第9話(最終回) 完璧美少女の秘密(後編)~お前は私の一生の下僕だ!~
私は親が嫌いだ。
母は16の時に私を身篭ったが父親はわからない。
中卒で学もない母は何の考えなしに自由になりたいからと家を出て、男達の家を転々としてはそこで関係を持ち、金が無くなればネットで相手を探し金と引き換えに自分の身体を差し出していた。
そんな生活をしていて子供が出来ないはずがなく、子供が出来てしまうと、それを理由にし今まで関係を持った男達に堕ろすから金をよこせと脅迫し大金を稼いでいたが、結局私はこの世に生まれる事になる。
病院で避妊手術を受ければ金がかかる、子供がいた方が補助金や男達にお前のせいで子供ができて子育てが大変だから養育費を払えと脅迫も出来るから、損得勘定で私は生まれたのだ。
母と何かをしたり楽しい思い出はない、思い出されるのは平手打ちや時に殴られ家を締め出される事くらいか。
後は家に男が来て母の恨みの矛先を向けられて暴力も振るわれた。
流石に性的な事だけは必死に抵抗し時に噛み付いたりして自分を守ってはいたが、どうしても大人の男には勝てず殴られたり蹴られたりは日常茶飯事だった。
そんな毎日が続くと思ったが母が夜逃げを決行すると言うので無理やり連れていかれる。
理由は私のため……ではなく自分の嘘がバレて命の危険を感じたからだったのが理由で、逃げた先は母の祖母、つまり私の曾祖母の家だった。
曾祖母はもう70後半になり最近は外に出ることもあまりせず静かに余生を暮らそうとしていた所だったが、そんな所に無理やり転がり込み図々しく居座る母と私。
曾祖母はコキ使われていた、掃除洗濯、食事に年金まで取られていた。
そんな生活をしていると私はこれが普通なんだと思うようになり、言動も母そっくりになっていく。
いつしか小学生になった私は手が付けられない程暴れたり悪さをする事が多かった。
当たり前の事だがそんな私に誰も寄り付かなくなっていき、周りは私なんてどうでもいいんだ、理解しない奴らが悪い……と恨む日々が続いた。
そんな荒んだ毎日を過ごしていた時にある人が声を掛けてくれた、学級委員長だ。
その人は何言われようと私を説得しようとしてくれて、何かあっても相談にのろうとしたり助けてくれるようになって、初めて優しさを感じた。
学級委員長は人気があり先生や保護者の方からも評判の子で、いつしか私もそうなりたいと思い必死に努力した。
苦手な勉強や言葉使い、礼儀作法に至るまで何でもして彼女みたいになれば皆も私を受け入れてくれる、暴力を行使するんじゃなくてこういった事で皆から注目されたいと思って……
"頑張った"という言葉は自分では使わない方がいい、自分なりに頑張ったと言うと何か諦めがついてそれ以上努力しなくなるからだ。
そう考えるようになってから私は変われた、私は私の色々な長所を出来ない、周りが悪いと言い訳し自ら潰していたのだ。
テストでは上位の成績を取り、友人もたくさん出来て、何より学級委員長から変わったねと言われて褒められたのが嬉しかった、周りから認めて貰えた、心の底から嬉しかった。
その事を家に帰り、私は変われた、今までごめんなさいと曾祖母に報告しようと家の玄関を開けた時の光景は二度と忘れないであろう。
母が曾祖母の首を絞め殺害していた所を目撃してしまったのだ……
母は回覧板を届けに来た近所の人に通報され逮捕される。
殺した理由は「金をくれなかったから」と語っていた。
あれだけ優しかった学校の皆もあんな事があってからは私をさけるようになり、私は祖母に引き取られる事に。
祖母は優しい性格でこの人の元に産まれたら私の人生は違っただろうなと感じるほどであった。
そんな祖母を見ている時ある感情が芽生えるようになる。
(こいつからどうやって金をまきあげられるか、優しい性格だからいくらでも騙せるのでは)
我に返った時は祖母の財布に手をかけていた所だった。
こんな事してはいけない、また皆から阻害され母のようになってしまうと心を入れ替えた……つもりだったが、中学の時友達の女の子が近くのヤンキーに絡まれているから助けてと言われた時の事。
相手は1人だけで、カツアゲする相手は自分より歳下の力が弱いやつしか狙わないような奴で、人目の少ないビルの間で私と同じ中学の女の子に因縁をつけ金と身体まで頂こうと考えていたそうだった。
私と一緒に来てた子たちは直前になり怖くて逃げ出してしまったが私は相手を見て恐怖は感じなかった。
小さい時もっと屈強そうな奴に暴行されていた事が私を強くしていた。
だが暴力は使わない、カツアゲされていた子を逃がして彼を言葉で説き伏せようとしたがうるせぇと殴られて軽く口の中が切れて、口の間から血が流れた所までは覚えている。
……いや、正確に言えばその後自分が何をしたのかはハッキリと覚えているのだがあれは自分ではないと思いたかった。
思いつく限りの罵詈雑言、必要以上の過剰防衛、そして相手の息の根を止めるように相手の首に手をかけた時、あの時人を殺めた母の影と私が俯瞰視点のように重なって見えた。
咄嗟に手を離しその場から逃げてしまい、その後彼がどうなったかよくしらないが、その後その地域ではカツアゲ行為は起きていないそうだ。
この事が問題になると考えていたがその後特に何も無く、逆にか弱い女の子を守ってくれたと逆に人気が出てしまう。
正直悪い気はしないがもうあんな事はしない、助けるにしても言葉だけで相手を組み倒せるようもっと勉強しなければと強く思うようになった……
木造平屋であちこちガタが来てるのを誤魔化し誤魔化し生活している我が家に雨でずぶ濡れになったヤツを招いてシャワーを浴びさせた後、適当な部屋着を着せて自分の部屋へ招き私の過去を話した。
「これが私の過去だ、長話ですまねえな」
「いいよそんな事、月島さんの過去にそんな事あったなんて……」
「それでも私の力になりたいとか思うか?いつお前にも本気で殺意が向いたり何するかわかんねえ、私はなんだかんだ言って母と同じ血が流れているから……」
お互い向かい合うように座っていたが奴が私の手を握ってきた。
「うん、むしろもっと力になりたいと思ったよ!
僕になら何したっていいからこの先も近くにいさせて欲しいな!それに月島さんはお母さんとは違う……確かに暴力的で言葉使いも酷いけど絶対に嫌な事はさせないし、フォローとかしてくれるし上手く言えないけど優しい暴力?みたいな感じかな」
こいつは変わってるな。
私みたいなやつの事支えるとかなんとか言ってきやがる、本性は何するかわからないやつなのに、本当こいつは……バカだな……
いつもの悪い笑顔が我慢できなくなり高笑いを浮かべてしまう。
ポケットにしまっていたスマホのボイスレコーダーのアプリを予め起動していたので奴に聞かせた。
『僕になら何したっていいからこの先も近くにいさせて欲しいな!』『僕になら何したっていいから』『何したっていい』……
そこをリピート再生するとやられたと言うような顔でガッカリして頭を抱えている、こいつをからかうのはやはり面白いな。
だがちょっとだけ可哀想になったので本心を伝えようと思ったが、顔を見ながら言うのは少し恥ずかしかったので「今から"独り言"をいうから」と宣言し彼の手を今度は私から握って俯きながら話し始めた。
「……ありがとう良雄くん、本当の私を認めてくれて、受け入れてくれてうれしかったよ。
ラブレター破り捨てた所見られた時あー終わったと思ってたけど、あの後なんとか誤魔化せた後に君を奴隷とか下僕とか言っていいように使わせてごめんね。
からかうと良い反応する君見てると面白くてついやっちゃって……本当に嫌なら言ってね?
それで体育祭とか一緒に見に行った野球とか楽しかった、一生懸命努力してくれたり私を守ってくれた時は少しだけだけどドキッとしちゃった。
だから……だから……」
その後顔を上げ彼の顔を見て笑顔で言う。
「だからお前は私の一生の下僕だ!勝手にどこかに行くことなんて絶対に許さないからな!」
彼はそれを聞いて頷いていた、本当変な奴だ……
気が付けばもう夏休みも終わる頃だった。
財布も持たないで来た下僕の為に帰りは家まで送ってやることにした。
彼の家の前まで着き私も帰らなければならないのだが、私は一人は嫌いで人と別れる時とかは苦手なのだ。
「じゃあな、スッポ……良雄、また学校でな!」
そんな気持ちを押し殺し彼に笑顔で手を振り別れた後に帰り道を歩いている時ふと思う。
そうか、私はもう一人じゃないんだ、と。
学校に私を慕ってくれる人、信頼してくれる先生、生徒会では暑苦しくも私の力になってくれる後輩、変態みたいな奴だけど私の本性を見ても引かずにいてくれた水谷、あと一番目の奴隷で下僕で私の一番の理解者でもある良雄君。
ありがとう皆、そしてこれからも……