世界。
――帰りたい。
着いて早々にそう思う。
初等部からあるこの学園では殆どグループができている。途中入学の私の入る隙間なんてどこにも感じられない。
――優月の馬鹿。
生徒代表とやらで引きづられて行ってしまった兄。最悪。
「お、君が華月ちゃん?」
唐突に名前を呼ばれて、振り向く。そこには、美少女がいた。
燃えるように赤い髪と、対照的に静かなオレンジ色の虹彩の、どこか人間離れした子。綺麗ってのは、こういう人の為にあるんだなって思ってしまうほど。
――てか、背高いな。
「おーい、聞こえてる?」
「え、あ、はい」
顔を覗き込まれて、自分が見惚れてたことに気付く。
――あれ?
「華月ちゃんでいいんだよね?私はマリアローズ。同じ特待生だから、三年間よろしくね」
「よろしくおねがいします」
差し出された手を握り返した時に、感じた違和感。決して大きくないけど、確実なそれに、私の好奇心が首を持ち上げる。
「あー、敬語とか良いよ。同い年だしさ」
「え、同い年?」
――絶対上だと思ってた。
「うん、同じだよ。あ、そろそろ行かないと間に合わないから」
そう言って歩き出したマリアローズの後を追いかけながら、周りに気を配ってみると、誰もがマリアローズを気まずそうに見ていることに気付いた。後ろめたいことがあるような、怒ったような、怖いような、ぐちゃぐちゃの目でマリアローズを見ていた。
「あ、私の事はマリアとか、適当に呼んでね。華月って呼んでも良い?」
周りの視線に気付いてないのか、気にしてないのか、笑っているマリアローズ。
「うん。じゃ、マリアって呼ばしてもらうね」
それからは、他愛もない会話。学校の行事予定の話だとか、特待生の面々の話とか。
「マリアー、遅い。」
始業式の行われる講堂の入り口でこちらに向かって手を振る人影。
車椅子に座っているらしく、一回りほど小さい。
「あ、あれがユリス。同じ特待生だよ」
金髪に、夜空みたいな暗い藍色の虹彩のユリスが手を振りながら怒鳴る。
「早くしろって!のろま!ぐず!」
「はい、はい」
駄々っ子のように騒ぐユリスを宥めながら、講堂へと入っていく。