後編(最終回)~完璧人妻(予定)、鼈さん~
大学を卒業してからの変化について
鼈 良雄……物語開始時点で160cmほどであったが、卒業時には170cm前後に。そして、大学卒業は175cmとなった。
髪も黒から茶色へ。若干パーマをかけている。
月島 桜子……身体的には変わらず。しかし、内面は大きく変化している(本編参照)。
新居に越してきて一週間は経過しただろうか。
駅近で家賃があまり高くない物件を探し、やっと希望通りの場所を見つけた私達は、即決定して引越しの準備を始めた。
そして荷物の搬入を終え、共有スペースであるリビングは木製のテーブルと椅子、テレビなどの設置は完了しているのだが、お互いの部屋の私物はまだダンボールの中なのだ。
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そして今日は土曜日で仕事がお互い休みなので、部屋の片付けを朝から行っており、ひと段落着いた時には夕方の5時になっていた。
お互いの部屋から出て、リビングで顔を合わす。
良雄はラフな格好をしているが、私はメイクもバッチリ仕上げて、服装も今年の流行であるブルーのブラウスに、グレーのガウチョパンツを合わせてオシャレをしている。
そんな私達が疲れきって、リビングの椅子に向かい合わせに座ると、ほぼ同時にため息をついた。
「桜子、部屋の荷解き終わった?」
「大体はね。良雄"さん"はどうなの?」
疲れきった表情をしている彼に問いかけると、軽く頷いている。
「終わったんだ。これでやっとゆっくりできるね」
「そうだね……って、そう言えば気になる事があるんだけど……」
彼は目元にかかった茶色に染めた髪を手で払うと、私の方をジロジロと観察していた。
「な、なに?見られると恥ずかしい……///」
頬に手を当て恥ずかしがっていると、彼は真顔で質問してくる。
「どうしてそんなオシャレしてるの?てか、一緒に住むようになってからずっとそうだよね。出かける用事もないのに」
「それは……良雄さんに情けないところ見せたくないから。『桜子はいつも綺麗だね』って思われたくて……」
また恥ずかしくなって俯き加減で理由を答えると、彼は少し笑みを浮かべ再度ため息をつく。
「何もしなくても、お前はいつだって綺麗だよ桜子」
「良雄さん……」
「ったく、そんな心配するなんて。お前はバカだな」
「今お前バカって言ったか?」
さっきまでニヤニヤしていたが、"バカ"と言われた事に腹が立ったので、真顔で彼を睨みつける。
「最近大人しくなったと思ったけど、牙は抜けてないんだね……ごめんって」
「……こちらこそごめんなさい。直そうって思ってるんだけど、ふとした事で出てしまって……嫌になって、浮気とかしちゃダメだからね?」
深く反省し、また俯き加減で上目遣いをして見つめると、彼は笑みを浮かべて自信満々に答えた。
「大丈夫、君以上に素敵な人はいないから」
「良雄さん……」
「ちなみになんだけど、もし浮気したらどうするの?」
「その時はお前殺す。そして私は後を追わない」
「あっ、追ってはくれないのね……」
◇
良雄さんがお腹がすいたと私に訴えているので、私は彼に「愛情たっぷりの料理作ってあげるね♡」と、エプロンを身につけながらウィンクをする。
そして台所へ立って調理開始。
まずは、電気ケトルに水を入れてスイッチを入れる。
そして、台所の下の方に買い置きしていたカレー味のカップ麺と、焼きそばのカップ麺の二つを取り出す。
カップ麺の封を開けて、かやくを入れていると、電気ケトルがお湯が沸いたと自己主張を始める。
その電気ケトルで沸かしたお湯をカップ麺に注ぐ。
焼きそばの方は湯切りをして、蓋を全て開けて付属のソースやマヨネーズをかけて完成。
そして彼の前にカレー味のカップ麺、そして私は焼きそばのカップ麺を置いた。
「さ、良雄さん。たーべて♡」
一緒懸命可愛く言ったつもりだったが、彼は"料理"をジッと見つめ沈黙していた。
そして、しばらくして口を開く。
「あのさ、これ"料理"なの?」
「そうだよ。さ、良雄さん。たーべて♡」
「いや、それはいいから。料理じゃないから!カップ麺は!」
いきなり声を荒らげてきたので、私は不安な表情を浮かべてしまう。
「えっ、ダメなの……?」
「いやダメじゃないけど……エプロンもしてるし、手料理なのかなって思ってて」
「エプロンは焼きそばのソース跳ねるの嫌だから身につけたの。手料理は作りたかったけど、材料使い果たしてたの忘れてた」
「なんかついさっき『情けないところ見せたくない』とか言ってたような気がするけど早速見ちゃったよ。てかエプロンした理由それだけなんだ。それより愛情……愛情はどこにあるの?」
呆れたようにしているので、彼のカップ麺に両手をかざして「あいじょ~」と真剣な表情で唱えると、クスッと笑ってくれた。
「ふふっ、桜子って面白いよね。一緒にいてて飽きないよ」
「良雄さんごめんね?明日は作るから」
「こっちこそ材料とか確認してなくてごめん。明日は俺が作るから、桜子は休んでてよ」
「優しい……良雄さん……」
「何……?」
お互い見つめあって距離が近づく……そして唇か触れ合う直前、私が呟いた。
「麺伸びるから早く食べた方いいよ」
「……」
◇
夜食も風呂もお互い済ませて、パジャマに着替え寝るだけなのだが、彼と離れたくなくて、リビングに座っている彼の隣に座って手を握る。
「桜子、もう寝よう?」
「ヤダ。もっと一緒にいたい……」
ワガママを言う私に彼はため息をつく。
「付き合って六年ほど経つのに、君は付き合いたてみたいな事してるくよね」
「だって好きなんだもん。高校生の時からずーっと好きなんだもん」
「それはこっちもだけどさ。俺も君の事好きで離れたくないけどさ、お互いの部屋戻って寝ようよ」
「……ヤダ」
「困ったなぁ……どうしたら寝てくれるの?」
困り果てた表情を浮かべ、こちらに視線を向けてきたので、その目をジッと見つめる。
「まだ目が冴えて寝れない……だから運動したいな。二人でする"運動"」
「えっ、それって……」
彼の頬が赤くなっている。そして私も期待と高揚感で同じように。
そして私は彼と席を立ち、彼を倒してそのまま……
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「どう?気持ちいい♡?」
私がチキンウィング・アームロックをかけていると、彼は呻き声をあげている。
「いだいよ……軋む、腕が……肩が……ぐぅぅ……」
「長年の夢がようやく叶った。誰かにプロレス技をかけること……夢を叶えてくれてありがとう。愛してる、良雄さん♡」
「あいしてるならやめて……お、折れるっ……!ギブッ、ギブ!」
「え、愛してるって?嬉しい……♡」
「ギブって言ってんでしょ!?耳遠いの、ねぇ!!」
「夜は始まったばっかりだよ?もっと楽しみましょ、良雄さん♡」
「たのしくねぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
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昨日はあとの後も、彼に思いつく限りの技を決めた。
彼も私の"愛情"への耐性がついたのか、最近は体付きもガッシリしたように思える。
とはいえ、夜中に騒ぎすぎた。
私達の住んでいるマンションは、三階の角部屋で306号室。
隣は一部屋しかなく、そういえば引越しの挨拶も済ませていなかったので、昨日の騒音の謝罪を込めて、日曜日の昼間に隣の305号室へ。
二人で玄関の扉の前に立ち、インターホンを押そうとした時、手書きで【水谷】と紙に書かれた表札がインターホンの上に貼られていたので、高校時代の頃を思い出した。
「水谷……そんな奴もいたね、良雄さん」
「懐かしいね。まぁ別の人だろうけど挨拶しとかなきゃね」
私がインターホンを押すと、中から女性の声で「どなたですか?」と聞こえてきたので名前を名乗ると、扉がゆっくりと開く。
そして私達の目に飛び込んできた人物、それは……
「桜子さん、良雄さん、お久しぶりです。六年ぶりですね……正確に言えば六年と21日振り、ですがね」
水谷……高校時代、私のストーカーをしていた水谷 ミキが現れ、私達は唖然とした表情を浮かべて、用意していた粗品を床に落としてしまった。
「どうしたんですか二人ともそんな顔して?あ、そう言えば昨日の夜はお盛んでしたね……」
「いやいや、ちょっと待て!お前なんでここにいるんだよ!?」
ようやく正気に戻って、部屋から出てきた水谷を再度観察するが、高校の時と風体も何もかも全く変わっておらず、まるでタイムスリップしてきたようであった。
「たまたまですよ、たまたま。それに別部署ですが、私が桜子さんと同じ会社に入社したのもたまたま。そして部屋が隣同士で、引越してきたのもほぼ同時期なのもたまたま……」
「んなわけねぇだろ!このストーカーが!」
声を荒らげると、彼女は目をうるうるとさせ、今にも泣き出しそうになっている。
「桜子さん、そんな……褒めないでください」
「褒めてねぇよ!この変態メガネ!」
「嬉しい……///」
前言撤回、ぜんぜん変わってないと言ったがあれは嘘。
高校時代よりもこいつはもっとおかしくなっていた。特に頭。
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そしてこの数ヶ月後、二人の子を引き連れて304号室に【鷲尾】なる夫婦が越してくるのだが、それはまた今度……
やっと訪れた平穏。それは一時的なものであった。
またあの高校時代のようなハチャメチャな日々が……
……でも心の底から嫌ではなかった。
あの楽しい日々がまた始まるのだ──。
そう思うと自然と笑みがこぼれてしまう。
それは隣にいる彼も同じであった。
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これで【完璧美少女、月島さん~実は性格最悪!?~】のストーリーは完結。
次があるとすれば、タイトルはこうなるだろう。
【完璧人妻(予定)、鼈さん】と──。
[完]




