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1章下

校庭を後にして帰路につく沙也加の足取りは、まだ重く、胸の奥にはフタバの影がくっきりと残っていた。望遠鏡の感触が手に残り、芝生や土の匂いが鼻腔に漂う。呼吸を整えようとしても、心の奥のざわつきは消えず、頭の中では校庭の風景とフタバの後ろ姿が何度も再生される。流星群のことも、もはやどうでもよくなっていた。夜空の美しさよりも、現実のあの影――フタバ――の存在の方が重く、心を押さえつける。


足取りは自然とゆっくりになり、歩くたびに心の中の動揺が微かに震える。風が頬を撫で、落ち葉がカサカサと舞うたび、胸の奥に残る緊張がわずかにほぐれるような感覚もあるが、安堵とはほど遠い。意識は半分、フタバの影を追い、半分は帰路の道に集中しようとするが、足は砂利や舗道の凹凸を踏みしめながら、どこかぼんやりとしていた。


そんなとき、視界の端にマクドナルドの明かりが差し込む。赤と黄色の看板が、夕暮れの街に柔らかく浮かび上がる。沙也加の胸に、ふと温かい感覚が差し込む。ボンベイの動画で、彼女がハンバーガーを食べながら「また逆さだ」と包み紙を開ける様子を思い出したのだ。無邪気で、どこか天然なその一瞬を脳裏に浮かべると、心の奥がほんの少しだけ和らぐ。


「……なんか、自分も食べたくなっちゃったな」


呟きながら、沙也加は自然とマクドナルドの店内に足を向ける。扉を開けると、心地よい温かさと、揚げたての匂いが鼻をくすぐる。カウンターの向こうで店員が手を動かすのを見つめながら、沙也加はメニューを目で追う。自然に選んだのは、えびフィレオ、コカ・コーラゼロ、そしてポテトの代わりにサラダ。ボンベイの動画で見た組み合わせが頭に浮かび、同じものを注文したくなったのだ。


支払いを済ませ、紙袋を受け取る。店を出ると、夕暮れの風が再び頬を撫で、紙袋の重みが手に伝わる。包み紙を開けると、えびフィレオは動画と同じように、逆さに入っていた。沙也加はクスリと笑う。マクドナルドは包み紙の折り目を下にしてハンバーガーを包むため、開けると逆さになる構造になっているのだ。ボンベイの動画で見た「逆さだ!」の声を思い出しながら、沙也加は天然だな、と微笑んだ。


紙袋を抱え、再び歩き出す。街灯の光が足元に長い影を落とし、薄紫に染まる空は校庭で見た夕陽とは違った穏やかさを帯びていた。歩きながら、沙也加は今日の出来事を反芻する。望遠鏡を通して見たフタバの後ろ姿、抱えていたものの輪郭、そして消えゆく影――頭の中で鮮明に思い出される。それでも、マクドナルドでの小さな喜びが、心の奥のざわつきを少しだけ和らげてくれる。


家の前に着くと、扉を開ける前に深呼吸を一つする。息を吸い込み、吐き出すと、外の冷たい空気と街の匂いが少しずつ薄れ、家の温かさが心に浸透してくる。鍵を回し、静かに扉を開けると、台所やリビングの匂いがほんのり漂い、安心感が膨らむ。沙也加は紙袋をテーブルに置き、包装を開ける。えびフィレオ、サラダ、コカ・コーラゼロ――並べられたものを眺めるだけで、心の緊張が少しずつ解けるように感じた。


一口かじると、海老の香ばしい味が口いっぱいに広がり、沙也加の心の奥に、ささやかな満足感が染み渡る。サラダを口に運び、コカ・コーラゼロで流し込む。噛む、飲む、味わう――その単純な動作が、さっきまでの校庭での緊張を少しずつ薄めていく。頭の中で、流星群のことは完全にどうでもよくなっていた。夜空の輝きよりも、今ここで味わう小さな食事の方が、現実として確かなものだった。


食べ終わる頃には、胸の奥のざわつきはまだ完全には消えていないが、息が少しずつ落ち着き、肩の力も抜けていく。沙也加は紙袋を片付け、台所を軽く片付ける。動作の一つひとつが、心のリセットにつながるような気がした。


布団に向かう。足を踏み入れ、掛け布団に潜り込むと、外の冷たい空気から守られた安心感が身体を包む。目を閉じ、今日の出来事を振り返る。フタバの影はまだ心の片隅に残っているが、マクドナルドでのささやかな喜びと、家の中の温かさが、それを少しだけ柔らげてくれる。


呼吸を整え、布団に身体を沈める。胸の奥の重さは完全には消えていないが、意識は少しずつ夢の世界に流れ始める。窓の外には夜の静けさが広がり、冷たい風が時折カーテンを揺らす。沙也加は、今日という日を振り返りながら、少しだけ心が軽くなったことを感じる。


そして、まどろみの中で、フタバの後ろ姿、校庭の芝生の匂い、夕陽に染まった影――それらの映像がゆっくりと夢の中に溶け込んでいった。流星群のことは、もうどうでもよかった。今の心地よい安心感と、ささやかな満足に満たされながら、沙也加は深く眠りについた。


シンプルに書きたいシーンでもなんでもないけど 前提として見せておかなければ物語が成立しないのですがまぁテキトーな部分はありますね

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