-0 運命共同体
マイナスゼロ
「うーん……んぁ…」
目の前に1人、横になっている少女がいる。半袖スカートの制服姿。白い靴下に黒の革靴。目立つ赤リボンに黒髪ロング、シャープな輪郭で知的に見える容貌。間違いなく若き日のあいつそのままだ。計画の滑り出しは好調なようで、とりあえず人の形をしていることに安堵しつつも、直前にされたことを思い出し寝こけている彼女をゴロゴロと転がし額にチョップを浴びせる。こやつめ、涼しい顔しおってからに…積年の恨み如何に晴らしてくれようぞ。手をワキワキさせながら報復方法について思い巡らせていたところ…
「ん〜……っ…」
お目覚めが近いようだ。まあ、彼女がこれから為さねばならぬ事を思えば、それこそ報復なんぞ要らないのかもしれない。待ち受ける数々の試練は、きっと彼女には相当な負担になるに違いなく、試練の先にあるものも報酬なんかではないのだ。彼女と私との間にある運命は縺れ、捻じれ、捩れ、兎にも角にもぐちゃぐちゃに交錯し、その影響は世界中を巻き込んで、全人類を飲み込んで、私たちを運命の螺旋へと誘った。世界はあるべき未来への道を見失い、人類は本来のカタチを失い、私たちはそれらの責任を追及される立場にある。私はともかく、彼女はもしかしたら理不尽に思うかもしれない。それでも背負わなければならない重責だ。なぜなら共鳴してしまったあの日から、彼女は私と一蓮托生なのだから。
さて閑話休題して、そもそもなぜ人が寝入っている所にお邪魔しているかだが、こやつはべつに寝ているわけではない。起きてもないが。now loadingというやつだろう。そしてもちろん私怨を晴らすのが目的ではなく、私は出迎えに来たのだ。
「んあー…」
ここは外界とは隔絶された世界。外部から歩いてたどり着くこともなければ、あるゆる乗り物に乗ってさえ到達できない場所。基本的に私の支配下にある空間だ。そして認識が存在の基盤になる世界でもあり、それが彼女が未だ目覚めない理由だろう。つまり、ここにあるのはまだ彼女の外殻だけで、内側については遅れているのだ。人を思い浮かべるとき、まず姿形を、次に為人を、といった具合にだ。
なかなか起きないついでに少々問題もあることがわかった。どうやら彼女は余分なものまで引き連れて来てしまったようだ。ここに彼女が現れるとわかっていて出待ちしていた私は、目覚めていないことを確認し、必要な一手間を施す。
「ごっほ!げほ…いっっった…なんなの…」
この場所への入場が許可されるのは彼女だけ。それ以外は許されない。喉奥に施した封印の機能に問題も無さそうで、苦し気に呻いた後は起き上がり、不思議そうにあたりを見回している。
改めて、私の役割は彼女を覚醒に導き、生き永らえるようサポートし、その上で必ずや彼女に使命を果たさせることだ。そのためならば彼女の生命に支障の無い範囲でなんでもするし、必要とあらば我が身さえ擲つ覚悟がある。
「ここは…?」
「おはようございまーす」
「うひぃ!?しゃ、しゃべった…!?」
手を振って挨拶する私に彼女が驚く。無理もない。彼女から見て私は人の輪郭を持った光の塊か何かに見えているはずだ。そのように先ほど彼女の認識に細工した。ここが特殊な領域であるが故にそういう事も容易い。ともあれ、それで敵だなんて思われては元も子もない。敵じゃないよアピールでなんとか場を収めねば。
「だ、誰ですか?」
「混乱されているようですが落ち着いてください。あなたに危害を加えるつもりはありません。むしろ私はあなたの手助けをするためにここにいるのです。」
動揺している様子を見せる彼女は、言われた通りに暫く視線を下げ胸に手を当て息を整える。彼女は平静を取り戻そうとする時いつもこうしていた。目を閉じるまでに至らないのは警戒心の強さゆえにだろう。久々に見た彼女らしさに一種の感慨に近いものを覚えるが、私自身は彼女から信を得られていないようなので、安易にこの感情を表に出しては無用に不信感を募らせるだけだろう。そら見ろ。上げたその顔からは戸惑いの色が消え、もう既にまるで不審者を前にしたかのような態度をしている。胡散臭いものを見るようなそのまなざしからは先ほどの弱弱しさは感じられない。まだ何もしていないのに、はじめましてでこの有様だ。こりゃ参った。
「はあ…で、ここはどこであなたは誰なんですか?」
「まず、異世界です!」
「へー」
「次に、精霊くんですね!」
「名乗る気はない、と。そんな調子でよく手助けがどうこうなんて言えたわね」
「同行だけに、つってw」
「…」
凍てつくような視線を感じたが気にしてはいけない。胸を張って宣言する。
「ワタクシさまがいるからにはこの異世界ライフ、十二分に堪n」
「一人で十分よ。十二分は要らない」
そう言ってスタスタと歩きだしてしまう。マズい。
「待って待って待ってって!びっくりしたよ、どこ行くつもりなのさ。異世界転生直後に目の前で不思議生物が話しかけてきたら、そりゃもう親切なナビゲーターさんでしょうが!ちょっとは耳を傾けてくれてもいいと!いいんじゃないかと!ボクはそう思いますよ!」
「さっきの調子でナビをしたところで役に立たないのは自明でしょう?もう少しマシな役回りを選んだら?」
と言ってまた歩みだしてしまう。うむ、やはり起きる前に処置を済ませておいてよかったぜ。起きてからでは絶対に手遅れだった。ともあれ、気になるのは彼女だ。本当にどこに行くつもりだ。
「う~ん…」
「あ、ホントに考えてるんだ。普通に付いてきてほしくないんだけど」
「え、あ。もしかして逃げてた?」
「うん。当然。不審者じゃん」
つかみで失敗したのがここまで尾を引くか。むしろ、会話に応じてくれているだけ温情なのかもしれない。あるいは…
「僕無しじゃどこにも行けやしないよ」
「…どういうこと?さっきと違って、はぐらかす意思を感じない物言いね。なにかまともなこと喋る気になったの?」
やはりそうだったか。この環境、一人では耐えられまい。ここでは認識することが存在することに繋がる。逆に言えば、彼女が認識した事すらないものは彼女の前では存在できない。落ち着きを取り戻してから、うっすらと孤独を察していたために態度が軟化したのだろう。
「まわりに何が見える?」
「なーんにも。だだっ広くて白い床が延々と続いてる。こんな場所が異世界?現れたのが精霊?宇宙人に拉致されて宇宙船の中、とでも言われたほうがまだ信憑性があるわね」
「ここが異世界というのもあながち間違いというわけでもないさ。僕の正体についてはまあ、今はそれほど重要じゃないはずだよ。僕を信じていいのか否か。問題はそこだろう?そして君は信じざるを得ない。今の君に選択の余地は無いんだ。5億年ボタンじゃあるまいに、果てしない荒野をただ流離おうとでも言うのかい?」
「はあ…まあ、わかったわ」
「ありがとう。すまないね。でも、君に僕は必要だから。そして僕も」
そう、必要なのだ。私達は、互いに求め合う。互いを。そして、答えを。
『では手を出して』
『僕が『私が『我が『ワタクシが『俺様が『ボクチンが『俺ちゃんが『吾輩が、そんな君にプレゼントを用意した。君に必要なものだ』』』』』』』』
『運命は君をここに導く』
『終端の、僅か手前で』
『因果は時空を超えて結ばれる』
『我々が共に解を求める探求者であるうちは』
『我々は運命を再解釈する』
『結末を記す最後の一筆を求めて』
『文脈の屍を築く』
『ただ、我々が満たされる真理のために』
広げた彼女の手には「鍵」が置かれていた。
処女作。ラストの展開はこうしたいというのがあるけど、それまでの過程はフワッとしてるから普通にエタるかも。今話は、こういう作品にしたいという自戒も兼ねての投稿。設定ばっか妄想して、いつまで経っても書き始めようとしない自分に危機感を覚えたため。わからないけど3~5年?ぐらいそんな期間があった。協力者とか、人に話してアドバイスを貰いに行った事が無いから論理的な齟齬があるかもしれないけど、なんとか書き上げたい。そういう所存。正直に言えば自分の頭の中を晒すのは恥ずかしい。




