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Chain107 やっとこの目で確認した快感



 浅井尚弥……彼は俺が警戒した二人目のメンバーとなる。






 「なっつみちゃん! あっそびましょっ!」


 君の家の前で早朝から叫ぶ今日は休講だったので、俺は君を誘って出かけようって決めていたのだが……


 「いいですよ〜!」

 そう言って君は家の中から出てきては、俺が待つ車の方までやって来た。

 こうして二人で出かけるのは、君が高月と付き合う前以来だったので何だか嬉しかった。少しでもここでの思い出を残したいと、切に願っていたから……



 「この前、渉の部屋で彼と何を話していたのよ」

 車中、君は先日の事を尋ねてくる。あぁ、俺が浅井クンと話していた事を言っているのだな。何もこんな時に聞かなくてもいいのに……そう思っても、君はそんな所まで気が利く子では無いからね。期待しても無駄か。

 「秘密の多い男だね、琉依は」

 そんな嫌味を言われているのに、それでも俺は笑って沈黙を続けた。


 「心配しなくても、彼とは付き合わないよ。夏海チャンはヤキモチ焼きなんだから」

 「何、バカな事言ってんのよ! ほら、安全運転しなさい!」

 右手で君の肩に手を回して囁く俺を、君は強烈に抓っては叱咤してくる。まったく……相変わらず冗談の通じない子なんだから。

 それでも俺は、そんなひと時も大切に胸に刻んでいた。

 怒ったり、たまに見せる笑顔も……すべて刻み込んでロンドンへ行こう。きっと、今日が最後のデートになるかもしれないから。

 だからずっと笑顔でいて欲しい……そう思っていたのに、そんな俺の願いがあと少しで崩れてしまう事になるなんてこの時は思いもしなかった。


 ―――――


 「いやぁ、買った買った! 久しぶりだから、ついお財布も緩くなるなる」

 いや、その大半は俺のお財布から出たものなんですけどね。まぁ、今更言っても仕方が無いけれど。

 「まったく、ホントに仕方の……」

 フ〜っとため息をついて少し視線を前の方に移した時だった。

 「――っ!」

 少し離れた前方を見た俺は、思わずそのまま凍り付いてしまった。見間違いじゃないその光景に目を奪われていた時、隣にいた君が声を掛けてくる。

 「お腹も空いたし、ご飯を食べにいこうよ〜」

 そう言って君が俺の手を握ってきた時、思わずハッとして君の肩に手を回して来た道を振り返る。この笑顔を絶やす事だけはしたくない……そんな俺の思いからだった。

 「よし、行きましょうか。でもあっちからの方が近道だから、そこから行きましょう!」

 俺たちが行こうとしていたイタリアンの店は、このまままっすぐ行った方が早い。しかし、このままその道を通るわけにはいかなかった。だから、遠回りしようと思っていたのに……


 「何言ってるの! イタリアンの店ならこっちからの方が……」

 そう言って振り返る君。

 あっ、この馬鹿! しかし、そう思ったのも手遅れだった……

 「……っつ」

 見なくても分かる、君の凍りついた表情。そんな事も簡単に想像付く俺は、思わず顔に手をやって上を見てしまう。

 しばらくして君の方を見ると、未だに目の前から視線を逸らせずにいる。そして、かすかに震えている口元。


 俺たちの視線の先に存在していたもの……

 それは、まぁまぁ可愛らしい女の子と一緒に楽しそうな表情を見せながらショッピングをしていた……高月賢一の姿。


 あぁ、やはりアイツが君を振った理由には、他のオンナの影があったのか。意外というよりも、やっぱりと思った俺は立ち尽くす君の肩に手を置く。

 「夏海……」

 そう声を掛けても、君はそこから動こうとはしないし俺の方を見ようともしなかった。逸らしたいけれど、なかなか逸らせない目の前の現実。

 そんな君を半ば強引に連れては、その場を離れた。

 しばらく歩いているうちに、君はうつむいていた頭を上げては溢れそうになる涙をこらえている。そして……


 「やっぱり、他に女がいたか! いやぁ……参りましたよ」

 強がりを言っている君の肩はさっきよりも震えていて、コントロールできないくらいだった。そんな君の姿を見るのは、とても辛い……。

 「別れてから、もう何日も経っているから忘れる事ができたかなぁと思っていたのに、やっぱりまだ……」



 言葉に詰まる君は、とうとう我慢できずに涙を流していた。立ち止まっては隠さずに涙を見せる君の傍に近づき、俺はそっと君の顔に触れる。


 「見たくなかったなぁ……」


 小声で言う君をそのまま抱きしめるが、それでも君の震えは治まる事を知らなかった。

 「見なきゃ……良かったなぁ」

 後悔しては呟く君に、俺はただ抱きしめては優しく撫でる。君が落ち着くまで、たとえ数多の人間の前であろうと俺はそのまま君を抱きしめる。


 そんな数多の人間の中に、浅井クンが居た事も知らずに……


 しかし、自分の腕の中で涙を見せている君に対して哀れむという感情や、高月アイツに対しての怒りがあった他にもまだ俺の中には歪んだ感情が侵入していた。


 俺と同じような想いを君もこうしてした事に対する……快感という歪んだ感情が……



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