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Chain95 起こしてはならないミス



 間もなく……俺に道は開かれる……





 数日後、もう一つの大きな仕事でもある“K2”の撮影が行われるスタジオに俺は車で向かった。


 「おはようございます」

 「お〜、琉依! 今日はえらく早いな!」

 ヤル気満々ですからと笑っては早速メイクに取り掛かる。既にスタンバイしている暁生さんの隣では、K2がスタッフと打ち合わせをしていた。

 「ルイくん、今回の撮影も“sEVeN”の時のようにカッコいいの見せてね」

 「あの時よりも、もっといいのが出来るよう頑張るよ」

 スタッフの一言に、俺は笑いながら答える。確かに“sEVeN”の時は今までの中でベストだったと思いはしたが、それで終わってしまわないようこれからももっと努力するつもりだ。

 「当たり前だよ。ヴァンに悔しい思いをさせてやるから!」

 そう言ったのは、いつの間にか打ち合わせを終えてやって来たK2だった。


 「琉依は俺の息子だからね。俺の作品を身に着けた時こそ、最高の演出が出来るんだから」

 久しぶりに聞く“我が子ラブ”ともいえる台詞に、俺は恥ずかしいのやら情けないのやらで俯いてしまった。

 アンタは、世界でも有名なブランドのデザイナーなのだから、自分の息子を贔屓にするような台詞を吐いたらダメですよ。まあ、K2(バカ)だから解らないかとは思いますが……

 「でも、何だか今日のルイくん顔色悪くない?」

 「えっ?」

 スタイリストの思いがけない一言に、俺は思い切り彼女の方を振り向いてしまった。少し瞳を大きくしては固まっている俺に、彼女は驚くと

 「あら? どうしたの、もしかして本当に具合が悪いの?」

 「そうなの? 琉依」

 思わぬ反応に驚いた彼女の言葉に、傍に居たK2もそう尋ねては俺の表情を伺う。

 「まさか! 今日の俺は至って健康ですよ? そうじゃなきゃ、今日の撮影を延期してもらっていましたよ」

 適当に答えては作り笑いを見せる。そんな俺を見たスタイリストやK2は納得したような表情を見せて頷いていた。

 「それならいいけれど、モデルは自分の体調管理もしっかりしないといけないぞ?」

 「解ってますよ、それくらい……」

 K2の一言に、少しムッとしながらそう答える。しかし、それがいけなかった……


 「暁生〜っ! 琉依が! 琉依が、俺に冷たくする〜!」

 「あ〜っ! もうウザイんだよっ!」

 自分が表情を一気に蒼くさせると、すぐに暁生さんの方へ走っては愚痴っている。そんなK2を、暁生さんは迷惑そうに突き放していた。

 そんな二人のやり取りを見ている俺に、スタイリストはポンッと肩を叩くと

 「でも、本当に顔色が良くないから気をつけてね?」

 「……そうですね」

 そんな彼女の一言に、俺は苦笑いを見せながら答える。


 俺や君の両親は気付いていないが、俺と君が口を利かない日が続いてもう何日経っただろうか。あれから俺の心の中には何か、モヤモヤした感じが残っていて気分も悪いときが続いていた。

 大学で君の顔を見るのが嫌で、その度にお祖父様の家に行っては過去の良い思い出に浸っては後悔して……苦い過去を思い返しては吐き気を催して倒れる……

 本来なら仕事に取り組める程、ベストな体調ではなかった。しかし、俺から仕事までも取ればもう何も残らないから……だから、こうして来たのだが

 「まさか、そう簡単に見抜かれるとは思わなかったな……」

 それくらい俺の心身は限界を迎えているのかもしれないな……



 「それじゃあ琉依、今度はこっちを見て」

 それから開始した撮影は、そんな俺の思いとは裏腹に順調に進んでいった。仕事をしている時は他の事はいっさい考えない事……昔から徹底していたお陰もあるのか今の俺には迷いなど無かった。

 いつも通りレンズに視線を向けては自分なりのポーズを作る。そして、衣装を変えては再びカメラの前に立ってその衣装を引き立たせる。

 カメラを持つ暁生さんの隣では、父親ではない“デザイナー”としての顔をして見ているK2の姿。

 ヴァンと一緒に仕事をした時以上の力を彼に見せようとしているが、それを彼にはどう伝わっているのか……

 そう意識しながらレンズの方を振り返った時だった。


 「――!」


 これは幻なのか? それとも、本当にいるのか……動揺する俺の視線の先にいるのは、K2の隣に立っている君の姿だった。

 「琉依?」

 混乱して思わず立ち尽くしている俺に、暁生さんが怪訝な表情で声を掛けてきた。K2もまたどうしたのかと表情を変える。しかし、そんなK2の隣では君はただ一人変わらない表情で立っていた。

 やはり……幻?

 そう思っていた時、俺の膝は地面へとついていた。そして、いつかの時と同じく上手く息が出来ない苦しさに襲われる。

 「かは……っ」

 「琉依っ!」

 首をおさえては倒れこむ俺の意識は、誰のものか解らない声を聞いたのを最後に閉ざされた。


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