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森と向こうの扉  作者: 03


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15/33

金縛り

五年二組、三時間目。

国語の授業中だった。

佐伯先生が教科書を読んでいる。

窓の外は曇天。

森の方向から、低い雲が流れてくる。

迅は違和感に気づいた。

音が、薄い。

チョークの擦れる音が、遠い。

圭も顔を上げる。

翔太の指が、机の上で止まる。

次の瞬間。

空気が、重くなった。

ドン、と胸を押される感覚。

全員が同時に固まる。

チョークが黒板に触れたまま止まる。

佐伯先生も動かない。

生徒も。

瞬きすら止まる。

金縛り。

迅は目だけが動く。

声が出ない。

指も動かない。

呼吸はできる。

だが体が言うことを聞かない。

教室の後ろの窓。

ゆっくりと、霜が広がる。

内側から。

白い指跡が、ガラスをなぞる。

ギィ、と音もなく窓が開く。

風は吹かない。

代わりに、黒い影が入る。

翼。

いや、翼のような影。

床に落ちない。

天井近くを滑る。

そして、教室中央へ降りる。

迅は、はっきりと見た。

人型。

だが背中から広がる黒。

顔は長く、鼻梁が異様に高い。

目は深く沈み、光を反射しない。

烏天狗。

言葉にしなくても、分かる。

圭の目が見開かれる。

翔太の額に汗が滲む。

他の生徒は見えていない。

目は開いているが、焦点が合っていない。

時間が止められている。

烏天狗の腕に、誰かが抱えられている。

ぐったりとした少年。

健太。

迅の鼓動が暴れる。

烏天狗は、健太をゆっくりと自分の席へ座らせる。

椅子が軋む音だけが、はっきり響く。

そのとき。

烏天狗が、迅たち三人を見た。

完全に。

認識している目。

そして、低い声。

声なのに、口はほとんど動かない。

頭の奥に直接響く。

「役目は終わった」

迅の視界が揺れる。

「この子の“門”は閉じた」

圭の呼吸が荒くなる。

「次は――」

視線が、教室の外へ向く。

四年生の教室の方向。

「新たな門」

翔太の瞳が震える。

「均衡は保たれる」

その言葉と同時に。

烏天狗は窓へ跳ぶ。

翼が一度、大きく広がる。

風はないのに、教室のカーテンが大きく揺れる。

黒い影は外へ。

窓は音もなく閉じる。

瞬間。

金縛りが解ける。

パニック

ドサッ。

健太の体が机にもたれかかる。

「きゃあああ!」

誰かが叫ぶ。

佐伯先生が振り向く。

「白石くん!?」

教室は一気に混乱する。

生徒が立ち上がる。

机が倒れる。

迅は走る。

健太の肩を揺らす。

「健太!聞こえるか!」

反応がない。

目は閉じている。

呼吸はある。

脈もある。

だが意識がない。

圭が冷静に確認する。

「昏睡状態」

救急車が呼ばれる。

廊下は騒然。

四年生の教室から、悲鳴。

迅は振り向く。

美咲のクラスだ。

胸が凍る。

廊下へ飛び出す。

四年一組。

扉が開いている。

中は混乱。

だが。

美咲の席だけが、空。

椅子が倒れている。

窓が、わずかに開いている。

迅の耳に、あの声が蘇る。

「均衡は保たれる」

迅は呟く。

「……代わり」

圭が震える声で言う。

「健太が戻った。門が閉じた。だから新しい門を開いた」

翔太が拳を握る。

「美咲が連れていかれた」

迅はその場に立ち尽くす。

自分たちが森に入った。

境界を刺激した。

だから――。


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