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続き
その夜。
白石隆司は病院にいた。
健太はICU。
昏睡。
医師は原因不明と言う。
外傷なし。
脳波は異常な揺れ。
まるで夢を見続けているような波形。
そのとき、隆司のスマホが鳴る。
研究仲間の名。
「見つかった」
第一声だった。
「何が」
「続きだ。あの伝承、未翻刻部分があった」
隆司の鼓動が跳ねる。
電話越しに、紙をめくる音。
「“門は一つに非ず。均衡は常に二つ”」
隆司は目を閉じる。
「続けてくれ」
「“一人戻れば、一人渡る。山の眷属は秤なり”」
秤。
均衡。
「そして――」
声が低くなる。
「“門を閉じるには、眷属の名を呼べ”」
隆司の視線が窓へ向く。
夜の札幌。
遠くの森。
「名……」
研究仲間が続ける。
「文末にある。だが欠損している。完全な名は失われている」
隆司は確信する。
これは偶然ではない。
息子は戻った。
だが代償が発生した。
均衡。
秤。
烏天狗は攫う存在ではない。
“管理者”。
隆司は呟く。
「名を取り戻さなければならない」
病室のモニターが、不規則に波打つ。
健太の指が、わずかに動く。
そして。
かすれた声。
「……みさき」
隆司の血が凍る。




