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第1章 上 〜流星群

午後五時三十八分、夕陽は校庭の端をまだ薄紫に染めていた。西の空は藍色の濃淡が溶け合い、雲の縁に光が差す。沙也加は芝生の上に三脚を立て、電子望遠鏡の鏡筒を慎重に固定した。指先にわずかに震えが伝わり、秋風が頬を撫でる。草の香りと土の湿った匂いが混じり、夕暮れの空気はどこか沈静化した緊張を含んでいた。


「今日こそ、見えるといいな…」


小声で呟き、望遠鏡のレンズを覗き込み、電子ファインダーの光を微調整する。校庭は静かで、落ち葉が風に舞い、遠くの樹木が揺れる音がかすかに響いた。誰もいない空間に、遠くで鳴く鳥の声だけが混ざる。ノクターン流星群――その名はまるで夜の小舟のようで、空に眠る星々をかき混ぜ、ひっそりと流れ落ちる。沙也加はそんな空想をしながら、夕暮れの光に目を細めた。


組み立てがひと段落すると、手持ち無沙汰を感じ、ポケットからスマートフォンを取り出す。画面には、いつもの配信が映った。


「ウィース!ボンベイです!今日は…」


猫の擬人化の少女キャラクターが、元気いっぱいに声を響かせる。耳の先端がかすかに動き、画面の中で小さな仕草をする。人気はほとんどなく、コメント欄はほとんど空欄に近い。しかし、沙也加にとってこの配信は中学の頃からの小さな灯火だった。水曜日の授業が早く終わる日、教室も校庭も、静まり返った午後の中で、少女の声は胸の奥をそっと撫でるように届く。


沙也加は画面に映るキャラクターの指の動きや声の抑揚に注意を向け、心の奥に柔らかい光が灯るのを感じた。画面越しの笑顔は、まるで遠くの夜空に浮かぶ星のように、静かに心を照らした。


そのとき、校庭の奥で何かが揺れるのに気づいた。望遠鏡をそっと向けると、木々の影の中に人影があった。大きめの生き物を抱えているらしく、形がぐちゃぐちゃに見える。胸の奥がひりつくようにざわめき、指先にわずかに汗が滲む。視界の中で影は揺れ、抱えられた生き物の動きがわずかに伝わる。


「…あれは…」


小さな声が喉を通り、風にかき消される。校庭の静寂が、異様な緊張感を際立たせる。芝生や土の匂い、沈みかけた夕陽の匂い、遠くの樹木の香りが入り混じり、沙也加の胸に強い圧迫感を与えた。


影の人物はまだ沙也加を認識していない。息を殺し、望遠鏡を握り直す。抱えたものが地面に置かれると、影の人物はゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡した。手にはまだ羽毛や毛が絡んでいるらしく、光に反射してわずかに揺れる。


夕暮れの光が薄く差し込み、影の人物と抱えたものの輪郭を浮かび上がらせた。その光景は、まるで時間が一瞬止まったかのように、沙也加の視界に焼き付いた。手のひらの汗を拭い、指先を握り直す。


遠くの空には、ノクターン流星群の輝きがまだ見えないものの、沙也加の胸には、夜の空気と影の人物の動きが交錯して、言葉にできない不思議な感覚が広がった。スマートフォンの画面の中の猫の擬人化少女の声が、かすかに遠くに響き、沙也加の緊張を少しだけ和らげる。


秋風は冷たく、芝生の香りと土の匂いが深く鼻腔に入り込む。校庭の奥で、影の人物は小さな墓のようなものを作り始めた。沙也加は望遠鏡を通して、その作業の一つ一つを見守った。心臓が早鐘のように打ち、息を整えることも忘れるほどの緊張感の中、彼女は動くことも声を発することもできず、ただじっとその場にいた。

まぁ あれやな とりあえず完成度はともかくとして完成させるのが自分の成長の糧になるかも

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