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森と向こうの扉  作者: 03


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12/33

枝の上の物

霧が引いたあとも、森は静まり返っていた。

白石隆司は膝をついたまま、奥を見つめている。

迅が駆け寄る。

「大丈夫ですか!」

隆司はすぐに返事をしない。

ただ、震える指で上を指した。

「……いた」

翔太がライトを向ける。

枝の上。

何もない。

だが雪が、ぱらりと落ちる。

そこに、重みがあった証拠のように。

圭が低く言う。

「完全に人間の体重」

隆司がやっと息を吐く。

「三夜目に姿を示す、と文献にある……だが、あんな……」

言葉を失う。

迅は森の奥を見る。

まだ見られている。

確信がある。

そのとき。

「……迅」

まただ。

だが今度は近い。

四人と隆司が同時に振り向く。

石の円の向こう。

沢跡の方。

霧の中に、影。

小さい。

人間の背丈。

「健太!」

隆司が叫ぶ。

影が揺れる。

確かに、健太の体格。

迅が一歩踏み出す。

だが翔太が止める。

「行くな!」

影の動きが、ぎこちない。

歩いていない。

“滑っている”。

雪を踏んでいない。

圭が囁く。

「足跡がない」

隆司は気づかない。

父としての本能が勝つ。

彼は走る。

「健太!」

影は一歩、後退する。

森の奥へ。

迅は叫ぶ。

「追うな!」

その瞬間。

上空で枝が大きく揺れた。

バサッ。

重い羽音。

全員が凍る。

霧の上。

木々の天辺。

黒い影が、横切る。

速い。

人ではない。

だが鳥より大きい。

隆司が立ち止まる。

影の“健太”が、すっと霧に溶ける。

消えた。

完全に。

静寂。

迅の心臓が暴れる。

「……釣りだ」

圭が言う。

「健太の姿を餌にして、おじさんを奥へ引いた」

隆司が振り返る。

目に理解が戻る。

「……あれは、本物じゃなかった」

翔太が地面を照らす。

「足跡なし」

迅は空を見る。

枝の上。

今度は、はっきりと見えた。

高い位置。

幹に片足をかける影。

人型。

だが、背中に黒い広がり。

腕が異様に長い。

顔は見えない。

だが視線だけがある。

冷たい。

観察する目。

隆司が震える声で言う。

「山の神の眷属……」

迅は呟く。

「……天狗」

その言葉に、空気が張り詰める。

影は動かない。

ただ見ている。

まるで品定めをするように。

次の瞬間。

風が巻く。

雪が舞い上がる。

ライトが乱反射する。

視界が真っ白になる。

迅は地面に踏ん張る。

翔太が美咲を庇う。

圭が隆司を引き寄せる。

羽音。

一度。

二度。

そして。

静寂。

霧も消えている。

枝の上には何もない。

迅は荒い息を吐く。

「……消えた」

圭が冷静に言う。

「違う。引いた」

隆司が立ち上がる。

恐怖よりも、別の感情が強い。

「健太は生きている」

確信。

「見せたのは脅しだ。殺すつもりなら見せない」

迅も同意する。

「試された」

翔太が森の奥を睨む。

「次はもっと奥だな」

美咲が小さく言う。

「お兄ちゃん、あれに連れてかれたの?」

誰も即答できない。

だが。

三夜目で姿を見せた。

声もある。

健太の物もある。

森は、確実に“向こう側”と繋がっている。

隆司が静かに言う。

「……明日、私は正式に入る」

迅が顔を上げる。

「どういう意味ですか」

「研究者として、許可を取る。だが待たない」

目は決意している。

父は止まらない。

迅は拳を握る。

「俺たちも行く」

翔太が頷く。

圭の目が光る。

美咲も震えながら頷く。

森の奥。

まだ見えない“なにか”がある。

そこに健太はいる。

そして枝の上のもの――

烏の影をまとった存在は、確実にこちらを認識した。

敵としてか。

それとも、試練としてか。

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