不幸《しあわせ》の手紙
私は、城の奥で、ほとんど人と関わることもなく育った。勉強を教えてくれる学士と、身の回りの世話をしてくれる人が五人程。それと、義母さんと義兄の優月、私を認めてくれている僅かな義兄弟達。父とは長い間会ってない。
何故、父は会いに来ないのか。私という子が生まれてしまったことを反省してる?そんな筈はない。父には子供が履いて捨てる程いる。私もその一人だ。本当は、義母さんは私を怨むべきなんだ。なのに、義母さんは私を可愛がってくれた。悪いことをしたときには怒られたし、いい事をすれば褒めてくれたし、喜んでくれた。怒られて嬉しくはないけど、本気で怒っているのは愛しているからだ、と誰かが言っていた。
……嗚呼、そうだ。父が私に会いに来てくれないんは、私に魔力がないからだ。魔力があって当たり前のこの世界で、私は魔力を持たずして生まれてきた。私は、できそこないなんだ。
「華月様、聞いていますか?」
初老の、優しげな目に見つめられて現実に引き戻される。
「体調でもお悪いのですかな?」
嗚呼、私を心配してくれている。できそこないの私を。
「いいえ、ちょっとぼおっとしてただけです」
笑って首を振れば、納得したように頷いて講義を初めかやり直してくれる。不思議な満足感に満たされて写しかけのノートに目を落としたときに、控えめに扉が叩かれた。
「どうぞ」
学士が頷くのを確認してからそう言うと、入ってきたのは優月だった。
優月は私に微笑んでみせてから、学士に頭を下げた。
「邪魔してすいません。俺も一緒に受けて良いですか?」
「ふむ・・・・・・まぁ、よろしいでしょう」
もとから私だけでは大きな机だったから、一人増えても狭くない。それが、いかに私が一人か思い知らされているように思えて少し嫌だ。
「華月と一緒に受けたくて無理言って来たんだ」
「・・・・・・ふーん」
優月は私が言うのもおかしいけど、シスコンだと思う。
この前まで全寮制の学校に行っている間も手紙は毎日届いたし、帰ってきたら帰ってきで毎日部屋に来る。帰ってきた時はいきなり抱きしめられた。私が年頃の娘だというのも考えてほしい。
「それにしても、華月はすごいな。この講義って高等部の三年で習う内容だぞ」
「へー、そうなんだ」
聞き飽きてきた私を褒める台詞も、後一週間で聞けなくなるのか・・・・・・。
一週間後には優月は学校に戻ってしまう。そうすれば、また夏休みまで退屈な日々が続くのだ。
『華月は、学校に行きたいと思わないの?』
「え?・・・・・・私は、魔力ないし」
風属性の精霊に聞かれ、首を振る。
人と関わるのは、恐いし。ずっと城の中で育ってきて、友達もいないし。
『華月は、〈五感〉があるでしょ?魔力よりも凄いと思うけどな』
「よく分からないよ。城の外なんて見たことないもん」
知っている世界は、この部屋だけ。憧れる世界は何時も本の中で、人の話の中で。
出たいと思ったことはある。だけど、何時も見張られてたし、恐いから行けなかった。
『華月って、弱虫だよね』
「自分でもそう思うよ」
『そんな華月に、もうすぐ幸せの手紙が来るよ』
「え?」
聞き返す間も与えずに、精霊は消えた。
翌日、私に一通の手紙が届いた。
優月の通っている菊王華学園からの特待生としての入学案内だった。
義母さんや、他の人の薦めもあり、私の入学が決まった。
心地よく私を守ってくれる、けれど息苦しい鳥篭から私は解放された。
男性声優さんたちの衝(笑)撃的なメドレーを聴きながら書きました
何回画面を拭いたことか・・・・・・←w
子安さんのいよかんは最強だと思います、はい。