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森と向こうの扉  作者: 03


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消えた影と白い森

札幌の冬は、静かだ。

雪が音を吸い込むから、世界が少し遠くなる。

五年二組の教室も、窓の外だけは別世界だった。

真っ白な校庭。誰も踏んでいない雪。

「今日の算数? まぁ七割は固いな」

椅子を後ろ足で揺らしながら笑うのは高梨迅。

特別な才能はない。

でも何をやらせてもそれなりにできる。

足も速いし、頭も悪くない。

ただ、“決定打”がない。

「落ちたら笑う」

前の席から淡々と言うのは相沢翔太。

背筋が伸び、ノートの字は定規みたいに整っている。

指先はいつも静かだ。ピアノを弾く人の指だ。

「縁起悪いな!」

隣では宮坂圭が図鑑を開いている。

「昨日、学校裏の森にキツネいた」

迅がすぐ反応する。

「マジで!?」

「足跡だけだけど」

円山公園へ続く森。

学校の裏から金網越しに見える、あの木立。

昔から“変な噂”がある場所。

そのとき。

――ガタン。

窓が揺れた。

風はない。

教室の空気が、急に冷える。

天井に黒い影が張りついている。

ゆっくりと垂れ、床に落ちる。

人の形。

長い鼻。黒い羽。

迅の喉が鳴る。

「……天狗?」

影が一瞬で動いた。

白石健太の腕を掴む。

「え?」

健太の体が、煙のように薄くなる。

そして消えた。

影も消えた。

教室は凍りつく。

五秒後、悲鳴。

第二話 赤い眼鏡の決意

放課後。

校内は騒然としていた。

警察。先生。泣く生徒。

だが誰も“影”を信じない。

昇降口で声をかけられる。

「迅くん」

赤い眼鏡の少女。

白石美咲。健太の妹。

四年生。小心者。

でも水泳は市内上位。

そしてやけにモノマネがうまい。

「お兄ちゃん……森、行ってた」

迅が止まる。

「森?」

「昨日、“呼ばれてる気がする”って言ってた」

翔太が低く聞く。

「誰に?」

美咲は首を振る。

「わからない。でも、最近ずっと円山の方見てた」

圭がぽつりと言う。

「……昨日、森の奥、妙に静かだった」

「静か?」

「鳥がいなかった」

森に鳥がいない。

それは異常だ。

迅は笑う。

でも目は笑っていない。

「つまりさ」

雪が強くなる。

「森にいるってことだろ?」

翔太が即座に否定する。

「危険すぎる」

「でも行かなきゃ戻らない」

美咲が小さく言う。

「お兄ちゃん、言ってたの。“あそこは人の森じゃない”って」

空気が重くなる。

圭が続ける。

「円山の奥、立入禁止区域ある」

迅の胸がざわつく。

怖い。

でも、止まれない。

「行くか」

翔太は数秒沈黙し、

「準備がいる」

と答えた。

美咲が眼鏡を押し上げる。

「私も行く」

「危ない」

「でも私、お兄ちゃんの癖知ってる」

迅が見る。

「森で迷ったら、水の音探すって言ってた」

圭がうなずく。

「沢がある」

森は、ただの森じゃない。

円山の奥。

立入禁止のさらに奥。

雪に埋もれた獣道。

そこに何かがいる。

まだ姿は見せない。

だが確実に、誰かを“呼んでいる”。


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