第4話 白熱!部活対抗リレー~よし、特訓だ!~
生徒会長室へ招集がかかった。
いつの間にか生徒会長用の椅子は豪華になっており、青を基調にしたアンティーク風の高価そうな物になっているのに対し、僕達は変わらずパイプ椅子で"下僕"・"奴隷"とそれぞれ小さく手書きの貼り紙が貼ってある椅子に座る。
会長曰く、下僕は僕で奴隷は水谷さんらしい。
水谷さんはあの後会長のストーカーをしていく内に僕達の関係に気が付き、自分から奴隷になりたいと土下座してお願いして今に至る。
「お前ら6月に何があるかわかるか?」
腕組みしながら高そうな椅子に座り僕達へ質問する。
そうすると隣のどれ……水谷さんが元気よく手をあげて「体育祭!体育祭!」と連呼していた。
それを聞いた月島さんは笑みを浮かべゆっくり頷くと、今年の体育祭のパンフレットを紙飛行機の形へ折り飛ばしてきた。
それをキャッチし内容を確認していると、最後の方にある【部活対抗リレー】の欄にピンクの蛍光ペンで線が引かれてあった。
部活対抗リレーはバトンを繋ぎ校庭の一周200mを50m×4人で走り、運動部と文化部でそれぞれ部門をわけて順位を決める。僕達生徒会は文化部での参加だ。
花形はやはり運動部で盛り上がるのもそこなのだが、今年は生徒会長になった月島さんがいるので文化部にも注目が集まっていた。
なので商品も豪華になり、昨年までは賞状ぐらいだったが今年は一位になれば賞状とプロ野球の観戦チケットが授与される事になっており、月島さんがそのプロ野球チームの大ファンだそうで今回は是が非でもレースに勝ちたいとの意気込みを語ってくれた。
生徒会は現在5人で三年生は部活動に力を入れている人は別だが、就活や進学で忙しく部活には入っているものの、あまり来なくなるのがウチの学校では良くあることで、1人三年生の先輩がいるが、今回はパスしレースは水谷さん、僕、月島さん、鷲尾君の4人で走ることになった。
鷲尾君は会計の一年生で中学の頃は元陸上部で暑苦し……熱血派の男子である。
月島さんは鷲尾君は問題ないと語っているが問題はお前らだと指を指して指摘してきた。
「全部の文化部が出る訳ではなく参加表明したのはザコの模型部、メガネとオタク比率が高すぎるパソコン部、しょうもない内容の記事が多すぎる新聞部、そして我々、輝かしく誇り高い生徒会の4チームで走る事となった。
まあ、模型部とパソコン部は"アウトオブ眼中"だが問題は新聞部だ……あそこには陸上かじってたヤローもいるみてーだからな。だからお前ら!お前らがしっかりしねーといけねーんだぞ、わかったか!」
馬鹿でかい声で返事する水谷さんとは対照的に僕は自信がなかった。徒競走ではいつもビリから二番目位の成績しか取ったことがなくタイムも良くない。
そんな僕の考えを見透かしていたのか、約一ヶ月後に行われる体育祭へ向けて特訓することが決まった。
放課後に学校から少し離れた河川敷に場所を移す。
下は砂になって学校の校庭と似たような環境で人目もあまりつかない特訓には適した場所である。
学校指定の体育着に着替えた僕達3人は早速特訓を始める前に、月島さんがそれぞれの実力を知りたいと各自50mのタイムを測ることになった。
まず最初は水谷さんだ。
「よーい、スタート!」の合図と共にゴール地点で待つ月島さんがタイムウォッチをスタートさせる。
それと同時に水谷さんは走り出したが明らかに遅かった。
遅い理由は元々運動が得意ではないのが挙げられるが、最大の特徴は大きな胸にあり、前に出る度に上下にゆっさゆっさと揺れ、明らかに走ることの支障になっているし、息を切らしながら顔を赤らめて走る彼女を見て、何か見てはいけないものを見ている感覚になった。
その走る姿を見て月島さんは自分の胸と見比べて軽く舌打ちしている。
やっとの事でゴールし月島さんがタイムを見て厳しそうな表情を浮かべていた。
「はぁはぁ……会長……ごめんなさい……はぁはぁ……私っ……もっと……はぁはぁ……頑張ります……はぁはぁ……」
膝に手を置き息を切らしながら謝罪していたが色気が凄い。それを見ていた月島さんは『タイム上では私が圧倒していたが、何か……"試合に勝って勝負に負けた"ような気がした』と後に述懐した。
その悔しそうな表情を見て吹き出しそうになっていたら月島さんに尻を思い切り蹴られ、四つん這い状態になった僕に罵詈雑言と共に蹴りを何回も入れてきた。
その様子を羨ましそうに水谷さんは見ていたので、ここには変人が多いと感じてしまう。
その後、僕も走ったがいいタイムが出なかった。
月島さんも走ったがフォームも綺麗でタイムも陸上部並のタイムが出ており、そのタイムを告げてもなお満足していなかった。
「よし、特訓だ!」
鬼コーチの元、走り込みや筋トレ、早く走るための本を読んだりと一週間ほどが経過した時、もう1人のリレー選手がやってきた……鷲尾君だ。
今回の部活対抗リレーに本気だった彼は目元まで伸びていた髪を切り、坊主にして熱血指導を僕達へしてくれた。
「頑張れ頑張れ!やれるやれる!いける!いける!そこだ!水谷、お前そんなもんじゃないだろ!鼈先輩まだいけますよ!会長ナイス!でもまだまだやれますよ!!」
鷲尾君には本性は見せていない為、猫を被っていた月島さんも若干引くぐらい暑苦しい指導が続いた。
そして運命の日がやってきた。
体育祭は実行委員の元、順調にプログラムが進んで行き部活対抗リレーまできたのだ。
運動部が走っている時に、校庭の影で月島さんが僕達を呼び集め円陣を組むことにした。
「よし、今日は絶対勝ちましょう!生徒会ー……」
「「「「オーッス!!!!」」」」
事前に決めていた掛け声を決め、いざ勝負へ……
走る順番はくじで決められ、最初は鷲尾君で次に水谷さん、月島さんが走りアンカーが僕になる。
僕が最後……月島さんのバトンを受け取り一位に……
内側から生徒会、新聞部、模型部、パソコン部とスタートラインへ、鷲尾君はそこで軽く手首を回したりし風格が出ていた。
「よーい……スタート!」
実行委員の掛け声と共に全員が勢いよくスタート、それに伴い観戦している生徒からも声援が飛ぶ。その中を颯爽と一位で鷲尾君が走り抜ける……速い!
二位との差をどんどんと突き放し圧倒的一位で水谷さんへバトンが繋がる。
大きな胸を揺らして必死に走っている。練習通りの走りやバトンの受け方が出来ており自然と僕からも「頑張れ!」と声が出た。
しかし新聞部の走者が速く、水谷さんは抜かされ二位になってしまったが三位とはまだ差がある……いける!
「会長!!!」
「よし、よく頑張った!」
バトンを受け取る際に軽く言葉を交わすと綺麗なフォームで走る月島さんは、一位の新聞部とかなりの差があったがその差をみるみると縮めていた。
いける……いける!
もう少しで一位へ返り咲きそうな時、足元にあった小石に躓き転倒しそうになり、スローモーションになったかの如く倒れそうになった月島さん。
その瞬間であった。
「負けるかぁああああああ!!!」
大きな声と共に月島さんは体勢を立て直し、また少しついた差を取り戻すように走り僕へバトンを渡す。
「良雄!」
「月島さん、ナイスラン!」
一言だけだが激励の言葉を掛け走り出す。
僕の横を少しリードし走る新聞部、必死に走るがその差は埋まらない、もう無理なのか……
諦めかけた時、生徒会みんなの声援が聞こえた。
独りじゃないんだ、このバトンは離さず一位でゴールするんだ!
全力を出し切ったと思っていた足がさらに力を込めて前へと出た、前へ前へ……
ゴールテープ手前、差はもうないに等しかった。
勝てるかも……そう思った時に焦りで足がもつれ前に倒れ込みながらゴールした。
見ていた全員がほぼ同じタイミングでゴールしたと思うぐらい差がなく、判定はゴールした時を撮ってい
た写真部の写真判定となった。
結果を校庭の真ん中で4人集まり祈るようにして待っていた……
「結果が出ました!優勝は……生徒会だー!」
歓声と共に大きな花火が上がった。
それを聞いて涙する鷲尾君、手を繋ぎ飛び跳ねながら喜ぶ水谷さんと月島さん。僕も嬉しかったけど疲れで立ち尽くすだけだったが自然と笑みが出ていた。
あの白熱したレースから数日、部活対抗リレーで優勝した賞状が壁に飾られた生徒会長室に集まり、大会の事を3人で話していた。
チケットは4枚あったが、鷲尾君は試合のある日は予定があるとの事でチケットは貰わず。
連席で取れなかったのか、3塁側とバックネット側のペアで席があり、水谷さんは3塁側を選び会長はバックネット側を選んでいた。
無論会長と観戦したかったのだろうが、どうしても見に行きたいと水谷さんのお兄さんから言われたそうで兄妹で観戦する事となった。
月島さんは誰と行くんだろう……?
用事があると言い会長室を出ていった水谷さんを見送った後、月島さんが口を開いた。
「スッポン、一緒に見に行くぞ!」と……