渡りの途中
暗い。
けれど完全な闇ではない。
森の奥。
美咲は立っている。
足元に霧。
冷たい。
でも体は凍えていない。
動こうとすると、水の中みたいに重い。
遠くに、細い赤い線。
鳥居。
そこから、風ではない“気配”が流れてくる。
声がする。
はっきりしない。
複数。
囁き。
「まだ、定まらぬ」
「門は半ば」
「秤は傾いた」
美咲は震える。
「お兄ちゃんは……?」
返事はない。
代わりに、背後で羽音。
ゆっくり振り向く。
烏天狗。
だが今回は近い。
赤い目。
顔は面のように静か。
声は直接頭に響く。
「渡りは未完」
美咲の喉が動く。
「帰して……」
沈黙。
そして。
「名が定まらぬ限り、均衡は動かぬ」
美咲は理解できない。
だがひとつだけわかる。
自分は“固定”されていない。
完全に連れて行かれてもいない。
森とこちらの、境目。
烏天狗が視線を上げる。
何かを警戒している。
「人の側が動く」
その言葉と同時に。
世界が揺れる。
札幌市立○○小学校。
職員室。
電話が鳴り止まない。
「うちの子が怖がっているんです!」
「昨日も変な音がしたと」
「森と関係あるんじゃないですか?」
教頭が対応に追われる。
佐伯先生は顔色が悪い。
二日連続の失踪。
しかも今回は目撃者多数。
金縛り。
突然の出現。
健太はICU。
美咲は行方不明。
報道はまだ抑えられているが、時間の問題。
廊下。
保護者数名が直接学校に来ている。
「授業どころじゃないでしょ!」
「臨時休校にしてください!」
校長は苦渋の決断を迫られている。
迅たちは廊下の端でその様子を見ている。
翔太が小さく言う。
「やばいな」
圭が冷静に分析する。
「森が封鎖された。
その後、学校で発生。
因果関係を疑うのは当然」
迅は拳を握る。
「学校が閉まったら」
圭が続ける。
「動きづらくなる」




