第7話 お兄ちゃんの様子が変なんです!(後編)
お兄ちゃんは私に優しかった。
2つ歳の離れたお兄ちゃんは私が小さい時からお菓子をくれたり遊んでくれたりして優しくて、私がお皿を割っちゃった時だってお父さん達に自分が割ったとかばってくれて嬉しかった。
そんなお兄ちゃんがモテないのが不思議で、年齢イコール彼女いない歴なのが信じられず何日かお兄ちゃんが出掛けた時に後を追って見ていたが趣味のアニメグッズやゲームを買うだけで特に何もなかった。
かっこよくて性格も良いお兄ちゃんに彼女がいないのは何故か……そうか、お兄ちゃんは実は私の事が好きで言い出せられないだけなんだ。
かばってくれるのも優しくしてくれるのも私の事が好きだから、この私、鼈 火音の事を!
そう思った時からお兄ちゃんにいつ告白されてもいいように他の男との付き合いを全て絶ち、逆にお兄ちゃんが私以外を好きにならないようコンセントには盗聴器を、誕生日に送ったくるみ割り人形にはカメラをセットして四六時中監視出来るようにした。
これで大丈夫、そう思っていたのに……
高校2年生になってお兄ちゃんがラブレターを書いていて独り言のように月島さんと呟くようになっていた。
それを知った瞬間私はその月島とか言う奴を如何にして亡き者にするか、そしてこの恋が失敗するように呪いの言葉を隣の部屋から送っていた。
そしてそれが実った、お兄ちゃんがラブレターを持っていったその日絶望した顔で帰ってきたのを見てこれは告白が失敗したんだと確信して部屋で喜びの舞を踊っていたが、また誰かを好きになるのではと監視を強化するため寝る時間を削ることにした。
最近はまた楽しそうに学校に行っており、女性の話題もでていないから安心していたある夏休みの日、お兄ちゃんは女を連れてきた。
しかもそいつの名前は月島 桜子と言っていた……月島……奴か!私のお兄ちゃんをたぶらかしラブレターを貰ってフったくせに何すました顔で隣にいやがるんだコイツは!
内心腸が煮えくり返っていたが表には出さずソイツと話しをし様子を見ることにした。
部屋に2人が入ったので私は盗聴器を受信する機械の電源を入れてお兄ちゃん達の会話を聞いていると、あの女は玄関先で話していた口調とはだいぶ違う荒々しい口調でお兄ちゃんと会話している。
そうか、こいつ本当はこの性格が本物でお兄ちゃんから告白された時にその本性を見せてしまい嫌われたと思って1度は告白を断ったが、その後お兄ちゃんの良さを再認識し何とかもう1度告白してもらえるよう付きまとっているんだ、間違いない!
こいつは排除しなければならない存在だと思っていると盗聴器の無線がおかしくなり途切れ途切れにしか聞こえなくなってきた、これだから安物は……
かろうじで聞こえる声を必死に聞く。
『んー……どうだ……ゴム……とか……売ってあるしデカ……い……』
なに!?こいつゴムを買ってお兄ちゃんのその……デカいアレを!?
こいつ、既成事実を作って逃げられないようにしようとしてるな!外見を良くしていたのはこのためか!
くそっ、お兄ちゃんこんなヤツの誘惑に乗るな!
しばらくして盗聴器から何も聞こえなくなり壊れたと確信したので机から小さいモニターの電源を入れて、くるみ割り人形のカメラを起動する。
カメラの映像ではお兄ちゃんの後ろ姿、そしてテーブルを挟みヤツの姿が見えた。
どうやら宿題をしているようだが女が段々とお兄ちゃんへ近付いて最終的には隣へいった。
しかも画角で見えていないが手を繋いでいるのではないか?手を出されないと思って誘惑しているのかこいつは……いやこんな誘惑方法があるとはこいつやるなと少し感心してしまった。
しばらくして女が立ち上がり帰ろうとする素振りを見せたのでようやく帰るのかと安心したが、女がまた座ってテーブルの上にあるティッシュを数枚とってお兄ちゃんの股間付近に顔を……こいつ、"やりやがった"な!ついに自分から動くとは!
待っててお兄ちゃん、今火音が助けに行くから!!
座っていた椅子が倒れるくらい勢いよく立ち上がりお兄ちゃんの部屋へ直行し扉を開けて目の前に飛び込んできた映像は、辺りに白い液体が飛び散って女がティッシュを持ってお兄ちゃんの股間付近に手を置いている所だった。
我慢していた感情が表情に出て自然と声が出ていた。
「お兄ちゃんに何してるの!!」
ヤツは苦し紛れの言い訳をして去っていった。
次ヤツが家に来るようなことがあれば次こそは……
そう思いながらネットで新しい盗聴器と監視カメラを購入した。
お兄ちゃん、火音は待ってるからいつでもその気持ちを聞かせて?私はいつまでも待ってるから、いつまでも……