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鼓動
最初は、誰も気づかなかった。
夜。
札幌の住宅街。
低い音。
ドン。
……間。
ドン。
大型トラックの遠鳴りのような、
地下工事の振動のような。
だが市の工事予定はない。
気象庁の観測にも異常なし。
それでも。
森に近い区域ほど、音ははっきりする。
ドン。
ドン。
間隔は一定ではない。
心臓に似ているが、規則的ではない。
“育っている鼓動”。
霧。
今度ははっきり聞こえる。
ドン。
地面の奥から。
美咲の足元の霧が震える。
鳥居の赤い線が、太くなっている。
奥の影が、前より近い。
一本角。
丸い体。
目が、開く。
黄色。
「小さき秤」
声は重い。
空気が振動する。
美咲は震えるが、目を逸らさない。
「あなたが、鬼?」
沈黙。
「名はまだ定まらぬ」
低く笑う。
「人が忘れ、封じ、
形を失わせた」
美咲は息を整える。
「どうして子どもを連れてくの」
鬼の輪郭が揺れる。
「恐れは純。
混じりなき感情は、門を動かす」
「それって、怖がらせたいだけでしょ」
鬼の目が細くなる。
「違う」
鼓動。
ドン。
「均衡を戻すためだ」




