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Chain9 始まった情事の一期一会で



 ねぇあの時、俺の方を見ていた君は何を思っていたの?






 「うっさみく〜ん……」

 「は〜い?」

 二学期もそろそろ終わる頃の昼休み、渉が蒼い顔をしながら俺の席までやって来た。

 「あのさ、ちょっと聞きたい事があるのですが……」

 何だ? こんなパターン確か以前にもあったような気がするなぁ。でも、その時は確か……


 「宇佐美くん! 聞きたい事があるんだけど!」

 “あの時”の女子たちが揃って走ってきたかと思うと、先に居た渉を突き飛ばして俺の机にもの凄い勢いで手を置いた。

 「な、何〜?」

 「何〜? じゃないわよ! 噂で聞いたけど、香山先輩と別れたってホント?」

 その大きな声のお陰で、周りにいたクラスメイトも一斉に俺を見てきた。思わず渉の方を見ると、どうやら渉も同じ事を聞くつもりだったのか一緒に頷いていた。

 「ど、どうなの?」

 「琉依、マジか?」

 俺が誰と付き合おうが別れようが勝手なのに、どうしてまたこんなにも騒ぎにするかなぁ。

 「ホントですよ」

 「やったぁぁぁっ!」

 今度はちゃんと最後まで聞いてから絶叫する彼女たち。それにしても、人が付き合っていた女と別れたのだから普通“やった”はないでしょ?


 「……で、どうしてまた別れたんだ?」

 気付けばそこには渉しか居ない俺の机の周り。さっきまで一緒に問い詰めてきた彼女たちは、俺の答えに満足したのか理由を聞く事も無くどこかへ行ってしまった。そして、今は一人残っている渉にその理由を問い詰められていた。

 「別れたって、お前三ヶ月も経っていないぞ? 飽きたのか?」

 確かに、桜と付き合い始めたのは二学期が始まってすぐの事だからまだ三ヶ月も経っていないか。

 「飽きたって言うか、桜が俺に愛想を尽かしたんだよ」

 「何!? じゃあ、お前振られたの?」

 頷く俺に渉は更に驚きの表情を見せていた。

 振られた……確かにアレは振られたって言うんだよなぁ。


 “もう、琉依にはついていけないよ。思っていたような人じゃなかった……”


 まだ記憶に新しい、桜の泣きながら話した言葉が頭に浮かんできた。桜は付き合ってから俺がモデルの仕事をしている事を知った。もちろん仕事もあるからそんなに毎日一緒に過ごせない。それはそれで桜も何とか理解してはくれていたけれど、現実はそんなに上手くはいかなかった。

 仕事がだんだんと増えていくうちに桜との距離が遠くなっていき、デートはもちろん連絡もとれない。学校が終わった後も、一緒に帰る事無く俺は迎えに来た車でそのままスタジオへ直行。そんな日が続くごとに桜の中では限界が近付いていたのかもしれない。

 それである日、別れはやって来た……。そして言われた言葉がこの言葉。

 「まあまあ、そう気を落とすなよ。またいい女見つければいいんだ」

 「別に……落ち込んでいないけど?」

 俺の言葉に再び驚く渉。振られたとは言ったけれど、一度も落ち込んでいるとは言ってないぞ? だって、好意を持っていたのは桜の方だけだから。俺は告白されたときから今に至るまで、一度も彼女に好意を抱いた事は無かった。

 付き合う時も、俺は初めからちゃんと断っていたし。桜もまたそれでもいいと言っていた。キスしてきた時の桜の挑発に乗って始まったような付き合いだったから、俺は別にこんな結果になって後悔なんかしていなかった。寂しいとすら思わない。それは付き合っていた時も、仕事で会えない時もそうだった。だって……


 桜の事よりも、仕事の方が大切だったから……


 何とか好きになろうと思っても、それは変わることは無かった。桜と一緒に居る時やキスをしている時も仕事の事でいっぱいだったけれど、仕事をしている時は桜の事なんか頭に浮かんでくる事は無かった。どんなに疲れていても彼女に会いたいと思うのが普通らしいけれど、俺はそんな事よりも一時間でも長く睡眠を取りたいと思っていた。

 「そんな訳で、俺たちは恋人らしい事など何一つする事無く終わりましたとさ」

 「はぁ。なんて言うか、お疲れさん」

 どうも……と片手を挙げて応える。でも、これで分かったよ。俺には人と付き合うって言う事に向いていないって事が。モデルの仕事をしている限り、俺はきっと相手の事を一番に考えてやれる訳が無い。そして俺もまた、仕事以上に大事にしたいと思うような女性を見つける事が出来ないと思った。

 「それで……あの人とは、ヤッたのか?」

 この年頃の男の子の一番興味を抱く質問をごく自然にぶつけてくる渉。やっぱり、こいつもちゃんとした男だったか! そう思いながらも俺は首を横に振った。

 「意外! お前の事だから、とりあえず頂いちゃうかと思ったのに!」

 俺って、そんなにもエロさ全開だったか? だから、ホントに仕事ばかりだったからそんな暇も無かったんだって。それにまだ十三歳なんだから、そんなにがっつかなくてもいいでしょ?

 「でも、仕事ばっかりだったらお前しばらくは女と付き合えないしヤれないな!」

 「あぁ、そんな事無いかもよ?」

 何で!? そう尋ねてくる渉に笑顔で答える俺。確かに付き合う事には向いていないかもしれないけれど、案外うまい事やればそっちの事も経験できるかもしれないし?

 「情事の……一期一会って奴だよ」

 「一期一会〜?」

 俺もやっぱりオトコだから興味あるし、それに遅れたくないからね。特に目の前に居る渉には負けたくないし!


 「宇佐美〜! 三組の子が呼んでるぞ〜」

 「サンキュー!」

 クラスの男子の呼びかけに振り向くと、廊下には赤い顔をしながらこちらを見る女の子が立っていた。

 「琉依、あの子って三組の中で一番可愛い子で有名な子だぞ?」

 「ふ〜ん」

 特に興味も無く、とりあえず彼女の方へと近寄る。そして、そのまま場所を変えて彼女の話を聞く。

 「あの、私ずっと宇佐美クンの事が好きでした!」

 桜と別れたって噂が広まった途端、またこの呼び出し。本当にありがたい事なんだけど、俺はもう懲りてしまったからなぁ。

 「俺さ、誰とも付き……」

 「別に付き合えなくてもいいんです! ただ、一度だけ……思い出を下さい」

 はっ? マジで? そんな話をしていた所に、またタイミング良く上手い話が降って来た事に俺は驚いてしまった。

 もしかして、この子も慣れているのか? 桜と同じ様にソッチ系の事に慣れているから、こんな事が言えるんだよなぁ。

 「あの、宇佐美クン?」

 目を潤ませながらも見つめてくる彼女に、俺は心の中でため息をつく。


 「思い出作り? いいね、それ。でも、後から付き合ってとかは言わないでね」


 それから、俺の“情事の一期一会”は始まった……




 こんにちは、山口です。

 ここまで読んで下さり本当にありがとうございます! 今回から始まりました、琉依の“情事の一期一会”これは大学生まで続きますが、まさか13歳で始まるとは……早過ぎでしょうか?

 それでも、彼女=桜とは関係を持っては居なかったのは、まだそこまで変態大魔王ではなかったのでしょうね……。

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