第32話 (最終回) さらば高校生活!そして未来へ……~ラブレターから始まりラブレターで終わる物語~
卒業式。始まりがあれば必ず終わりが来るものだ。
それは高校生活も同様。
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最初にこの高校に入学した時は、特に何も無く卒業し、就職も適当な所を選んで、平凡な生活を送るのかな?なんて考えていた。
そんな思いを胸に、校門前でふと視界に入った女の子……長い髪をなびかせて歩く彼女は凛としていて、僕は一瞬で恋に落ちたのだ。
まさかその約1年後、彼女からこき使われたり、変なあだ名を付けられたりするなんて、当時の僕は思ってもみなかっただろう。
懐かしい、全てが懐かしい……
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卒業式が終わった後の生徒会長室で、様々な思い出をパイプ椅子に座って色々と思い返していた。
外ではまだ在校生と卒業生が最後の挨拶などをしている。
僕もここに来る前に、生徒会の皆と会って軽く挨拶をした。みんな泣いてくれるかな?なんて少し期待していたが、結構あっさり挨拶された後、すぐ解散となったので少し寂しい。
今生の別れでもないし、これくらいが普通なのかと自分に言い聞かせていると、会長室の扉が静かに開く。
「待たせたな。みんなと挨拶してて遅れた、ごめん」
扉の方を向くと、入学式に見た時と同じような、綺麗な長い髪をした女性がそこにはいた。
そして彼女はゆっくりと歩を進め、僕の前にある会長専用の椅子に座り、こちらをジッと見つめていた。
「良雄、今日でこの高校ともお別れだな。卒業式も色々あったが、まぁあれで良かったのかもな」
彼女が無邪気な笑顔を見せている。
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卒業式の中で会長として行う最後の挨拶の時、彼女は用意していた台本を途中で皆の前で破り捨て、裏の桜子……いや、"本当の桜子"として挨拶をしていた。
『もう仮面を被るのはやめる。嘘はもうつきたくない。こんな私を支えてくれてサンキューな、この雑魚ども!』
こんな感じだったか。
皆ドン引きするかと思ったが、一瞬の沈黙の後、拍手や笑い声などで体育館は埋め尽くされた。
それを見て、聞いた彼女は少し涙目になっていたのが印象的だった。
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「見ててビックリしたよ!でも、受け入れてもらえて良かったね」
「そうだな……こんな事なら最初から素顔出しとけば良かったなぁ」
「無駄な苦労だったね桜子。言葉遣いも、最後らへんはめちゃくちゃだったし、笑いこらえるの大変だったよ」
「ああ、自分でもよくわかんなくなってた」
2人揃って笑ってしまう。
やはり桜子といると楽しい。
心の底から笑えて、そして幸せになれるような、そんな感覚……出来ることならこれからも傍に。
◇
ひとしきり笑ったところで彼女が咳払いをして、ここに呼んだ理由を話してくれた。
「ここに呼んだのはメッセージにも書いた『渡したい物がある』からだ……っとその前に、お前にまずは見せたい物がある」
発現し終えた後、持参したバッグの中から赤い便箋を取り出したが、それは見覚えのある物であった。
「え、もしかしてそれって…… 」
「ああ、お前が私宛てに書いたラブレターだ」
「ど、どうしてそれを!?風で流されたはずじゃ!」
「これは水谷が、半年前くらいに偶然見つけたものだ。学校近くの空き家の庭にあったらしく、お前の名前が書いてあるのが見えたから回収したらしい。ちょうど建物の屋根の下にあって、雨風から守られていたらしい」
驚いた。まさかまた僕の前に現れるとは夢にも思っていなかったからだ。
「それで中身は見たの?」
「……まだ。本人に確認とってからと思ってな。その、見てもいい……?」
恥ずかしそうにラブレターで顔を隠し、こちらを上目遣いで視線を送ってくる。
「い、いいよ」
こちらも少し恥ずかしがりながら軽く頷くと、桜子は丁寧に封を開けて、中に入ってある手紙に黙って目を通していた。
待っているこの時間が、なんか凄く居心地が悪いというか、気まずいというか……とにかく、早く読み終えて欲しかった。
しかし、A5サイズの紙3枚分にぎっしり文字を書いたので、今思い返すと、長すぎたかな?と自分自身反省している。
彼女も同じ印象を受けたのか、しばらくして手紙を読み終えると、一言「長い!」と真顔でツッコまれた。
「もう少し簡潔に書けんのか?読んでて疲れるわ!……嫌じゃなかったけど……ま、まぁ?お前の手紙がこんな感じなんじゃないかな?と見越してな、私がお手本となる"ラブレター"を書いてきた。それが今日渡したい物の正体だ」
そう言うと桜子は、またバッグの中を漁り、僕のラブレターと同じような赤い便箋を取り出すと、椅子から立ち上がって僕の方へ持ってきたので、僕も自然と席を立って受け取る。
そしてゆっくりと封を開け、中に1枚だけ入ってある、折りたたまれた手紙を取り出し、それを広げる。
そこに書かれていた文字は一言だけだった。
一言だけ……
『大好きです』
◇
しばらくその達筆ながら、どこか女の子らしさを感じる文字から目を離せなかった。
何分見ていたのだろう、その手紙を元に戻してポケットにしまい、桜子の方を見つめた。
桜子は頬を赤らめ、僕の目をジッと見つめると、手紙と同じ事を口にする。
「大好きだよ、良雄。ずっと前から」
「桜子……」
再度、何分経過したかわからないほど、彼女と見つめあう。あらためて彼女を見ると、綺麗で、そして可愛くて、僕にはもったいないほどの、そんな女性で……
しばらくすると彼女は、ここに入室した時に見せた無邪気な笑顔をして「言っちゃったー!」と叫んでいた。
「もー!君から言って欲しかったのに……なかなか言わないから言っちゃったよ!」
「ご、ごめん……」
「ごめんじゃないよもう!君から最初に言って欲しかったから、良雄の前で1回も『好き』って言ってないんだからね!」
「え、嘘!?1回くらい言ったと思うよ!」
「言ってない!なんなら"この小説を一から読み直して"みろ!1回も言ってないから」
よくわからない事を口にしているが、僕も前に彼女へ好きと伝えた事があったと思うのだが……
そうこうしていると、彼女がゆっくりとこちらに近づいてきて、僕の胸のところに顔を埋めてきた。
「なんで好きって言ってくれなかったの?嫌われたと思って不安だったのに」
「ごめん。桜子って美人だから、僕にはもったいないって思ったり、いざ告白して、勘違いでした!なんてなったら嫌で……」
「意気地なし、鈍感!キスした時点で気づけバカ!」
「本当にごめん……」
「……で、返事は?」
ピタリと僕にくっつきながら、また上目遣いで視線を送る彼女を見つめ、抱きしめながら今の気持ちを言葉にする。
「大好きだよ。もう離したくない」
「良雄……」
そういえば入学した時は彼女と同じ背丈だったが、今は僕の胸のところに彼女の頭があり、この数年間で"成長した"のだなと実感した。
「良雄、好き」
「うん、僕も君が好き」
「嬉しい……もっと言って」
「好き」
「もっと」
「好き」
「まだまだ」
「好き」
「もう一声……」
「好き」
「まだ足りない……」
「好き」
「もういっちょ!」
「もういいでしょ!」
抱きしめながら、こんなバカみたいなやり取りをして、2人でしばらく笑っていると、もう日が落ちてきて、カーテンから覗く景色も暗くなっていた。
◇
「帰ろっか桜子」
「……離れたくない。君だってさっき離さないって言ったし……」
彼女がギュッと強く抱きしめてくる……少し苦しくなるくらいに。
「ここでお別れじゃないんだからさ、今日はこれで解散って事で」
「えー!今日はおばあちゃんに遅くなってもいいって言われたもん!良雄の家で遊ぶ!火音とも遊ぶ!」
「え、何で幼児後退してるの……」
多分深夜テンションというやつだろう、桜子が壊れ始めているので再度、こちらから強く抱きしめ、別れの挨拶をする。
「桜子、明日また会おう。次は"恋人同士"として」
「……うん、約束だよ?」
「ああ」
「なんか不安……誓いのキスして」
「しょうがないなぁ……目閉じて?」
僕の言う通り、彼女は目を閉じている。
そして僕は、ゆっくりと彼女の口元へ近づく……
ここから何分経ったのだろう……覚えていないが、繋いだ手が汗ばんでいた程、キスをしていたのだと思う。
そのまま手を繋ぎ、幸せな気分に包まれたまま、この部屋を後にする。
ありがとう、そしてさようなら。鴻巣第一高校───。
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高校二年から始まったこのストーリー。
まとめるならこうだろう。
《ラブレターから始まり、ラブレターで終わる物語》
でも2人の人生はここで終わりではなく、むしろここから始まるのだ。
愛すべき彼女と共に……
[完]
【近日公開予定】
無事に良雄と結ばれた月島 桜子。
しかし、この物語はここで終わりではない!
彼女がいつから彼を好きになったのか、そしてあの時どう思っていたのか……全てが明らかになる新章【桜子編】、全3話予定!
お楽しみに!




