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Chain10 繰り広げられる情事



 始まった“情事の一期一会”






 「うん、いいよその表情! じゃあ、今度は別アングルから」


 とあるスタジオでのワンシーン。K2のジュニアコレクションの撮影で、俺はこうして自分の親父がデザインした服を着せられ暁生さんのレンズに向かってポーズをとっている。

 八歳の頃から始めたモデルの仕事は、K2と暁生さんに勧められて始めた事だったので初めは緊張の塊でしかなかった表情も、今ではこうして自分なりに笑顔やポーズを作っては暁生さんの求めるものに応えている。

 もちろん最初は親の七光りだの、暁生さんや真琴さんのバックアップがどうだのそんな陰口も叩かれてはいたが、十四歳になった今ではもう誰も俺に文句を言う奴はいなくなっていた。むしろ、それまで散々陰口を叩いていたのが今では自分を売り込もうとしてくるようになって、前よりもさらにそんな人間が増えて余計に気分が悪い。


 「ていうか、K2。何であんたが此処にいるの?」

 一通り撮影を終えて、ミネラルウォーターが入ったボトルに口をつけながらすぐ傍にいたK2に尋ねる。撮影中ずっと暁生さんの傍にいて、たまに手を振ってくるからうざいったらありゃしない。

 K2=宇佐美響一は俺の親父で、ブランド“K2”のデザイナーとして世界中で活躍中。ブランド名と同じ、自身の名前もK2としか公表していない所から、俺や暁生さん達もそう呼んでいる。

 「で、その有名デザイナー様がどうして此処にいるわけ?」

 少し落ちたメイクを直してもらいながら、改めてK2に尋ねた。

 「わおっ! ちょっと暁生聞いた? 実のパパがこうして息子の活躍を見に来ているのに、こんな態度されちゃあ悲しくなるよね」

 そう言って、暁生さんの肩を思い切り揺さぶるK2に対して暁生さんはただハイハイと頷いていた。さすが長い付き合いというだけあって、暁生さんのK2の扱い方は慣れたものだわ。

 「今に始まった事じゃないから、わざわざ来ることないのに」

 そう言った後すぐにヤベっと口を押さえたが、K2の反応を見るとそれも手遅れという事が分かった。


 「聞いた? ちょっと暁生聞いた? ちょっと会わない間にこの子ったら反抗期突入しているよ!」

 そう言いながらスタジオ中を走り回っている。これでも一応世界では名を轟かせている筈なのに、全くそんなオーラの一つも感じられないよ。

 「あのね、アンタ一応はお偉いさんなんだから少しはビシッとしておきなよ」

 これじゃ、周りからなめられても仕方が無い。けれど、こんなK2でも決して人からなめられた態度は取られていなかった。これだけふざけた態度を惜しげもなく見せているのに、それでも見下す人間が居ないのだからそれは不思議だといつも思う。


 “それが、アイツのいい所なんだ”


 いつか言っていた暁生さんの言葉が思い浮かぶ。暁生さんよりも長い時間を過ごしている俺にはそんな事まったく理解できなかった。と言っても、毎回毎回こんな風に接して来られたら理解する気も失せてしまうけれど。

 「そういえば、暁生。今日はなっちゃんは来てないの?」

 今日どころか、最近は来てないのにK2はそれに気付かず暁生さんに尋ねる。

 「あの子、今日はマコとじーさん家に行ってるんだ」

 それなのに自分は仕事と、寂しそうな笑みを見せながら暁生さんは答える。この人もホント何年経っても我が子ラブだなぁ。だからこそ、K2とも上手く付き合えているんだろうけれど。

 「あのさ、そう言えば伊織が今度スタジオに来たいって言ってた」

 「シーちゃんが? 久しぶりだねぇ」

 君の話になってしまったから、俺は無理矢理そこへ伊織の話を割り込ませた。K2と暁生さんは伊織の事を、彼のもう一つの名である“鷹司紫柳”からとって“シーちゃん”と呼んでいた。中学生になって初めて出会った伊織は、何とあろう事か鷹司を引き継がずデザイナーになると言い出した。それもあろう事か……K2の影響で。

 こんな親父の素の状態を見て、それでも尊敬する人間が居るなんて俺にとってはこれ以上は無いって言うくらい有り得ない事だった。

 「そうだ。この撮影が終わったら、三人でメシでも食いに行くか!」

 手を叩きながら提案するK2に、暁生さんも賛同する。けれど……

 「ごめん! 今日はこれから用事が入ってるんだ」

 「え〜っ! 久しぶりに会ったのに、それでも行っちゃうの〜?」

 お前は俺の彼女か……。そんなK2に、呆れながらも俺は頷いた。こうして誘ってくれるのもありがたいけれど、俺には先約があるからそっちに行かないといけないし。


 それから再開した撮影も無事に終わらせると、俺は暁生さんとK2に挨拶してから準備をしてスタジオを後にした。

 「ルイ!」

 スタジオから数分歩いた喫茶店で俺を待っていたのは、同じ中学の三年の先輩であり桜の元クラスメイトの奈緒美サン。と言っても、別に友達じゃなかったから俺とこうして会うのにも遠慮は無かったみたいだけど。

 奈緒美サンは昨日、俺のクラスにやって来ては一日限りの恋人を要求してきた。それで、こうして俺の仕事が終わってから日付が変わるまでは恋人になろうと約束していた。

 「ごめんね、待った?」

 「ううん、私もさっき来たばかりだから」

 そう言って奈緒美サンは俺の腕に自分の腕を絡ませると、必要以上にくっついて歩き始めた。仕事終わりで暑い俺にはたまらなかったが、それでも笑顔を見せて応える。


 それから俺たちは彼女の希望通り、映画を観に行ってプリクラを撮ってそして夕飯を食べる。その後は、彼女の家で最初で最後の恋人の関係を結んで終わり。

 「それじゃあ、俺帰るね」

 「うん、ありがとうね」

 お互い服を着て少し話をした後に、俺は奈緒美サンの部屋を後にする。そして、この玄関を出ると俺たちは再びただの知り合いに戻る訳。

 靴を履いて玄関のドアに手を掛けたその時、

 「……んっ」

 無理に反対の方に振り向かされた俺はそのまま彼女の唇に呼吸を邪魔される。ホント、無理だったから首が少し痛かったけれど、それでも俺は“まだ恋人”だからそれに応じる。

 自然と離れてから呼吸を整えると、何も言わずに再びドアに手を掛けて


 「お邪魔しました〜!」


 彼女と彼女の家族にも聞こえるように言ってから、ドアを開けてそのまま出て行った。門から出て、これでお終いというあっさりした関係はこれでもう何度目だろう。

 決して彼女たちを愛している訳ではないのに、それでも続けてしまうこの行為。


 その動機は……気付かなかった気持ちを、ごまかそうとしていただけだったのかも知れない。



 こんにちは、山口です。

 この作品を読んで下さり、本当にありがとうございます! 十四歳にしてここまで乱れている琉依ですが、これからもどうぞよろしくお願い致します。


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