第8話 転校決定!?さよならと会長の秘密(前編)
『大事な話しがある』
放課後父親からメッセージがあったので通りかかった水谷さんに用事があるから生徒会へ行けない旨を伝えて急いで家に帰る。
父は普段冗談をよく言う人なのであまり真面目な話しはしないのだが、何かすごく嫌な予感がしてならなかった。
自宅へ着いてリビングへ向かうと両親と妹がダイニングテーブルの椅子に腰掛けていたので自分も妹の隣に座り両親と顔を合わせるが、その表情はいつもの柔らかいものではなく深刻な話しをするそれだった。
そして父が口を開く。
「落ち着いて聞いてほしい、父さん転勤が決まったんだ」
「転勤ってどこに?」
寝耳に水で焦って話の途中でつい口を出してしまった。
「……転勤先は大阪だ。向こうに別の支社があってそこが人手不足でな、関東方面から誰か行けないかとなり白羽の矢が立った訳だ」
「お母さんもその話し聞いて最初はビックリしたし他の人じゃだめなの?って聞いたのよ。
でも他の人だと専門的な知識もあまりなくて行ってもあまり意味がないからって……期限も3年っては言われてるみたいだけど最悪長くなって向こうにずっと住むことになるかもしれないみたい」
「母さんが説明してくれた通りだ。
さて、ここからが本題なんだが父さんは一人で行こうと思っているんだがお前達はどうしたい?
このまま母さんとここで住むか、向こうで父さんと暮らすか」
会社の制度がどうとかで家族がいる人は家族と共にいられるよう転勤先の住む場所も工面してくれるそうなのだが問題はそんな事ではない。
今まで通りここで変わらず生活していけるのならそれが楽なのであろうが、向こうで新しく暮らすのも悪くはないと考えてしまう。
少なくとも生徒会に入っていなければ即答で父について行く決断を下したと思う、なぜならやりたい事も何もなかったし新しい生活で全てをリセットし一からやり直せるかもと言う考えがあったからだ。
でも今は違う、生徒会に入って大変だったけど色々あったし、友達と言えるか分からないが大切な仲間みたいな人達もいる、そして何より月島さん……
引っ越せば月島さんからの呪縛みたいな物から解放され自由になれるがそれでいいのだろうか?
最初は脅迫されて嫌々付き合ってたけど、あの人の悩んでる所とか怒ってる所、何より他の人には見せないような子供のように無邪気な笑顔を見ていると近くで力になりたいと思うようになっていたのは事実だ。
父の言葉に返事できず黙っていると来週まで答えを聞かせてくれと言い父と母は席を立ちどこかへ向かってこの場には妹と僕だけ取り残された。
「……お兄ちゃんはどうしたいの?私お兄ちゃんと一緒にいたいから付いてく。
嫌って言っても絶対付いてくからね」
しばらくの沈黙の後、僕の手を握って必死な顔してそう言う妹を見ていると恐怖のような何かを感じる。
さて、僕はどうしようか……
翌日に月島さんからの呼び出しがあったので会長室で昨日の話しをすると明らかにイライラしていた。
「月島さん、僕どうすればいいんだろう?」何気なく放ったそんな無責任な一言がきっかけだった。
月島さんは席から立ち上がるとパイプ椅子に座っている僕の胸ぐらを掴んで立たせるとしばらく無言でいたが口を開く。
「自分の人生なのに他人に決めてもらわなきゃ動けねぇのかよてめぇはよ!
てかお前最初からそうだったよな、私に命令されてコキ使われて、私に指示されて生徒会に入って……少しは反抗してこいよ弱虫が!
んでなんだ、次はノコノコ逃げたように見えるから"月島さんがそう言ったから"って理由で転校したとか言いてぇだけなんだろうが!
……本気で仲間だなんだ皆のこと思ってたらここに残るって答えがその場で出てたろ、お前が皆を思う気持ちなんてそんなもんなんだよ」
最初は強い口調だったが次第に弱くなり、激昂していた表情も今では真顔に変わっている。
「出てけ、お前なんて知らん。
どうせお前も私なんてどうでもいいんだろ。
顔も見たくねえ、失せろよ。
もちろん連絡もしてくんな、じゃあな」
手を離され窓の外を見ながら言われた。
その後ろ姿を見て何か言わなければと思うが言葉が出てこない……なので僕は無言で会長室を後にした。
家に着いて自室で考えていた、月島さんの言う通り僕は昔から誰かに背中を押してもらわないと何も出来なかった。
小学生の時習っていた書道も母さんに勧められたからだし、中学の時入った部活も友達がやっていて勧誘されたから、高校の推薦も先生から受けてみたらどうだと言われたから。
その高校生活も特に何もせずいて、生徒会の業務や部活対抗リレーで頑張っていた事すら誰かからやれと言われたから。
脅迫されたからと言って言い訳していただけ、僕の人生自分自身で決めたことがあっただろうか……
……ひとつだけあった、月島さんを好きになったことだ。
一目惚れしてラブレターを書いて渡そうとした事は誰にやれと言われたわけじゃなく自分がそうしたいと思ったから行動したんだ。
『私なんてどうでもいいんだろ』
そんなわけない、最初は好意だけだったけど今は何でも1位になろうと努力したり、たまに可愛い所とか見せる月島さんの事凄く大切な存在だと思ってるしこの人無しの人生なんてきっとつまらないだろう。
この気持ちを伝えなきゃ、あの会長室で言えなかった事を……
気が付いたら制服も着替えずスマホだけ持って飛び出していた。
外は夏特有のバケツをひっくり返したような雨が降っていたが、そんな事は気にもならないくらい夢中で走る。
彼女の家に直接行きたいが場所がわからずとりあえず前に勉強会をして解散した場所の駅を目標にして走りながら水谷さんに電話をかけた。
「良雄さんどうしたんですか?」
「急にごめん、会長……月島さんにどうしても言いたいことあって……色々あって怒らせちゃって連絡してくんなって言われたから直接家行こうとしてるんだけど場所わかんなくて……会長大好きな水谷さんならわかるかなって思って……」
「わかりますけど、今もしかして外います!?
すっごい土砂降りですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫……ごめんだけど住所かなんかメッセージでくれる?」
「……わかりました、詳しくはわからないけどこんな雨の中凄い必死に会長の所向かっているんなら何かがあったんだなって言うのはわかりました。
落ち着いたら理由教えてくださいね」
通話が切れてメッセージに住所がのせられたメッセージが来る。
ここから電車で三駅、そこからちょっと歩くのか……
気がついたら財布も持ってくるのを忘れていた事に気が付き家に取りに戻らなければと駅前からまた走り出そうとした時だった。
「お前、傘もささないでなにしてんだ……?」
声の方向を向くとピンクの折りたたみ傘をさした制服姿の月島さんがいた。
「あれ……家にいるんじゃ……」
「いや今日色々やることあって学校いたんだよ、てかお前なんで……」
理由を伝えたいが息が切れて上手く言葉に出来ず膝に手をついて呼吸を整わせる。
その姿を驚いた様子で見ていた月島さんだったが次第に表情が厳しくなっているのがわかった。
「……いや、お前とは話さない約束みたいなのしてたよな、まあお前がなんでここにいるかは知らんが私はこれで……」
「待って!」
やっと息が少しづつ整い言葉が出せ駅に向かおうとしていた彼女の足が止まる。
ここで言わなきゃもう後がない、そんな気がしていた。
「ごめん月島さん、月島さんの言う通り僕は自分じゃ何も決められないし助言とかないと動けない、誰かのせいにしないと生きていけないような弱虫だよ。
でもこんな、こんな僕でも誰に言われるでもなくひとつだけ自分で決めたことがある、それは君を好きになった事だよ!」
「スッポン、そりゃお前……」
「告白なんだろうけどちょっと今は違う、その時は好きってだけで告白して両思いになれたらなとか思っていただけだったけど、今は月島さんからどう思われていようと関係ない、僕が君の力になりたいんだ。
蔑まされたって罵倒されたりしてもいい、傍で月島さんを応援したり支えていきたいんだ!」
思っている事は全て言えたと思う。
後は月島さんからの返答待ちだ。
「……お前それ本気なのか?」
彼女を真っ直ぐ見つめ頷くと月島さんは少し笑ったように見えた。
「まあお前には私の本性見せてるしな……いいか。
この後時間大丈夫か?とりあえず家来いよ、そこで私の事話すから。それでも気持ちが変わらないならお前のその思い、受け取ってやるよ」
(後半・最終回へ続きます)