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Chain11 君との初めてのキスは罪悪感の味



 今思えば、ごまかしていたのかもしれない……





 一期一会と言う名の、一夜限りの情事。割り切ってくれる女性だけではなく、たまにいる面倒になってしまったオンナ達。


 「ねぇ、いいでしょ?」

 「君とは、一回きりだって言ったよね?」

 俺の部屋で名前も忘れた女が迫ってくる。一夜だけ、と約束したのにこうして人の家にズカズカ入ってきては二度目の関係を迫る。そして、彼女が次に言う事は分かっている。

 「だって、特定の彼女はいないんでしょ? だから、私と付き合おうよ」

 ほらね、だから俺は彼女なんか作りたくないんだ。一度関係を持つと、彼女になったつもりでいるのか。俺は自分という人間がどういうものかよく知っている。俺みたいな奴は、彼女なんかできても長続きはしないんだ。だから関係は持っても、一夜限りの関係の方が性に合っている。俺には面倒くさい男女交際は向いていない。後腐れの無い、割り切った女性が合っている。付き合っても、すぐに相手が逃げるからね。

 

 “思っていたような人じゃなかった”

 “ついていけない”

 とか、勝手な事言うだけ言って去っていく。だったら最初から付き合わずに割り切った関係の方がいい。


 「ねぇ、聞いてるの〜?」

 考え事をしていると、彼女がさらに近付いて来た。あぁ、もう本当に面倒になってきたな。


 ドタドタッ ガチャッ


 「琉依! 辞書借りるよ〜って……」

 ナイスタイミング! と言っていいのか、俺の貞操(?)の危機の時に君が入ってきてくれたね。思わず彼女も驚いて君を見ていたっけ。

 「わおっ! お取り込み中でした? すぐに去るから続けて下さいな」

 こんな状態というのに、君はちっとも気にする事無く用事を済ませた。でも、彼女の方はそうはいかない。

 「ち、ちょっと! 何なのこの子!」

 そりゃ、彼女にしてみたらせっかくイイトコロだったのに邪魔されたら気分も悪くするわな。でも、それでいいんだ。これまでだってそう、何度か君が入ってきた時にこんな姿を見られたらみんなこうする。

 「私、帰る! 彼女いるならいるって言いなさいよ!」

 これで後腐れなく別れられるから……。ありがとう、君のおかげでまた面倒が減ったよ。


 「相変わらずお盛んだこと。年中発情期の宇佐美琉依クン」

 嫌味を込めて君はいつもと同じ事を言った。それも仕方ないよね。こうして、何回同じ状況の中を君に救われてきたか。だからそんな君を、俺は自分のいいように利用しようとさえ思っていた。いざという時は、彼女とでも言おうかと思ったり。

 自分さえよければいい、いつからこんな風に思うようになったのか。かつては大切にしようと思っていた君さえも、この時は俺にとっては一つの駒だった。俺の思うように動かしてやる、今思うと本当に最悪だった。


 「まったく……いつか私があんたの取り巻きから殺されるかもね」

 君は辞書で軽く俺の頭を叩いた。そんな嫌味を口にしているが、結局君はまた俺を救ってくれるんだ。俺の事をよく知っているからね。

 だから、俺は君に甘えて君を利用してしまうんだよ?


 「暁生さん達は?」

 俺の言葉で、さっきまで明るかった君の顔が曇る。あぁ、しまった。また、言ってしまった。

 「うん、昨夜からカナダに出張している」

 君の両親は、君が小さい頃から海外出張が多くてその度に俺の家に預けられていたね。けれど、回数が増えるたびに、君は自分の両親と過ごす機会が減るからとても寂しそうな顔をするようになった。そんな君を喜ばせようと、兄貴はよく遊びに連れて行った。けれど、俺はそんな君を見たくなくていつも逃げていたんだ。

 可愛い君が好きだから、元気の無かった君を見るのはとても嫌だった。昔は君が俺の家に預けられるのがとても嬉しかったのに、今では君の暗い表情を見るのが怖くて君を避けていた。


 そして、今では君を利用しようとまで思うくらいになってしまっていた。だって、こうする事で君は暗い顔をする暇も無いくらい俺を守ろうとするでしょ? これで、君も……俺も救われるんだ。なのにまた俺は禁句を言ってしまうから、また君の顔が曇ってしまった。

 兄貴はまだ大学から帰って来ないから、頼りにならない。そんな風に困っている俺の横で、君はずっと悲しい顔をしている。


 見たくない! 出来ることなら、ここから消えたいくらいだった。でも、俺が消えても君はずっと悲しいままなんだ……。

 だからごめんね。本当はこんな事君にはしたくなかったけど、こうするしか方法は無かったんだ。


 「……!」


 君は悲しい表情から、一気に驚きの表情へ変わる。それもその筈、だって俺が君にキスをしたから。何が起こっているのか状況を掴めない君はただ大きく目を開いている、そんな君の様子を見て徐々に目を瞑る。

 

 だけど……


 「何すんのよ!」

 強く俺を突き飛ばした後、唇に手を当てて君は叫んだっけ。その時の君は顔を真っ赤にして怒りながら俺の方を睨んでいた。でも、それでいいんだ。そうする事で君は御両親が居ない寂しさから逃れる事が出来るから。そして、俺も救われるから。

 「何すんのかって聞いてるん……」

 何も答えずただ笑っていた俺に近付いてそう言う君の腕を引っ張って、再び君にキスする。うるさいから、ただそれだけの事で他に何の意味も無い。数多の女たちにしている時と同じ気持ちだった。


 少なくともその時はそうだった。




 琉依と夏海の初めてのキスは中学三年生の時でした。けど……無理矢理ですが。愛情も無い琉依の仕打ちは、まだ続きます。

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