偶然の反撃
霧の森。鳥居の前。
健太の共鳴は限界寸前。
精神世界の霧は黒く濁り、足元が揺れる。
圭が叫ぶ。
「健太、いけ!あと少し!」
翔太が息を詰める。
迅も歯を食いしばる。
烏天狗の赤い目が、静かに光を放つ。
羽音が頭上で響き、迫ってくる。
迅がバットを握る。
「……やるしかねぇ!」
振りかぶるが――バキンッ!
バットは一瞬で折れた。
烏天狗は翼を広げ、反撃を加える。
風圧で全員が押し戻され、荷物が散乱する。
懐中電灯、タオル、縄跳び、そしてクマ撃退スプレー。
その瞬間――
烏天狗は踏んだ。
縄跳びのグリップを踏み、バランスを崩す。
大きく転ぶ。
その瞬間、圭がとっさにスプレーを手に取る。
「……ここしかない!」
思い切り噴射。
白い霧が烏天狗を包む――
――そして、驚くべきことが起きた。
羽ばたきが止まり、赤い目が瞬き、動きが鈍る。
前進も阻まれ、まったく動けない。
翔太と迅は目を丸くする。
「え……効いたのか!?」
「圭……やるじゃん!」
健太は共鳴を最大化し、霧の中で美咲に手を伸ばす。
鳥居の結界がわずかに揺れ、亀裂が走る。
迅が美咲に手を伸ばす。
「つかめ!美咲!」
美咲は泣きながらも手を伸ばし、迅にしっかりと掴まる。
「良かった……!」
烏天狗は再び立ち上がろうとするが、スプレーの影響でまだ動けず。
偶然の隙に、五人は結界から美咲を取り戻すことに成功した。
健太は左手の痣を見つめる。
淡く光は残っている。
迅は胸を張り、ニヤリと笑う。
「……な、縄跳びも役に立つんだぞ。
みんな、いらないって言ってたけどな!」
翔太が苦笑いする。
「ほんとだ……まさかあれで烏天狗が転ぶとは」
圭も少し笑い、肩を落とす。
「でもスプレーがあってこそだぞ。俺が用意してよかった」
雪解け水で濡れた足元、散乱した荷物、そして震える胸。
森の霧はゆっくりと後退し、鳥居の奥に漂う影は消えない。
だが――
四人の手元には、確かに美咲がいる。
喜びと達成感が胸に広がる瞬間。
同時に、次への緊張もまた、ひそかに忍び寄っていた。




