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暗闇の中で

私の名前は、柳 聖小

(やなぎ せいこ)。


もののけが憑いたと噂されている、十三歳の女の子。

もののけ、ていうのは普通お化けとかの事だけど。


柳一家本家では、主に神様の事を言われてるの。


ギリシャでいう、アポロンとか、アフロディーテとかはたまた天空の神ウラヌスとかが、分かりやすいけどね。


まあ、なんだかんだで、私の生まれた柳一家では、皆もののけつきで、生まれるんだ。


そして、私は十三年間そのもののけつきの事で、ずっと幽閉されてきた。


私には、愛の神様で知られているアフロディーテと、謎の神様がいるの。


でも、私だって外の世界に出てみたい。


だから、今日こそ絶対に、この夢を叶えるんだ!


そうして私は、まだ見た事の無い外の世界を見るために脱走する事にした。



「お母さん、なんで私は

皆と一緒に遊べないの?」

そういって私はいつも涙をながしていた。


私は、幼い時からもののけというものに憑かれていたために、ある家の地下室に閉じ込められていた。


そこの空気穴から見える、同い年くらいの子供を遠くらみるという楽しみは、いつからか自分はあの子供達と一緒に何故遊べないのだろうという疑問を私に抱かせていた。


そんな私に、母親はいつも「貴方をとても、愛してるからよ。」と、答えるのだ。


そんな、母親の精一杯の努力を、私は壊してしまった。


それは、ある春の一日。


私が初めて約束を破った事がもたらした、私の幸せの一時。


そして、初めての外の人との出会いの時を、私は静かに迎える事になる。

今まで、決して踏み込む事を、許されなかった土地。

初めて感じる土を踏む感覚や、初めて吸う外の空気。

全て新鮮で物心ついてから一番最初の「初めて」だった。


「これが、草でこれが花。 なんて、美しい…。」


儚く風に揺れるたくさんの野花が、月光に照らされていて、本当に綺麗で感動的だった。


と、そのとき。


「そこのお嬢さん。

ちょっと、おじさんと一緒に遊ばない?」と、見るからに怪しい男性が近づいてくる。


〈怖い〉


素直にそう思った。


その時、視界の隅でナイフが光った。


さらに、風に吹かれて、お酒の匂いもする。


「こ、こないで…っ!」初めての外で味わう初めての恐怖に、固まったその時。


「オッサン、何やってるんだよ。」


「…誰だ?」


まるで、勇者の如く同い年くらいの―…、14才くらいの男の子が、現われた。


「警察だ!」

男の子は、焦ったように、そう言うと、素早く私の手を握る。


「走れ!!」


「あ、え…?」


そしてしばらくして男から逃げた後で、話しかけてみたのだった。


「あの、助けてくださり、ありがとうございました。私、青柳 鏡子です。」

「あんた、本当にやばそうだったから。あともう少しで、誘拐されてたぞ。

ここら辺は、危ないから気をつけた方がいいぞ。」

そう、言うと、素早く服に付いた泥をはたく。


「じゃ、俺もうそろそろ、時間だし行くな。

…途中まで送ってくよ。」

「あ、ありがとう…。」


あまりの展開に、ビックリしている私を見て微笑する。


「何?」


「いえ、本当にありがとうございます。

お名前をお聞きしてもいいでしょうか?」


そう、自分で言いながら、急に恥ずかしくなって、照れ笑いをすると。


「また、明日ここ来るから、その時教えるよ。」


そう、二人にしか聞こえない声で、彼は囁いた。


こうして、私は外での初めての関係を手に入れたのだった…。

私の部屋は、地下の1階なので、トイレに行くと言って外の世界に足を踏み入れたのだ。


「わあ、ここが外か…。」

嗅いだ事のない匂いや風景を見て、あらためてびっくりしたのは、天上が無いのと電気が無くても明るい事だった。


「あ、早くにげなきゃ…」

そうつぶやくと、私は塀をよじ登って急いで降りた。

と、その時。


ドスン!!


と、誰かにぶつかってしまった。


「いてててて、て…。

ああっ!ごめんなさい! だ、大丈夫ですか?」


「あー、無理かも。」


そうつぶやくと、その男の子は、急に私をにらむ。


「…お前… 」


「…え?」


そう言って、少し眉をひそめた時。


後ろの方が騒がしくなってきた。


たぶん、脱走がばれたのだ。


「あの…!」


選ぶ事など、できる訳なかった。


「少し、かくまって下さいませんか?」


みずしらずの人に、いきなり言われた事が、理解できないようだった。


でも、ここで負ける訳にはいかない。


「お願い…。

 じゃないと私また…!」

頭を下げながら、必死に頼むと、情けなくて、どうしようもなくて、涙が流れそうになった。


「…、分かった。」


その男の子は難しそうな顔をすると私の手を、静かに引っ張って歩いてくれたのだった。


これが、私の人生を大きく動かす事になるとは、この時の私は、まだ気づかなかったのだった。

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