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目覚めの縁
機械音が一定のリズムを刻む。
健太の瞼が、ゆっくり開く。
焦点は合わない。
だが――
「……赤い、線」
看護師が凍りつく。
「お母さん、呼んで!」
健太の母が駆け寄る。
「健太? わかる? ママだよ」
健太の視線は天井。
「まだ、半分……門は閉まってない」
脳波モニターが乱れる。
医師が駆け込む。
だが健太は静かに続ける。
「均衡、足りない」
その瞬間。
手の甲の痣が、はっきり浮かぶ。
円の中に、一本線。
看護師はそれを“内出血”だと思う。
だが、母だけが気づく。
さっきまでは、なかった。
札幌市立○○小学校。
臨時休校決定。
理由は「心理的不安への配慮」。
だが保護者の間ではもう別の言葉が飛び交っている。
森。 祟り。 呪い。 実験。
SNSでは匿名投稿が拡散。
「立ち入り禁止区域で何か掘ってる」 「研究者が夜に入ってる」
白石隆司の名前も、出始める。
“アイヌ研究者” “森と関係”
隆司は自宅の書斎で頭を抱えていた。
机には古い文献。
そこにある一節。
――渡りは秤なり。
一を戻せば、一を求む。
隆司は息を飲む。
「……交換、ではない」
均衡。
それは単純な人数ではない。
役割。
健太は“楔”。
美咲は“秤”。
まだ終わっていない。




