Chain99 そして、運命の時は近づく
俺がロンドンに発つまで、君への愛情は忘れよう……
「いや〜、全員しっかりとトップをキープしたまま二回生になりましたね」
カンパ〜イと六人でグラスを当てているのは、お馴染みのバー“NRN”である。そこでは、無事に二回生になった俺たちだけしか居なかったのだが……
「ねぇ、そろそろ伊織に飽きたんじゃない?」
「えっ? あの……」
「そうだよな。あんなカマなんか、もう飽きたって……」
バキッ!
俺が梓に迫って、その後に渉が同じ様に話しかけたのだがそれを最後まで聞かずに伊織の鉄拳が襲ってきた。
その勢いで椅子から倒れた俺と渉の前に立ちはだかる伊織。そして、俺たちを見下ろすその姿はまさに“男”!
「だ〜れが、飽きたって?」
「俺じゃないですよ! 渉が勝手に……」
「あっ、このバカ! 俺一人の所為にするなよ!」
お前が言ったんだろうが! そうお互い罪を擦り付け合っていたら……
「梓は俺の女だって、言ってるだろうがあぁぁぁっ」
と、またもや殴られる始末。
そう、どうやら伊織と梓はお互い好意を抱いていたらしく、いつの間にやらこのように晴れて(?)恋人同士になったのだが……
「何なら、浮気相手でもいいんだよ?」
「きゃああぁぁぁっ!」
伊織が渉を殴っている間に、俺はそう言って梓を抱き締める。しかし、いつもの梓の反応によって、伊織がこちらへ戻ってきた。
「てっめぇぇぇっ! いい加減にしろや!」
そう言いながら今度は頭突きをかましてくる。そして、激痛にうずくまった俺から梓を取り戻すと、
「まあ! 怖かったでしょう?」
……再び女モードになっているし。激痛を我慢しながら、俺はそんな二人を見ていた。メンバー内で初めて成立したこの恋人同士に、俺は羨ましいという気持ちを抱いていた。
「ほら、お前たち。もうすぐしたら客も入るんだから、少しは大人しくしろよ?」
「は〜いっ」
呆れた顔をしながらやって来た兄貴の一言に、渉は大きく返事をする。あっ、そうだ……
「兄貴! 悪いけど、写真撮って!」
「写真?」
バッグからデジカメを取り出すと、そう頼んでは兄貴に渡す。
「あら? 琉依が写真を撮りたいだなんて、珍しいわね」
蓮子の一言に一瞬だけ表情が固まるが、それでも俺は笑みを浮かべたまま彼らの方を振り返る。
「これね、ちょっと持って行きたい所があってね」
その言葉に、君や伊織そして渉は納得していた。君はもちろん、伊織も渉も何度かはお祖父様の家には行った事があったから。
しかし、俺が言った“持って行きたい所”はお祖父様の家だけではない。これから俺の新たな生活の場となる、ロンドンの事も示していた。
「それじゃあ、撮るぞ〜」
兄貴の呼びかけに、俺たちは自然とポーズをとる。
相変わらずバカなポーズを作る渉、女らしい仕草を見せる伊織の隣では赤面の梓。ちょっと色気を見せ付ける蓮子と、そのマネをする君。
そして、そんな君の隣では微妙な笑みを作る俺……
何も知らないメンバーにとってはただの写真だが、俺にとっては思い出の一枚となる。
恐らく、学生生活では最後の写真となるから……。
―――――
しばらく騒いだ後、俺を除いたメンバーは皆それぞれ家へと帰っていった。君は高月が迎えに来たので、そのまま二人で帰って行ったから俺はこうしてカウンターで飲んでいた。
「まったく……お前はまだ未成年なんだぞ?」
それに、モデルで顔が知れているんだからと小声で説教してきた。そんな兄貴に俺は苦笑いを浮かべると、持っていたグラスをそのまま口に運ぶ。
「もうすぐしたら、海外逃亡するから許してよ」
悪びれる事無く笑いながら、空になったグラスを兄貴へと差し出した。帽子を必要以上に深く被って一人で飲む俺の事を、周りの人間は不審がって気に留める様子も無い。
こんな所でモデルのルイが飲んでいる……誰が思うだろうか。
そんな俺に兄貴は新たに酒を淹れては、俺の前へと置く。どれだけ注意しても、この我が侭な弟には無駄なことだと……諦めた訳だ。
「大丈夫だよ。日本にいる間は、もう無茶なことはしないから……」
それでも心配している兄貴に俺はそう言うと、グラスに手を伸ばす。
あと、どれくらい君の傍にいられるかわからない。けれど、それまでの間はただ君を見守る事だけに専念するから。
俺ではない他の男といる君を……