異世界転生したら古代日本で最強鍛冶師だった件 ~仏像作ったら物部氏にバレて詰んだ~
物部氏お抱えの最強鍛冶師・眞鐵(25)の元に、ヤバい依頼が舞い込んだ。
「仏像に黄金の肌を与えてほしい」
依頼主は百済の仏師。報酬は年収10年分。しかし眞鐵の主君・物部守屋は、仏教を徹底的に排除する古神道ガチ勢。バレたら一族全員火あぶり確定だ。
それでも眞鐵は引き受けた。職人としての誇り、そして破格の報酬のために。三日三晩かけて完成させた黄金の仏像は、彼の最高傑作だった。
古代日本×職人×宗教戦争! 史実ベースの異色ファンタジー!
プロローグ:俺の名は|眞鐵、古代最強の鍛冶スキル持ちだ
「うわっ、また注文かよ……」
俺、眞鐵は、物部氏お抱えの鍛冶師だ。年齢は二十五。ステータス的には【鍛冶LV.98】【鍍金LV.MAX】【神器製作LV.87】ってとこ。まあ、大和国内でトップ5には入る腕前だと自負してる。
俺の工房は河内の山奥。周りは森で、最寄りの集落まで徒歩一時間。典型的な職人の隠れ家って感じ。
「師匠ー、また物部様から鏡の注文です! 納期は三日!」
「無理ゲーじゃねえか!」
弟子のタケマロ(仮名)が注文書を持ってくる。見れば【神聖鏡×5】【鉄製榊×10】【祭祀用鈴×20】とか書いてある。
ちなみに物部氏ってのは、この時代最強の軍事氏族。古神道ガチ勢で、「異国の神とか認めねえから」って感じの超保守派。俺はそこの専属職人なんだけど……。
「つーか、最近やたら注文多くね?」
「蘇我氏との関係が悪化してるらしいですよ。仏教とかいう新興宗教を推してるとかで」
「あー、はいはい。宗教戦争ね。政治とか興味ないんだけど」
俺は火床に石炭を放り込んだ。
ぶっちゃけ、俺にとって神様とか仏様とかどうでもいい。大事なのは技術だけ。良いもの作って、金もらって、飯食って寝る。それが職人ってもんだろ?
……そう思ってた。あの依頼が来るまでは。
第一章:百済の仏師から謎の依頼が来た件
事件は三ヶ月前に起きた。
その夜、工房に見慣れない男たちが現れた。服装からして渡来人。百済系かな?
「眞鐵殿でいらっしゃいますか」
リーダー格らしき老人が、丁寧な大和言葉で話しかけてきた。
「そうだけど……何の用? 物部氏の許可は取ってんの?」
「それが……その……」
老人は困ったような顔をした。
「単刀直入に申し上げます。我々は蘇我氏の庇護を受けている仏師の一団。今、釈迦如来像を製作しているのですが……どうしても、あなたの【鍍金スキル】が必要なのです」
「は?」
一瞬、耳を疑った。
「いや、ちょっと待て。俺、物部氏の専属なんだけど? 蘇我氏って、物部様の宿敵じゃん。バレたら一族郎党火あぶりコースなんだけど?」
「承知しております。ですが……」
老人は懐から、見たこともない量の絹の束を取り出した。
「これが前金です。成功報酬として、さらにこの三倍をお支払いします」
「……マジ?」
俺の年収の十年分くらいある。
「さらに、百済から持ち込んだ水銀もお渡しします。これがあれば、あなたの【鍍金スキル】はさらにレベルアップするはずです」
「……チートアイテムじゃん」
正直、めちゃくちゃ迷った。
物部氏への裏切り:デスペナルティ【一族全員火刑】
報酬:年収10年分+レアアイテム【水銀】+技術レベルアップ
「……条件がある」
俺は深呼吸した。
「仏像本体は作らない。鍍金の技術指導と、最終仕上げだけ。それなら、ギリギリ良心が保てる」
「それで結構です!」
こうして、俺の人生最大のサイドクエストが始まった。
第二章:仏像の眼差しが俺に何かを訴えかけてくる件
百済の仏師たちの工房は、飛鳥の外れにあった。
夜中にこっそり訪問。バレたら終わりのスリリングな展開。まるでステルスゲーム。
「これが、銅造釈迦如来坐像です」
見せられた仏像は、高さ30センチくらい。木型から鋳造された銅製で、既に形は完成していた。
「……すげえ」
思わず呟いた。
物部の神像とは全然違う。物部の神像は【威圧+999】【攻撃力+500】みたいな、いかにも「敵を倒す」感じのデザイン。
でも、この仏像は違う。
その眼差しは、敵を射抜くんじゃなくて、すべてを受け入れるような……そう、まるで【防御力+∞】【HP自動回復】【状態異常無効】みたいなバフを全方位に展開してる感じ?
「これに、黄金の肌を与えてください」
「……おう」
俺は【鍍金スキル】を発動した。
水銀と金を混ぜ合わせたアマルガム(練金術っぽいけど化学です)を、仏像の表面に塗り込んでいく。これを炉で熱すると、水銀が蒸発して、黄金だけが定着する。
作業中、何度もその顔を見つめた。
不思議なんだよな。物部の神像を作ってる時は、「強く、正しく、清く」って気持ちになる。でも、この仏像を見てると、「まあ、何とかなるんじゃね?」って気分になる。
これが【慈悲】ってやつか?
作業は三日三晩続いた。
完成した仏像は、黄金に輝き、まるで生きているかのような存在感を放っていた。
「……やべえ、俺、神様じゃなくて仏様作っちゃった」
背徳感と達成感が入り混じった、複雑な気分だった。
第三章:疫病発生→物部氏ブチギレ→仏像破壊の三段コンボ
それから二ヶ月後。
都に疫病が蔓延した。
「うわあああ、熱病だああああ!」
「仏様、助けてえええ!」
「古き神よ、お救いくださあああい!」
パニック状態の民衆。死者は日に日に増えていく。
そして、物部守屋様の怒りの声が大和全土に響いた。
「これは異国の神の祟りだあああ! 仏教を追放せよおおお!」
「あ、これヤバいやつだ」
俺は工房で震えていた。
翌日、物部の兵士たちが意気揚々と帰ってきた。
「眞鐵ー! 見たか! 蘇我の堂を焼き払ってきたぞ!」
「仏像も全部、難波の堀江に捨ててきた! ざまあみろ!」
「「「物部! 物部!」」」
兵士たちはハイタッチしながら祝杯を上げている。
俺は……俺の作った、あの黄金の仏像が、泥水に沈められたと知って、何も言えなかった。
第四章:堀江で拾った仏の掌を懐に入れた理由
その夜、俺は工房を抜け出した。
河内から難波まで、一晩中歩いた。
夜明け前、堀江の岸辺に着いた時、俺は呆然とした。
水際に、無数の破片が打ち上げられていた。木彫りの仏像の欠片、焼けた柱、そして……銅の破片。
「……マジかよ」
泥の中から、一つの破片を拾い上げた。
それは、仏の右手の掌だった。
俺が三日三晩かけて鍍金した、あの黄金の掌。虚空に向けて差し出されたような形のまま、泥にまみれていた。
不思議と、怒りは湧かなかった。
ただ、この掌を見てると、あの仏像が俺に語りかけてくるような気がした。
「別に、壊されたって構わないよ。俺はもともと、すべてを受け入れるために作られたんだから」
って。
「……何それ、チート性能すぎだろ」
俺は、その掌を懐に入れた。
エピローグ:二つの神を胸に、俺は戦場へ向かう
それから二年後。
物部守屋様と蘇我馬子の最終決戦が始まった。
「眞鐵! 武具が足りん! もっと作れ!」
「鏃を研げ! 甲冑を直せ!」
工房は戦争特需で大忙し。
俺は無心で、鉄を叩いた。
炎は赤く、俺の瞳を焼いた。これは物部の神の、怒りの炎だ。
「眞鐵、お前も出陣だ!」
「マジかよ……」
俺の腰には、物部兵として戦うための太刀が下げられた。
そして、懐の中には、あの仏の掌が、冷たく重く、納められていた。
物部の神は「力」と「排除」を教える。
仏は「慈悲」と「受容」を教える。
どっちが正しいのか、俺にはわからない。
でも、俺はどっちも捨てられない。
「……めんどくせえ」
俺は最後に一つ、火床に水を打ちかけた。
ジュッという音と共に、湯気が立ち上る。
火と水。力と慈悲。古き神と新しき神。
全部まとめて抱えて、俺は戦場へ向かう。
「行くか」
眞鐵は工房を出た。
その背後で、炎が燃え盛っていた。
(fin)
あとがき(著者より)
どうも、作者です。
「異世界転生したら古代日本で最強鍛冶師だった件」、お楽しみいただけましたでしょうか?
実はこれ、タイトル詐欺で、異世界転生要素ゼロです。ごめんなさい。でも、古代日本って、現代人からしたら異世界みたいなもんですよね?(強引)
次回作は「転生したら蘇我馬子だった件 ~聖徳太子と二人で仏教無双~」を予定しています。ご期待ください!