第6話 お兄ちゃんの様子が変なんです!(前編)
上がる気温と過ぎていく日々。
気が付けば夏休みを迎え生徒会も学校行事が少ないため暇が出来ることが多くなった。
各自好きな時間を過ごしていく中で、僕はいつもの通り月島さんにいいように使われている。
夏休み期間中は会長室が清掃と点検のため使用不可になっており、家にいたくないと言う理由で色々な場所を巡ったが夏休みの宿題をゆっくり出来る場所がなかなか見つからないそうだ。
図書館がいいのではと提案したが静かすぎると逆に集中できないようで、クーラーも効いてなおかつ気兼ねなくのんびりできそうな所……つまり僕の家に来て宿題をする事になった。
駅前で合流し僕の家へ向かう、彼女は特に着飾っておらずTシャツに七分丈のチノパンを履いていたのだが、元がいいので凄くオシャレしてきているように感じるくらい似合っていた。
「あじー……お前ん家今日誰かいんのか?」
「今日は両親が仕事で居ないけど妹は家にいると思うよ」
そんな取り留めのない会話を少しして暑い中歩くこと数分、赤い屋根が特徴の自宅が見えてくる。
玄関の鍵を開けて彼女を家へ招く、その音で誰か来たと気がついたのか奥の部屋から妹が小走りで来ると隣の見知らぬ女性を見て唖然とした表情を浮かべている。
「あら、こちらが良雄君の妹さんですか?
初めまして、良雄君と同じ生徒会で友人の月島 桜子と申します。
可愛い妹さんがいると聞いてはいましたが本当に可愛らしい方ですね、本日はどうぞよろしくお願いします」
深くお辞儀をして妹に軽い世辞を言うと妹も自己紹介して軽く話した後、僕が自室のある二階で勉強しようと声をかけると月島さんは笑顔で妹に手を振って僕の後に続く。
二階は妹と僕の部屋が隣同士になっており階段を登ってすぐの方が僕の部屋だ。
外が暑いから部屋に案内した時に暑いと文句を言われないようエアコンを事前に付けていたので、部屋の扉を開けた瞬間冷気が僕達を歓迎するかのようだった。
部屋に入り座布団が置いてある所に彼女が座ると部屋の中をキョロキョロと見始め、一階から僕が麦茶を取りに戻ってくると部屋の殺風景さを指摘してきた。
ベッドに丸テーブル、勉強机には妹から貰ったくるみ割り人形が置いてあるくらいで特にこだわっている部分がなく、指摘されると本当に特徴がない部屋なので、何か置いた方がいいのかなと彼女に麦茶を差し出して質問した。
「んー……観葉植物とかどうだ、フランスゴムの木とか。
ホームセンターとかで売ってあるしデカくもねーからいいんじゃねーの、知らんけど」
麦茶を一気飲みし、おかわりを要求しながら興味なさげに答えられた。
無駄話もそこそこに勉強を始めるが、最初は向かい側に座って僕がわからないところを聞くと教えてくれていたのだが、しばらくすると僕の隣へ来て宿題をやり始めた。
近くで見ると凛として気品があるし凄くいい香りがする、黙って宿題をしているこの人を見れば惚れた最初の自分に納得がいく……またグッと距離を詰めてくる、ドキドキしながら何故近付いて来るのか尋ねた。
「あぁ、向かい側だとお前のノート見えねーんだよ。
学校ではコンタクトでオフは眼鏡にしてんだけど眼鏡忘れちまってさ……まさかお前勘違いしてたのか?」
前ならここで蹴りか平手ぐらいは飛んで来ていたが、最近はすこーしだけ優しくなったみたいで今回は嫌悪感を増した表情を浮かべられただけだった。
彼女のおかげで宿題もそこそこ進み、麦茶も飽きて来たので僕は牛乳を飲んでいた。
そろそろいい時間だ、外もだいぶ涼しくなってきたし彼女に家に帰るか聞くと一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべたが、自分のスマホで時間を確認すると軽く頷き立ち上がろうとしたので僕も立とうとした時、机の端に置いてあったコップが僕の手に当たり牛乳がズボンの上にぶちまけられた。
それを見て月島さんは座ってろと軽く言うとテーブルの上にあったティッシュボックスから数枚ティッシュを取り出しズボンにかかった牛乳を拭いてくれた。
「お前本当にトロイよな、あーあ白いのがあちらこちらに……拭いてやってんだから少しは感謝しろよな」
そう月島さんが言った瞬間、部屋の扉がガチャッと勢いよく開かれ妹が息を切らしながら迫真の表情を浮かべ惨状を目の当たりにした後、鬼のような顔をしキレていた。
「お兄ちゃんに何してるの!」
「妹さん、これは別に何も……」
誤解を解こうとするが僕の股間あたりにティッシュを持ち周りには白い液体……誤解しても無理はないような状況で妹は月島の肩を掴み前後にブンブンと揺らして文句を言っている。
それを見ていた僕は呆気にとられるばかりであった……
「ふーっ、とんだ目にあったぜ……お前の妹っていつもあんな感じなのか?」
駅まで彼女を送っていく途中に質問された。
特にいつもそんな事はなく優しい妹であんな姿を見た事がないと伝えるとまた興味なさげな返事をされた。
そうこうしているうちに駅の前に着いたので「じゃあ」と手を挙げ自宅へ戻ろうとすると不意に彼女から手をにぎられた。
びっくりして彼女の方を向くと悲しげな表情を浮かべて黙っている。
しばらくの沈黙が流れ、ふと我に帰ったのかハッとした表情を浮かべると握っていた手を話し笑顔で「じゃあな!」と言い月島さんは駅の中へ走っていった。
この時は、どうしたんだろうぐらいにしか思っていなかったが後になぜあんな悲しい顔をしたのか知ることになる……(後半へ続く)