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第31話 大学受験に間に合わない!?~315~

 高校の主なイベントが終了した頃、桜子は学校推薦で大学に合格した。


 合格した大学は鴻巣大学で、偏差値は県内トップ10に入るほどの大学だ。


 最近設立されたという事もあり、校舎は綺麗で、学校の見学で見に行った時は感動さえ覚えたほどだ。



 しかし、桜子の学力であれば東京の大学へ楽々合格出来るほどの実力はあったのに、なぜ埼玉にこだわるのか。


 それは、おばあちゃんを1人にさせない為に実家から通いやすいという理由と地元愛があるから、と自信満々に語っていたのを思い出す。



 推薦の合否発表が11月、そして僕が一般で受験するのは来年の1月で合格発表は2月の下旬に行われる。


 通常は高校卒業後に合否発表があるのが普通だが、僕が受けようとしている大学は他とは違う。



 そして僕は必死に勉強した。朝も昼も夜も……



 ◇


 年を越して1月の事。


 今年は2人だけで近所にある神社に混雑を避けるため、1月5日という比較的遅めの初詣を行った。



 2人並んでお祈りをする。彼女と同じ大学に入れますように。と……


 隣で桜子は長い事願い事をしているようで、帰りに何を願っていたが聞いたが「秘密」と言われはぐらかされた。


 しかし、本人は黙っていたつもりだが願い事をしている最中、独り言のように思っている事が言葉に出ていたのだ。


 "彼が同じ大学に無事、入れますように"と……



 ◇


 受験前日。


 一通りの準備をして明日に備える。

 受験票や自宅から受験場所までの案内図などもバッグに入れ準備万端だ。



 後は眠るだけ……眠るだけなのだが寝付けない。


 カチ、カチ……と刻む秒針の音や時折鳴るパキッ!となる謎の音、そして隣の部屋から、火音の怨念のような「お兄ちゃん合格お兄ちゃん合格……」と呟く声……


 どれも気になって眠れない。



 こういう時は羊を数えるのがいいと昔から言われているので羊を数える。


 羊が1匹、羊が2匹、羊が……



 ─────────────────────


 ──────────────


 ───────


「……ゃん……にい……ん!……お兄ちゃん!」


 妹の大声で目が覚める。

 今何時だ……今は8時……8時!?


 ガバッ!とベッドから飛び起き、バッグにしまった案内図に記載されている受験時間を確認する。


 受験開始は10時……ここから大学は駅1つ乗った後、徒歩数十分ほどで、急げば間に合う!



 そこから最高速で身支度を行いながら、朝気が付かなかった桜子のモーニングコールへかけ直す。


「桜子大変だ、寝坊した!」


「えっ!?朝かけても反応ないからもしかしたらって思ってたけど……」


「とにかくまだ間に合うと思うからまた!」



 彼女は何か言いかけていたが答える時間ももったいない。そう思い通話を終了し、玄関の扉を開けようとした時、後ろにいた火音に声を掛けられる。


「何!?」


 焦りから怒鳴ってしまう。

 火音は一瞬驚いた表情を浮かべていたが、キリッとした表情に戻り僕へ言い放つ。


「絶対合格だよ、桜子"お姉ちゃん"と同じ大学に行けるよう祈ってるから!」


 その言葉を聞いて大きく頷き家を飛び出す。



 ◇


 必死で駅へ走る。


 駅へは徒歩10分ほどで、次出る電車に乗ればギリギリ間に合う。


 そして駅まで残り半分という時、足がもつれ前のめりに転んでしまう。



 急いで立ち上がろうとするが、なかなか立ち上がれない。左膝に強烈な痛みがあって立てないのだ。


 コンクリートブロックの壁に背をつけて、履いているズボンを捲り、しゃがんで膝を確認する。


 骨は大丈夫だろうが、血だらけでバッグに入ってあったティシュで拭くが、拭いた後から血が溢れて止まらない。


 しばらくしても痛みは引かず、まだ立ち上がれない。



 そうこうしている内に時間は過ぎていく。もう電車も出発している時間だ……もう間に合わない。



 そして自然と涙が溢れ出てくる……痛いからではない、情けないからである。



 ここまで必死に勉強して、周りのみんなは、僕の合格を心のそこから信じたり応援してくれたのに。



 そして何より桜子、ごめん……



 うずくまって号泣している時だった。


 1台の白い軽自動車が僕の前で停車し、後部座席から降りてきた女性は聞き慣れた声をしており、こちらを心配していた。


「良雄、大丈夫か!」



 ──────────────


 ───────


「バカ!」

 後部座席に座っている僕の左頬に鋭い痛みが走る……


 桜子は、モーニングコールが帰ってこない事に不安を覚え、おばあちゃんに駅まで車をまわすよう頼んでいたのだ。


 そして朝、僕が彼女に電話した時は、もう目指していた駅周辺で、なかなか来ないので僕の家に向かう途中、怪我をしているのを発見したらしい。



 車内で桜子に膝の応急処置を行ってもらい、これで何とか間に合う、と一安心した。


「ごめん、でも助かったよ。何とかこれで」

「バカ!」

 今度は右頬に痛みが走る。


「……本当にごめ」

「バカバカバカバカ!」


 腹部へ何発かパンチが入り、チョークスリーパーを決められる。


「ぐ、ぐるじい……」


「この大バカ野郎!全て無駄になるところだったんだぞ!」


「はい、ずいまぜん……うっ……」



 しばらくしておばあちゃんからストップがかかり、彼女が離れたのでまた謝ろうとすると、目に涙を浮かべこちらを見ていた。


「本当にバカ……これで受からなかったら絶交だ!」


「ごめん」


「もう謝るな、結果で見せてくれ。信じてる……お前が私と同じ大学に入る事を!」



 そして車は真っ直ぐ受験会場へ。


 自分のためにも、皆のためにも、そして桜子の為にも必ず合格を!



 ◇


 月日は流れ2月の合格発表。


 その日は埼玉では珍しく、うっすら積もる程の雪が降っていた。



 合格発表は1人で行くと家族には伝えており、目の前にある合格者の番号が掲示されてある看板を確認する。


 僕の受験番号は"315"番。


 310、312、313、314……次だ、次が僕の番号……315。


 315……その番号を手元に用意していた番号と何度も見比べる。


 そして無言でその場から立ち去り、大学の校門前で小さく「よしっ!」と声をあげガッツポーズをとる。



 合格した……合格したんだ!


──────────────


「その様子だと合格したみたいだな」


 どこからか声が聞こえるので周りを見渡すと、桜子が防寒着を着て、腕を組みながらこちらを見ていた。


「ああ、あった。合格したよ!」


「そうか。受験番号って何番だったんだ?私もこの目で確認したいから」


「315……315番だよ!」


「315……」


 その番号を聞くと、彼女は何やら悩んでいると思ったら、突然吹き出し笑い始めた。


「315……ふふっ……いつぞや聞いた番号……本当に315(サイコー)だな!」



 それを聞いて僕も人目をはばからず大笑いしたのであった。



──────────────


───────


大学にも合格し、残すは卒業式だけ。


色々あった高校生活ももう終わる。長かったような短かったような……



そして卒業式の朝、自宅で制服に袖を通して、この姿で登校するのも最後か、としみじみ思っていた時の事。


スマホに桜子からあるメッセージが。


『鼈 良雄様、あなたに渡したい物がございます。卒業式の後、生徒会長室で待っていてください』


(最終回へ続く)

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