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森と向こうの扉  作者: 03


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5/33

午前五時の検問

午前四時五十五分。

円山公園入口。

空はまだ暗く、街灯の光が雪を照らしている。

迅はリュックを背負い直した。

「寒っ……」

吐く息が白い。

翔太は腕時計を見る。

「あと五分で予定時刻」

圭は地面を見つめる。

「昨日より人の足跡多い」

「除雪じゃね?」

「違う。ブーツと革靴」

嫌な予感。

そこへ美咲が到着する。

「……ごめん」

赤い眼鏡が曇っている。

四人が揃う。

森の入り口は目の前。

その瞬間。

「ちょっといいかな?」

背後から声。

振り返る。

パトカー。

迅の心臓が跳ねる。

◆ 包囲

警察官が二人。

若いのと、年配の。

「こんな時間に、どこへ?」

翔太が答える。

「散歩です」

「装備重そうだね?」

圭のリュックを見ている。

逃げられない。

「最近この辺、不審者情報あってね」

若い警官が言う。

「荷物、見せてもらってもいい?」

断れば怪しい。

迅の頭が高速回転する。

(バット出たら終わる)

(熊スプレー出たら終わる)

翔太が一瞬だけ迅を見る。

何か考えている。

そして。

「その前に質問いいですか?」

警官が眉を上げる。

「なに?」

「不審者って、森の中ですか?」

「まぁ主に公園周辺だね」

翔太は静かに言う。

「それなら、入口で止めている今が一番安全ですね」

警官が少し戸惑う。

「は?」

「森に入らないなら問題ない、ということですよね?」

論点をずらす。

“入る”と言わない。

迅がすぐ乗る。

「俺たち、森入らないっす」

圭が小さく頷く。

「入口の売店前で待ち合わせ」

美咲が付け加える。

「日の出見に来ただけです」

警官は四人を見る。

疑いはある。

「じゃあ荷物」

ここが山。

迅は笑う。

「野球の朝練です」

バットを自分から出す。

堂々と。

「円山球場使うんで」

実際、近くにある。

警官はバットを見る。

「この時間?」

「朝練、六時から」

翔太が即座に補強。

「早く来すぎました」

自然だ。

完全な嘘じゃない。

警官は圭のリュックを見る。

「それは?」

圭は一瞬止まり――

そして腹を括る。

「自由研究です」

双眼鏡を出す。

「円山の野鳥観察」

本当だ。

「熊スプレーは?」

年配の警官が指す。

圭の喉が鳴る。

迅が割って入る。

「北海道なんで!」

勢い。

「親に持たされました! 使いません!」

一瞬の沈黙。

警官同士が目配せする。

“子どもが大袈裟に準備してるだけ”

そう見えるかどうか。

年配の警官がため息をつく。

「森には入るなよ」

「はい!」

四人同時。

「六時になったら球場へ行け」

「はい!」

パトカーはその場に残ったままだが、

少し位置を変えた。

入口正面から、道路側へ。

監視はしている。

だが――死角ができた。



迅が小声で言う。

「詰んでね?」

翔太は周囲を見る。

「正面は無理だ」

圭が言う。

「西側の遊歩道、除雪入ってない」

「柵あるぞ」

「古い。低い」

美咲が小さく言う。

「私、先に行ける」

迅が即座に首を振る。

「ダメ」

翔太が冷静に判断する。

「警察は“入口”を見ている」

圭が続ける。

「森全体じゃない」

迅がニヤッと笑う。

「回り込むか」

四人は売店方向へ歩く。

“球場に向かうふり”。

パトカーの視線を背に感じながら。

角を曲がる。

建物の陰。

翔太が小さく言う。

「今」

四人は一斉に走る。

除雪されていない脇道へ。

雪が深い。

足が取られる。

息が荒い。

圭が先頭。

「こっち!」

低い木製柵。

古い。

雪で半分埋まっている。

迅が押す。

ギシ、と鳴る。

一瞬、全員が凍る。

遠くでエンジン音。

止まらない。

圭が体を滑り込ませる。

迅、翔太、美咲。

最後に柵を戻す。

雪を払い、足跡を軽く崩す。

心臓がうるさい。

数秒。

サイレンは鳴らない。

「……抜けた」

森の中は静かだった。

入口はもう見えない。

翔太が言う。

「今からは、本当に自己責任だ」

迅は笑う。

「最初からな」

美咲は振り返らない。

守ってくれる大人はいない。

四人だけ。

白い森が、目の前に広がっている。

そして。

足跡がひとつ。

自分たちのものではない。

森の奥へ、続いている。

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