恋人同士みたいで俺はヤダなぁ……』
写真を見て絶賛する真琴さんと微妙な返事をする暁生さん。リカルドはそんな暁生さんの言葉を聞くと、君の肩に手を回して
『アキオ! 心配しなくても、俺たちは友達だから〜』
『ね〜!』
リカルドの言葉に頷く君。そんな二人を見て、まだまだ不安な表情を見せている暁生さんはポラをリカルドに返して納得の行かない表情のまま二階へと去った。
『あらら、ヤキモチ焼いちゃってるよ』
真琴さんはそう言うと、再び夕食作りに取り掛かった。そして俺は不機嫌になった暁生さんのお陰で中断してしまったポラチェックを諦めて、テーブルに散乱したポラを整理し始めた。
『ヤキモチ?』
そんな俺の傍でリカルドが声を掛けてきた。
『そうだろうね、まったく仕方の無い人なんだから……』
『違うよ。君の事だよ』
リカルドの言葉に俺は片付け始めていた手を止めてしまった。顔を上げてリカルドの方を見ると、さっきまでの笑顔は無く真剣な表情でこちらを見るリカルド。
『……えっ?』
今と同じ……素直じゃなかった俺
こんにちは、山口です。
おバカキャラの割にはカンが鋭いリカルドです。設定はまだ中学三年生のままですが、この一年は彼にとってたくさんの出来事が起こったのでもう少しお付き合い頂けると嬉しいです。
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