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第30話 文化祭編完結 おとこの娘達の祭典!~遊びじゃないんだ!女装というのは!~

 去年、私は観客として"あの人"を見ていた。


 あの人は男性でありながら女性の衣装を纏い、笑顔を振りまいていた。


 その姿を見て私は一瞬にして恋に落ちる。一目ぼれなど女性相手でもした事はなかったのに……



 彼を追いかけ、同じ個人アイドルグループのメンバーになり、ちょうど1年前にあの人が優勝した女装コンの舞台に立とうとしている。


目指すは優勝のみ。


──────────────


 参加者は私を含めて6名だが、幸いにも他に出場するメンバーは話にならない。


 女装しただけで浮かれているもの1名、ノーメイクで毛の処理などせず、友人と楽しくおしゃべりに興じているもの2名……遊びじゃないんだ!女装というのは!


 男なのに女性の服を着用し、メイクまで施す。そして心まで女性になりきるのだ……



 それがなんだ奴らは!見ていると怒りを通り越して殺意さえ湧いてくる。


 あとの1人もビジュアルは良いが、ウィッグの下から地毛が見えている。なぜネットを使わないのだ!



 ともかく私の勝ちは揺るがないだろう。青のチャイナドレスを着て奴らを見下していた時だった。



 私達の後ろからコツ……コツ……とローファーを履いた人がゆっくりとこちらに近づいてくる。


 この学校の女子生徒の制服を身につけ、ウィッグは黒のロング、茶色のカラコンを入れた彼……いや、彼女を見た参加者全員は同じ事を思っていただろう。



 可愛すぎる……!と……



「も、もしかして田中さんですか?」


 ある女装した男子生徒が質問すると彼女は静かに頷く。


しばらく見惚れていたが、我に返り彼女へ煽りをかまそうとした。


「へ、へぇ。田中さん、よくここまで仕上げて……」

「MERCURY☆さん、今の私は"Jupiter#"なので。田中はここにはいません」


 鋭い目つきをして私を睨む……その姿さえ可愛く見えてしまう。


「私は勝ちます。他の方を舐めている訳ではありません……勝って、この勝利を報告したい人がいるんです。だから負けません、誰にも」


 彼はそう言い残しステージ裏からどこかへ姿を消した。



 脳裏に浮かんだ言葉、それは"彼女には勝てない"だった……



 ─────────────────────


 ──────────────


 ───────


「お兄ちゃん来てたんだね」


「ああ。田中君と有馬君が出るからね」


 体育館の入り口近くで女装コンの様子を普段着で見ていると、妹の水樹がこちらに来たので一緒に観覧する事にした。



 女装コンは4人目まで終了していたが、どの人もウケ狙いで見ていて個人的に腹が立つ。女装は遊びではないのに……


 しかし5人目には優勝候補の有馬君が登場する。


 そして名前がコールされ、有馬君改めMERCURY☆は元気よく、そして笑顔で登場したが、直ぐに違和感に気がついた。


 無論それは俺達のプロデューサーをしている水樹も……笑顔が引きつっている。



 しかも彼は地声が低く、予め入力しておいた自動音声を使用してその声と動きを合わせるのだが、ワンテンポズレていたり、曲が始まっても振り付けのミスが多い。


「お兄ちゃん、どういう事?有馬君って結構ミス少ないイメージあったけどこれって……」


「わからない……わからないけど、何かに怯えている感じがする」



 盛り上がっている生徒達にはわからないだろうが、一緒に行動してきた者から見れば、足と手が少しだが震え、汗の量も通常の時と比べて多い。



 一体何に怯えているのか……


──────────────


───────


『みんな、ありがとー!』


 自動音声がスピーカーから流れると、生徒達は歓声と割れんばかりの拍手を送る。


「次が最後ね」


「そうだな。田中君……"Jupiter#"になれているのか、はたまた……」



 しばらくして田中君の名前がコールされると、また拍手や声援が鳴る。


 しかし、しばらく経っても田中君は現れない。


 会場がザワザワし始めた頃、ステージ脇からゆっくりと田中君が登場する。



 ステージの中央へ移動した後、無言で立ち尽くす。

 その姿は女性にしか見えない……


 皆言葉を失い、沈黙が流れる……そして俺は理解した。



 そうか!有馬君が怯えていたのは"彼女"だったのか!と───



 全員が何も喋らず彼女へ視線を向ける。

 気まずいとかそういう事ではなく"見惚れて"しまっているのだ。



 そして田中君も何も言葉にしない。

 笑みを見せず、一点をただ見つめ沈黙を貫く。


 しかしその表情も可愛らしさもあり、同時に美しささえ感じてしまう……


 可憐だ……今の感情は、美術館で芸術品を鑑賞している気持ちに似ている。



 そして数分後、深く一礼をすると彼は180度向きを変え、ステージ脇へ消えていった。



 しばし沈黙が流れていたが、誰かがパチパチと拍手をし始めると、それにつられまた他の誰かが……体育館の中は拍手の音に包まれ、男子生徒からは『結婚してくれー!』と騒ぐ者もいたくらいだった。


 そして俺は悟る。優勝者は決まったな、と……



 ◇


 クラスでの片付けも終わり、女装コンの優勝商品を手に彼女の元へ走る。


 文化祭も終了し、体育館では生徒会の人達が後片付けを行っていた。



 そして体育館の扉を勢いよく開けると、会長はステージ上で良雄君と話していたので急いで駆け寄る。


「会長、約束の優勝商品です」


「おお!……ってあなた、田中君ですよね……?」


 会長は女子生徒用の制服を着たままの僕をジロジロと見てくる。


「この姿を見せたい人がいて……小鳥遊先輩来てたと思うんですけど、どこにいるか知ってます?」


「小鳥遊先輩なら帰りましたけど……」


「そっか……わかりました。じゃ、月島会長と良雄君。お2人共幸せにね!」


 2人に笑顔で手を振りながら体育館を後にする。



 月島会長の事は好きだったけど、今は別に好きな人ができた。それに2人を見ているとお似合いのカップルみたいで僕の入れる隙間なんてない。



 好きでした月島会長……僕は新しい恋に生きます。



 ◇


【小鳥遊駄菓子】に到着すると、中では普段着を着用した有馬君とメイド服を着た小鳥遊先輩が店内で立ち話をしていたので駆け寄る。


「はぁはぁ……先輩、それに有馬君……探したよ……」


 しばらく走っていたので息がきれて上手く話せない……


そんな私を彼らはじっと見つめていたが、しばらくして有馬君が笑顔でタオルを差し出してくれた。


「ほら、これで汗拭いてください。美人が台無しですよ?」


「あ、ありがとう……」



タオルを受け取り汗を拭く。


「まさか田中先輩があんなに可愛くなるなんて思いませんでした。僕の完敗です」


「い、いや!有馬君も美人で凄く良かったよ。本番ではあんな事言ったけど、本当は自信なかったんだ」


「そうなんですね……そういえばなんで女子用の制服着たままなんですか?」


有馬君に質問され思い出した、ここに来た理由。



先輩の前へ歩み寄り、手をギュッと握り心に秘めていた事を言葉にする。


「せっ、先輩!僕……ううん、私、先輩の事好きになりました!大好きなんです!」


小鳥遊先輩は最初は満面の笑みを見せていたが、次第にその表情は引きつっていく。


隣にいた有馬君も同じような表情をして、しばしの沈黙が流れる……そして有馬君も小鳥遊先輩の空いている手をギュッと握る。


「僕は田中先輩よりも小鳥遊さんが好きです!1人の"女性"として!」


「いや、私の方が好き!小鳥遊先輩付き合ってください!」


「田中先輩はちょっと可愛いからって調子乗らないでください!僕は同じメンバーだし、誰よりもこの人の事を知ってます。だから小鳥遊さん……僕と……」



そう言いかけた時だった。


店に勢いよくガーリー系の服を着た小さな男の子、もとい"おとこの娘"が入店してくると、いきなり小鳥遊先輩に抱きついた。


「おねーちゃん、全部表で話は聞きました!僕が1番おねーちゃんの事好きだもん!」


一瞬、誰?とも思ったが、よく見ると前に先輩から見せて貰った写真に写っていたplANeT♪☆♡のメンバーである七熊君だと理解した。



そして数分間、私達は言い争う……その間、小鳥遊先輩は身動きひとつせずジッと見ているだけだった。


そして3人で声を揃えて質問する。


「先輩、誰が1番好きですか!?」と……



先輩は困っていたが、アイドルスマイルを見せて「ゆ、悠亜はみんなのアイドルだから彼氏は作りません♪」と言い残し、ものすごい勢いで店から逃亡する。


そして商店街を駆け巡り追いかける私達……恋のライバルは多いがこれからも彼女を私は追っていくつもりだ。



新しい恋は始まったばかりなのだから。

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