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浅美と繭子のお仕事

6月22日。私たちは事務所の更衣室で白のセーラーと赤のミニに着替えた。事務員のみ水色。私たちはハンナのクルマで栄のイベント会場に向かった。早くも梅雨バテする頃だが、やはり客足はまばら。私たちは定番の夏服と2色のレオタードタイプ。体操服とブルマーを陳列し、イメージソングのBGMを流した。パンフにはカノン公国の歴史や参戦の意義などが端的にまとめられていたが、最近カラー化したばかり。私たちが来る直前まではモノクロのパンフが現役だった。事務所の開設が2年前のゴールデンウィーク明けだからカノン公国がいかに後発かわかる。近年は三重や徳島や新潟が台頭し、名古屋は魔法戦士の聖地ではなくなった。かと言って素質のある子が枯渇したわけではなく、たまに見かけることがある。だが私たちが期待した三十路と10歳児の美人母娘はなかなか現れない。先日[石の森]を読んだせいか、早苗みたいなイケてる子を期待してしまう。「いやお母さん、アレはフィクションでしょ?」「まあね」「しかも早苗は女子高生でしょ?」「そうだったわね」「時代も舞台も違うじゃない」だが私は早苗にモデルがいるとみた。でなければあんなにもみずみずしい描写ができるわけがない。たぶん街頭で娼婦みたいなマネをしたり、片思いの人にコートを脱がされ、まるはだかを見られたりしたのは創作だろう。だが早苗のモデルは実在したはず。三十路の友人同士も現れないが、40代の友人同士は来た。見た目は30代半ばくらいだし気持ちが若そう。40歳の根本加代は黒。野田伶香はピンクのレオタードを試着したが、真夏の参戦には及び腰。2人は独身で彼氏なしだが、本業がスーパーのパート。「ふつうに出逢いがありそうですが?」「それがね、意外とないのよ」平日休みだから男の子と休みが合わないし、職場には既婚者ばかり。だが他の国のイベントに行けば若い女の子ばかり。「うち以外はナルシス制度ですから」「ナルシス制度?」ナルシスは16歳から18歳の少年兵士で魔法戦士としかやらないが、本業は男子校の学生。「ぶっちゃけ彼らって強いの?」「バロンよりは強いでしょうね」「じゃあ私たちココで正解ね」加代たちは石川からの移住組。「地震で?」「いやアレは関係ないわ」だがインフレで生活は厳しく、出逢いがないとこぼした。隣国のゲール公国の事務所が事務員のフローレンス1人で慢性的に人手不足。しかもバロン制度だから加代たちに合いそうだ。「時給は?」「最低時給2500円です」「2500円!?」しかも純聖騎士団からの紹介だと何かと優遇してもらえる。加代たちは時給830円だからすぐその場でフローレンスに電話し、2人は雑務の仕事を得た。「参戦は義務なの?」「義務じゃないです」加代と伶香は事務員を育て上げる義務を負うが、参戦の義務はない。「フローレンスを育成するの?」「そうです」と言ってもラインを打てるようにするとかハードルは高くないし、からだを痛めるような重たい作業はない。しかも自由出勤だからダブルワークも問題なくこなせる。「じゃあ私たちお仕事やめなくていいのね?」「そうです」加代たちはさっそくゲール公国の事務所に向かった。昼食はひつまぶしが出たが、ふだんありつけない高価なもの。洗面所で歯磨きして私たちは仕事に戻った。なかなか期待した美人母娘は現れず、カップルばかり。だが彼らはマナーがよく、場を盛り上げてくれた。イベントは必ずしも参戦者を募ることにとどまらず、異世界の世界観に触れてもらうのが先決。中には喫茶店感覚で利用するカップルも少なくないが、洋菓子代などタカが知れていた。レオタードや体操服、ブルマーが試着されやすく、定番の白のセーラーは赤のミニの丈のせいか試着率が断トツに低い。まあうちは年齢層が高めだから仕方がない。本来ならばカノン公国は10歳児から12歳児を取り込みたいが、現実は厳しい。「今どきの小学生は忙しいのかしら?」「かもしれないわね」先日も小学生の来場者はゼロ。今日もゼロ。ナルシス制度の国のイベントに行ったか、ハナから関心ないのか。足立好恵と美羽は28歳と26歳の美人姉妹。2人は体操服とブルマーを試着したが、本業は漫画家。「食べていける?」「生活はかなり厳しいわ」姉が脚本。妹が原画を受け持つが、好恵たちはネタに詰まり、困り果ててイベント会場に足を踏み入れた。実は書けなくて困り果てた女流作家が参戦するケースが多い。「そんな動機でもいい?」「構わないわ」ただ参戦は甘くないし、リタイヤすれば周りに迷惑がかかる。「だからそれなりの覚悟がいるわ」「そうなんだ」真夏の参戦はキツいが、背に腹は代えられない。帰宅した私たちは熱いシャワーを浴び、カカシになりきる訓練をした。背筋を伸ばして片足で立ち、両手をピンと水平に伸ばす。あとは片方の足を曲げ、股をグッと開く。実はこの股の開き具合が肝なのだ。

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