Chain13 そしてリカルドとの出会いで……
俺の仕打ちで、忘れられる君の寂しさ……
「おはようございま〜す!」
「おはよう!」
スタジオに入って挨拶すると、暁生さんと真琴さんが待っていた。
「あれ? 出張から帰ってきたの?」
「うん、さっきね。夏海預かってくれてホントありがと〜!」
真琴さんはそう言うと、俺にカナダのお土産を持ってきて差し出してきた。
「でも、もうしばらくはお互い出張も無いから、夏海にも構ってやれるって暁生も喜んでいるのよ」
そう言う真琴さんの横で、暁生さんは嬉しそうな笑みを見せていた。あぁ、これでやっと君は自分の家に戻れるんだね。そして、俺もあんな君を見なくて済むんだ。
「でも、俺たちって受験生だからそんなに遊べないよ?」
「えっ……!」
何気ないけど、当たり前の事を口にした途端の暁生さんのショックを受けたような表情。って、知らなかったの!?
「俺たち……もう中三だよ?」
仕事の鬼だからな〜、いくら我が子ラブでもそこまで気付かなかったか。真琴さんはもちろん知っているから、スケジュールもちゃんと合わせていたみたいだけど。
「そっか……じゃあ、ホントしばらくは遊べないのね」
ガックリ肩を落とす暁生さんは、しばらくしてからやっとこのスタジオの様子に気付いたのか顔を上げた。
「静かだけど、K2は?」
いつもならうるさく喚きながらやって来るK2の姿がどこにも無いのに気付いた暁生さんが辺りをキョロキョロ見渡していた。
「K2は昨日からパリに戻ってるよ」
何かパリに新店が出来るとかそんな計画があがっているから、その打ち合わせでパリに飛んでいったっけ。
「でもまぁ、今回は“K2”の撮影じゃないから来なくても普通でしょ?」
「そうだな、なんかうるさいのが当たり前のような気がして」
今回の撮影は“K2”では無くて、“べライラル・デ・コワ”という新進のブランドの新作の撮影。“K2”以外にも色々な仕事を掴む事ができ、更にやりがいのある仕事になって来た。しかも今回は向こうのデザイナー直々のオファーで、俺の知っている媚び売りの人間とは違って自分自身を認めてくれてのものだったから余計に嬉しかった。
「それにしても、このデザイン俺好きだなぁ」
撮影用に着用した服をまじまじ見てはさっきから何度も呟く。彼のオファーが無ければ、積極的に自分を売り込んでいく位このブランドには特別な思いを抱いていた。
「そうね。“K2”もイメージに合っているけれど、琉依はこっちも合ってるわよね〜」
真琴さんも俺の全身を見ながら答える。“K2”と“べライラル・デ・コワ”のスタイルは全く似ていないのに、それでも俺は両方とも気に入っていた。
「それじゃあ、今日一緒に撮影するモデル来てるから紹介するね」
暁生さんはそう言うと、一緒に来た外国人の男性モデルを俺の前に立たせた。流石は外国人といっていいのか、スタイルがもの凄くいいし綺麗な金髪が更に引き立たせている。
「琉依、彼はリカルド=テイラー。年はお前よりも一つ上の十六歳だよ」
「エッ!? 十六!?」
暁生さんの横で笑顔を見せる彼が、俺とはたった一つしか離れていないなんて……。もっと年上だと思わせるくらい、彼は大人の雰囲気を見せていた。これも外国人効果なのか?
『リカルド=テイラーです。K2からよく君の話を聞いてました』
英語で挨拶する彼はそう言って手を差し出してきた。
『宇佐美琉依です。父から何て聞いているかは知りませんが、ほとんどが嘘だと思ってください』
よろしくとその手を握って挨拶する。すると、俺の言葉を聞いた彼は驚いた表情を見せて
『アキオ! それじゃあ、ルイがファザコンって言うのも嘘なの?』
『……!?』
ケ、K2……。あのヤロウ! 一体、海外出張の時に何を言いまわっているんだ! 我が父ながら本当に情けなくなってくる。ある事無い事(ほとんど無い事)を言いまわっては、俺のイメージを崩すような事をして……
『じゃあ、リカルドはイギリス人なんだ』
『そうだよ。でも今はパリに住んでいるんだけどね』
撮影が終わった後、俺はリカルドと一緒にカフェで話をしていた。パリで活躍しているリカルドは、同じく拠点としているK2と出会って“K2”のショーに出てから暁生さんも含めて交流を深めていったそうだ。そして、今回“べライラル・デ・コワ”の撮影で来日してからも、噂に聞いていた俺に会うのを楽しみにしていてくれたみたい。
『けれど、K2の奴あんな嘘をつくから、俺は君の事をもっと子供っぽい男だと想像していたのになぁ』
俺の方を見ながらそう言うリカルドはイタズラっぽく笑っていた。K2、帰ってきたら覚えとけよ!
『そういえば、リカルドは明後日帰国するんだろ? どこのホテルで過ごすんだ?』
リカルドは今回初めて来日したので、仕事を終えたら少し観光をしたいという希望で滞在を延長していた。宿泊先もきっとこの辺なんだろうと思って聞いたのだが、リカルドはそんな俺の質問にただ横に首を振っていた。
『アキオから聞いていない? 俺、こっちにいる間はアキオの家に世話になることになっているんだ』
『ふ〜ん、暁生さんのね……って、えぇっ!?』
思わず大きな声を出してしまった俺にリカルドを始めとする周囲の人々もこちらを見ていた。だって、暁生さんの家に滞在するってことはもちろんそこには君も居る訳だから……。
『うん、ルイと同じ歳の女の子が居るって聞いたよ。観光もその子にお願いしてくれるって!』
君とリカルドが一つ屋根の下で過ごす? しかも観光案内もかって出たって?
“すぐにいい恋でも出来るよ”
その時、いつの日か君に言った言葉が俺の脳裏に浮かんできたのは言うまでも無かった……
琉依にとって支えになるであろう人物、リカルドの登場です。彼もまたK2と同じで、なかなかのおバカさが磨かれております。
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