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Chain12 そのキスは君の心を締め付ける



 俺から君への初めてのキスは、一生忘れられない……最悪なものだった






 その夜……


 「あら? なっちゃん、どうしたの? 機嫌でも悪いの?」

 「別に……」


 母さんと俺と兄貴と君で夕食をとる中、君の不機嫌な顔に気付いた母さんが話しかける。けれど、君は素っ気無く答えると俺の方を睨んでいた。そんな君に対して、俺は知らんフリをしては食事をしていた。



 「何も、そんなに不機嫌になる事ないだろ?」

 食事が終わった後、二階へと戻った君の後を追って俺はベッドに座っている君に話しかけた。

 君の両親が居ない間は俺の家で預かると決めていたから、もちろんこの家には君の部屋もあった。兄貴と俺の男しか子供が居ないから飾り気がないと寂しがっていた母さんが、君の為にと張り切って用意したこの部屋はどこを見渡しても可愛いもので飾られていた。

 そして、たくさんのぬいぐるみに囲まれたベッドでまだ機嫌を損ねている君は俺の方を見る事無く、そして俺の言う事にも無視を決め込んでいた。

 「そんなにも怒る事?」

 だって、仕方が無かったんだよ。兄貴は居なかったし、俺には他にどうする事も出来なかったし……。それにさっきは本当に嫌だったんだ。自分の失言が原因なのだろうけど、それでも俺は君のあんな顔を見るのが鬱陶しくて嫌だった。

 「もういいから、出てってよ……」

 俺の顔を見たくないのか、ずっと背を向けたままの君は一秒でも早く俺をこの部屋から追い出そうとしている雰囲気を見せていた。それでも俺は意地悪で、そこから去る事無くからかうように居続けた。

 こちらを見なくても俺が出て行っていない事に気付いている君は、わざと大きなため息をついてはその態度を変えることは無かった。


 「そっか、夏海もしかしてあれがファーストキスだったとか?」

 不機嫌になる原因を突き止めた俺はそのまま口にすると、君は分かりやすいくらい大きな反応を見せてくれる。ビクッと肩を震わせて、それから何も言わない。ホント、単純だね。

 「そうなんだ、じゃあ悪いことしちゃったかな?」

 言葉とはうらはらに決して悪びれる事無く俺は話し続けた。俺には背を向けている君の表情なんか、簡単に想像つく。顔を赤くして怒っている君の表情がね……。

 今思えば、それが俺に出来た精一杯の優しさだったかも知れない。ご両親が居なくて寂しい君の気持ちを紛らせようと考え付いた、俺の歪んだ優しさ。この時の君が、それをどのように捉えたかは知らないけどね。

 俺はそんな君の表情が見たくて、そのままベッドまで近付いた。

 そして隣に座ると、そのまま君の顔をこちらに向けさせようと試みるも君はそれに従わなかった。

 「何? ファーストキスだけじゃなくて、セカンドキスも奪ったから怒ってるの?」

 少し笑いながら君の顔を強引に向けさせる。すると、やっとこちらを見た君の表情は俺が想像していた通り赤くして困惑したような表情だった。君はそんな顔を見られて更に顔を赤くしては、俺の手を振り払う。そして、かすかな抵抗かのように俺を睨んでいた。

 「結構、上手かったでしょ?」

 それでも動じる事無い俺の言葉に、君は更に目つきを鋭くさせていた。ねぇ、それは憎しみの感情が込めてあるの? それとも、照れ隠しと捉えていいの?


 「……最低っ」


 あぁ、憎しみの方だった訳ね。よく見ると、僅かだけれど君の瞳は潤んでいた。女の子だから、大切にしていたファーストキスをあんな形で奪われた事はショックだったって事か。

 「どうして、あんな事をしたの……」

 少し震えながら君はずっと聞きたかったのであろう疑問を投げかけてきた。でも、ホント愚問だね。そんな事聞いても君が落ち込むだけなのに。

 「大した理由は無いよ。別に好意があってした訳じゃないし?」

 俺の口からはどうしてこんなにも意地悪な言葉しか出てこなかったのだろうか? もっと言葉を選んで君を傷つけない方法もあったのかもしれないのに、それでもどうして俺は君をこうして傷つけてばかりいたのだろうか。

 「一緒にしないでよ。私をアンタの周りのバカ女達と一緒にしないで!」

 そう言った勢いでとうとう君の瞳から涙が流れていた。って、バカ女って……なかなか言うね。今までは何も言ってこなかったけれど、本当はずっとそう思っていたんだ?

 「バカ女って、別に本能に逆らう事無くしている事なんだからいいじゃん」

 どんなに君が俺の事を見下しても、それは俺にとっては大したダメージにもならない。それくらい俺にとっては君はそんなにも影響力のある人間では無かったから。

 いったん恋心を失くすと、ここまでも鬱陶しく思えるんだな。今ではほら、逆に俺が君を見下した態度を見せている。


 「忘れたら? すぐにいい恋でも出来るよ。じゃあ、俺また出かけてくるから」

 ただ睨んでいるだけの君にそう告げると、俺はいったん自分の部屋へと戻って行きそれから階下に降りるとそのまま玄関を出た。

 冷たい俺からの仕打ちが終わった今、きっと一人で泣いているんだろうね。


 「それで……いいんだ……」


 俺の仕打ちで、君の寂しさは忘れられる……




 シリーズ第1弾のときは夏海の事を大切に想っていた琉依ですが、この時は本当に鬱陶しく思っていたのです。それでも琉依なりの優しさは見せていたのですが……


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