始まりのその昔
人々は、恐れていた。
人だけでなく、全ての生き物が、魔王という存在を恐れていた。それは、本能的な恐怖であり、本能的な嫌悪。体を失いながらも、存在し続ける生命のないモノへの。
魔王は、強大な力で世界を支配した。多くの魔族を従え、気まぐれに人を殺した。無限とも思える程の魔力は神族を圧倒し、神にも引けをとらず、魔王は気ままに力を使い、世界の秩序を壊し続けた。
魔王は実体がないため〈器〉を媒体とし、世界を治めた。
ある時、魔王は〈器〉として一人の少女を選んだ。明るく、素直で、誰もが好きになれるような娘だった。婚約者がいて、幸せが約束されていた。彼女が選ばれた事を、多くの人が嘆いた。特に、婚約者が。
数年が経つと、魔王は少女の体に飽き、少女を壊した。その事を聞き、婚約者は怒り狂い、魔王を呪い、怨んだ。そして、その頃から〈器〉の資格のある者が殺され始めた。
婚約者は勇者と呼ばれ、徐々に人々の支持を集めた。各地で魔族への抵抗が始まり、魔王は重臣を多く失くした。その間にも、〈器〉は殺され続け魔王は追い詰められた。
そして、勇者は全属性の天使、精霊の協力によって魔王の〈器〉を滅ぼす。
仮初の平和が訪れ、人々は一時の平穏を楽しんだ。新たな権力者が現れ、各地で戦争が始まる頃には勇者は姿を消していた。