ゆうかい
制服を着た育ちの良さそうな小学生の女の子
黒いバンが横切った。女の子はいなくなっていた。
「静かにしてれば無事に帰してあげるからね」広野が言った。
「ついにやっちまったな…」女の子の口を塞いでいた手を離す大谷。
そんな後部座席をバックミラーで見ている眼鏡の宮崎。
3人の若者は、金に困っていた。だが、彼らには働く気がなかった。
大金を簡単に儲ける方法を考えていた大谷、宮崎に広野が提案した。
金持ちの子供を誘拐して身代金を要求する、そんなありきたりな計画だが
警察に通報されずに穏便に済ます為にスケールのでかい金額ではなく
金持ちからすれば、はした金ほどを要求することを広野は考えていた。
「で、どうするんだよ広野」ひと仕事終えてタバコをくわえた大谷
「とりあえず、家の電話番号を聞かないとな…君、お名前は?」
「神原桃花です…小学三年生です。」自分の立場を察していたのか、言葉に力がない。
「桃花ちゃん、小3なのに敬語なんて偉いね。お家の電話番号教えて欲しいんだけど…」
「え、分からないです…」
計画は頓挫した。広野がこの計画を大谷と宮崎に伝えたとき、2人には広野が救世主に思えただろう。
だが、しかし酒の入っていた彼らは計画を細かく整理せずに、ついに実行の日を迎えたのだった。
「広野…。どうしよう…。」車を止めた宮崎
「わかんねーよ、どうすればいいんだ…」
「誘拐じゃないのですか…?」
「え?あ、その…お兄ちゃん達はね、桃花ちゃんを家に送るようお父さんに頼まれてるんだよ!」
「なら、あんなに手荒に扱わないですよね?誘拐なんですよね?ちゃんと計画練ってから実行してください!」
「はい、すいません…」
「おい、広野!ガキ相手に弱気になるんじゃねーよ!宮崎からも言ってやれよ!」
「…。」うつむく宮崎。
「お、おい…。」
「お金目的なのですよね…?せっかくお父様が私の為にどれだけ頑張ってくれるのか確かめられたのに…。」
桃花は背負っていたリュックから携帯電話を取り出した。そしてどこかへ電話を掛けた。
「広野、止めろよ!」
「もう終わりだ!捕まっちまうんだ!大谷、広野、刑務所でも仲良くしような…。」
「桃花ちゃん、頼むよ!警察にだけは掛けないで!」
「もしもし?お父様?私、迷子になってしまって三人の優しいお兄さんが家まで送ってくれるの。そう、だからちゃんと出迎えてね。じゃーね。」
広野、大谷、宮崎は目に涙を浮かべながら、桃花の電話の内容に目を丸くした。
携帯持ってるなら家の電話番号くらい…なんてことを思いつつ桃花を家まで送ることにした。
桃花の家は豪邸とはまさにこれの事と言わせるほどの物だった。三人は執事を初めて目にした。
「この度は桃花お嬢様を送って下さり、まことにありがとうございます。奥の部屋で父親の神原様がお待ちです。」
執事が大きなドアを開けると、そこには大きなソファに座った大きな男が居た。ひざには小さな桃花を座らせている。
「君達が桃花を送ってくれたのか。本当にありがとう。これはお礼の気持ちだ。」
神原は分厚い封筒を3人に渡した。そして執事に送迎せよと目で合図をした。桃花は帰っていく彼らに手を振った。
「一時はどうなることかと思った」未だに汗をかいている宮崎
「何している人なんだろうな神原って人は」振り返り神原宅の大きさを再確認する大谷
「しかし何だかんだで金稼げたから良かったよな」貰った封筒を掲げた広野
「いくら入ってんだろ?」
「この厚さだぜ?下手したら100は入ってるぜ!」
「よっしゃ!開けようぜ!」
分厚い封筒の中にはびっしりとクーポン券が入っていた。神原は共同購入型クーポンで伸し上がった企業家であった。おわり。