第29話 文化祭編2 愛する人の為に!田中対"plANeT♪☆♡"
【前回のあらすじ】
文化祭で行われたミスコンは水谷が優勝、次の生徒会長へなる事を決めて決意表明をするのだった。
次はプロ野球の観戦チケットが優勝商品になっている"女装コン"だが、生徒会に女装のプロはもういない。
果たして誰が出場するのか……
「田中君、2人っきりで話したいことがあるのですが……来ていただけませんか?」
憧れの人からの呼び出し……美人で性格も良い月島さんへラブレターを出したのはいつの日か……
そのラブレターを渡した校舎裏の更に人気のない場所へ呼び出される。
照れているのかこちらを一向に見ようとしない……こんな日が来るなんて夢のようだ!そう思い彼女からの言葉を待つ。
そして彼女は振り向いて言うのだった。
『女装コンに出てくれ』と……
─────────────────────
──────────────
───────
状況も理解できないまま9月のある日、駅から少し離れた商店街にある駄菓子屋の前に来いと言われた。
今は昼頃で暑いし早く帰りたい、月島さんからは『ここで13時になったら中に入って買い物をしてください。これから起きる事は他言無用で、話せば……』と意味深な発言をされ、よく分からないままここで約束の時間まで待っている。
そして13時ピッタリにその駄菓子屋へ入店、中は至って普通の駄菓子屋と言う感じで特に特別凄いところはなかった。あるひとつを除いては……
「いらっしゃいませー♪……あー田中君だ!久しぶりー♡元気してた?」
中にいた店員さんと目が合うと一目散へこちらへ来て手を握られた。
……可愛い!服装はメイド服で顔は文句のつけようがないほどで、握られた手は白の手袋をして少し多少大きめで、金髪も偽物なのはわかるが、それ以外は何も文句がつけようがないほどである。
しかし、こんな可愛い子を見たら忘れるはずないのに"久しぶり"とはなんなのだろうか?
しばらく握手して、彼女から放たれるいい匂いと甘い声に癒されていると、店の奥から鴻巣第一高校の制服を着た小さめの女性が現れこちらに近づいてくる。
「えっとあなたが田中先輩ね、初めまして。私小鳥遊 悠斗の妹、小鳥遊 水樹と言います。お兄ちゃんと去年はいい勝負したみたいだけど……確かに光るものは感じるわ、よろしくね」
小鳥遊、去年いい勝負……色々なキーワードがパズルみたいに頭の中で組み立てられ、ある人物が浮かぶ。
その人物とは……
「あー!去年女装コンに出た小鳥遊先輩!って事は……目の前にいるのって……」
「そうだよ!私、"男"だよ♡」
◇
場所を2階の部屋に移し、詳しい事情を説明された。
今回の女装コンは去年と同じ、優勝すればプロ野球の観戦チケットが貰えるというもので、僕も去年それ目当てでダメ元で出たのだ。
そしてそれを月島会長が欲しがり僕に白羽の矢が立ったのだが、去年の優勝者である小鳥遊先輩にアドバイスをもらった方がいいと考えたらしい。
そして小鳥遊先輩は"EARTH"名で女装コンに去年出場したが、ネットでは"MARS♪"として、おとこの娘のコスプレイヤーとして活動する傍ら、"Mars♪"として地元密着型個人アイドル"plANeT♪☆♡"を結成しているようだ。
僕自身"plANeT♪☆♡"は名前自体目にした事があり、SNSサイトのYutterでフォロー数2万人ほどいる個人アイドルだ。
それがまさか男性、それにメンバーみんなも……
それを耳にして開いた口が塞がらなかった。
「あ、月島会長から言われてると思うけどこの事は他言無用!言ったらplANeT♪☆♡運営者である私から正式に出るとこ出るから覚悟しといて!」
真顔で水樹ちゃんが語っているが運営とは……そして訴えられてどうなるのかよくわからないが、面倒な事に巻き込まれそうなので詮索するのは止めよう。
そして本題に入り、悠斗……今は"悠亜"さんらしいのだが"彼女"から説明があった。
「文化祭がある本番まで数ヶ月、これから私のところに週一回でもいいから来て欲しいの。そして女の子らしさを磨いて優勝しましょう!」
「それはいいんですけど僕、女装向いてないと思うんですが……」
「いや、下地は十分よ。女装映えする要素はあるし、去年は誰のアドバイスも受けないでの2位でそれなりの点数を取ったっても聞いたわ。残念ながら声は男性って感じだけどそこは安心して、無口キャラにするから」
「不安しかないんですが……」
「まぁとりあえず着替えてみましょ!お兄ちゃん、お願いね!」
「よーし!plANeT♪☆♡のメンバーになってもおかしくないような”おとこの娘”を作るぞー♪」
こうして僕は無理やり着替えされられるのであった……
◇
「こ、これが僕……」
小鳥遊先輩の部屋にある姿見で自分を見て驚愕した……衣装は小鳥遊と同じメイド服だが、メイクもバッチリされ眉毛や毛の処理などもされて、鏡に映るのは女の子……と言われても信じるような出来栄えであったのだ。
「うんうん♪可愛いよー♡」
「そ、そうですかね……?僕似合ってます?」
「凄いよ♪まだ動きとか男の子みたいだけどこれからだからねー♪あと女装したら一人称"私"ね♡」
「ぼ……私……うわぁ、なんか恥ずかしい……」
この時、心の中で何か違和感を感じた。
何かが崩壊、もう戻れなくなるような、そんな感じ……
一言で言えば"目覚めた"らしい……
◇
それからは学校が休みの土曜日に先輩の家に赴き、ダンスのレッスンを受けたり、『女の子らしいとは何か』と水樹ちゃんに指導されたり、文化祭一ヶ月前には完璧と言っていいほどの完成度で、日常生活でも内股になったり、座り方が俗に言う”女の子座り”になってしまうほどだった。
これで女装コンは頂きだ!
そう思っていた矢先、事件がおこる……
◇
それはいつもの練習中、外で小鳥遊先輩と共にメイド服でダンスの練習をしている最中であった。
「完璧だよー!田中君改めて田中ちゃん♪」
「えー本当ですか、やったー♪……ってすっかり先輩の口調移っちゃいました、えへへ♡」
「その方が可愛いよー♡」
〈ふっ、呑気なものですね"Mars♪"……〉
私達がイチャイチャしていると、遠くの方から低い声で悠亜さんを呼ぶ声がする……声の方を向くと、そこには青いドレスと青いウィッグを身に着けた"plANeT♪☆♡"のメンバーである"Mercury☆"がいた。
「ま、Mercury☆!何故ここに……」
「先輩が他の子に浮気してる、とメンバーであるUranus♡から情報が入りましてね。見てみればその子に入れ込んでるそうで……私達を放って他の子に"浮気"とは……許せない!そう思って私、彼を倒そうと思ったんですよ!出ますよ、私も!」
ビシッとMercury☆さんから指をさされ、私は一瞬ビクッとしてしまう。
実物を見て思ったのだが、この子は綺麗で美人だ……一瞬ドキッとしてしまったくらいに。
こんな子に勝てるのか不安しかない……でも小鳥遊先輩達と練習してきたこの数ヶ月を無駄にはしたくない!
負けたくない……ここまで勝敗にこだわる事は人生でなかったかもしれない。
「Mercury☆……わかったわ!私、この勝負うける!あなたは確かに美人だけど……絶対負けない!」
「ふっ、本番を楽しみにしてますよ田中さんとやら……いや、今の状態は"Jupiter♯"と名付けておきましょうか。オーホッホッホ……」
高笑いして彼女は去っていく。
そして小鳥遊先輩と目を合わせ誓い合うのであった。
『私達で優勝を!』と……
(文化祭3へ続く)




